第85話 形態変化
「神代の頃に、一部の神が使っていた雷魔法と似ているな。
キサマら人間が、どうしてそのような使い方を」
斬り裂かれて再生する鱗を見て、魔神がクレアたちを睨む。
魔神と視線が合ったときには、クレアが聖遺を
剣での攻撃で斬り裂かれたとはいえ、聖遺の威力は依然として注意を払うべきもの。
魔神は投げられた聖遺を回避するが、その隙にクレアは再度距離を詰める。
聖遺を回避して視線をクレアに戻した魔神は、その現象に意表を突かれた。
クレアが左手を横に伸ばすと、今さっき回避したはずの聖遺が具現化している。
魔神の注意を引きつけるのに一番効果がある聖遺をわざと投げて隙を作り、なおかつそれを利用する。
これはユスティアがベヒーモスと聖遺で戦ったのを見て、真似たものだった。
ユスティアが聖遺を投げ放った技は、あの聖遺特有の能力。
だが突き刺さっていた聖遺が消え、ユスティアの手元に戻ったのはそうではない。
そしてもう一つ、これと似た戦術を取っていたのがルイだった。
通常
だがルイは、雷属性を使ってある程度武器をコントロールしていた。
ルイがやっていたことがどういう原理なのかクレアにはわからなかったが、聖遺であれば同じことができると考えていた。
そしてそれは、魔神にさらなる隙を作ることになる。
剣では届かない間合い。
クレアは左から聖遺で払うような動きをする。
それを見た魔神は強靭な爪を振るって迎撃するが、クレアはそこからさらに間合いを詰めた。
空振りさせられた魔神の視線は、剣での間合いに侵入してくるクレアを見ていた。
ここまでくるのに、隊長になってから半年以上の月日が経っている。
ルイとカースナイトの戦いを見て、クレアは不甲斐なさを感じていた。
ワイズロアではルイを一人で魔物の軍団と戦わせることになり、続く魔神との戦闘ではルイ以外には戦える者すらいない。
ルイを戦場へと連れ出しておきながら、一緒に戦うことができなかった月日。
それがやっと、クレアの剣が届くまでになる。
左腕を振り下ろしていることで、核への剣筋はない。
すぐに再生されることはわかっているが、クレアは視界を奪う選択をした。
透き通った氷の刃が、魔神の首に迫って振り抜かれる。
クレアの剣は弾かれるようなこともなく、魔神の首を斬り落とした。
切り口は氷剣の斬撃によって一瞬ではあるが凍結し、魔神の再生を遅らせる。
クレアとすれ違いで、魔神の背後からアランが斬り込む。
魔神は落ちた首が地面から、アランの動きを捉えている。
腕を振り回すように回転して、魔神の身体がアランの剣を防ぎに動く。
だがこれは、アランの想定していた範囲でもあった。
ワイズロアではルイが魔神の首を落としていたが、落とされた首がルイの動きを捉えていたからだ。
アランはクレアと同じように魔神の爪をやり過ごし、魔神の首と身体が一直線上になるように動く。
すべては無理だが、これで剣筋が多少死角になっていた。
アランは核となる心臓の魔石を狙うが、魔神は回避の選択肢を捨てて核を腕でガードしている。
アランはここで急ぐようなことはせずに、着実に攻める選択肢を取った。
相手は魔神だということと、アランは一人で戦っているわけではないのだ。
スピードでは負けておらず、手数も二人で押している。
冷静に状況を見極め、核をガードしている腕を斬り落としにいく。
「――!」
アランが振り下ろした剣は、魔神の腕を斬り落とすまでに至らない。
魔神の鱗がさっきよりも黒くなり、腕半分を斬ったところで止まる。
すぐにアランはその場から距離を取ると、魔神の身体が首の後ろへと下がった。
クレアが再度仕掛けようとして止まる。
「ワールキャステル」
クレアは自分とアランの目の前に、氷壁を発現させる
落ちている魔神の首が、口から青い炎を吐き出していた。
まさにドラゴンの炎という火力でありながら、聖都を襲った魔神と同じ青い炎。
クレアは氷壁が青い炎で溶けるのを、魔力で再生して防ぐ。
その青い炎が止んだときには、魔神の首は元の場所に戻り、アランがつけた腕の傷も再生していた。
「魔神レベルであの再生力は厄介ですね。ルイはこんなのを相手にしていたとは」
アランが魔神を睨んで言う。だがそれで気後れするようなことはない。
魔神の赤い目がクレアとアランを見据えると、鱗に変化が起きた。
身体中の鱗が逆立つように立ち、鋭利な刃のようになっている。
あれではかするだけでも肉が抉られるような形態であったが、それを見てもクレアたちは変わらない。
「ですがルイさんは、私たちにこの場を任せて離れたんです。私たちであれば、魔神と戦えると」
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