第54話 キマイラ
ユスティアがキマイラが発現し続けている魔法に向かって、端から手を滑らせていく。
「フレイムバースト」
火と風属性の複合、豪炎魔法。
連鎖的に炸裂する炎は宙を走り、キマイラが発現していた魔法を端から相殺してしまった。
「クレア、私が一体受け持つから、あなたたちで一体やりなさい」
ユスティアはクレアに指示し、一人先に前に出た。
さすが神騎と呼ばれているだけあり、身体強化もクレアたちを超えている。
精霊魔法もさることながら、聖遺も召喚できることを考えれば、たしかにユスティアは神騎という称号を持つだけの騎士だった。
「インパクト!」
ユスティアが巨大なインパクトを放つと二体は回避したが、一体のキマイラが衝撃で吹き飛ばされる。
「二人は右のをやりなさい」
グロウとシャインに一瞬止まって指示を出し、ユスティアは二体のキマイラの間を抜けていった。
「アイツらで相手できるのかよ!」
「神騎に言われたんです。サッサと右のを片付けて行けばいい。
神騎の弟子がいるんですから、時間稼ぎくらいはできるでしょう」
シャインが二体の間に魔法を発現し、キマイラを強制的に分断させる。
「エクスプロージョン」
光が現れたかと思うと、それはすぐに爆裂する。
爆風の影響もあり、二体のキマイラは大きく距離を取らされていた。
「フレイムランス」
アランが一本の炎槍をキマイラに向けて放つ。
それを見たキマイラはすぐに回避行動を取り、同じようにフレイムランスを放ってきた。
その数は八本。とっさに発現した魔法の数としては多い。
多少スピード重視で威力が落ちていたとしても、Sランクに設定されている魔物であった。
「スヴェル」
ルイは神聖魔法の盾を四つ発現させ、刀を太刀から打刀へと持ち替える。
キマイラのフレイムランスがルイたちを襲うが、ことごとくがルイたちに届く前に燃え散った。
アランがそのままキマイラの正面から刺突を放つが、これをキマイラは後ろに飛ぶことで回避。
だがその着地のタイミングで、背後から広範囲のジャベリンがキマイラに降り注ぐ。
それを尻尾の蛇が捉えていて、同時に土魔法の壁が出現した。
クレアとアランは、左右前方から二人でキマイラに迫る。
エリスはキマイラの魔法が防御に回ったことを確認して、すぐにルイの斜め後ろに位置をズラしていた。
たとえルイへの攻撃にキマイラが移ったとしても、この位置関係によってルイは回避という選択肢が残る。
エリスの状況判断は、相手がキマイラであっても落ち着いているといえた。
そしてエリスが考えた可能性は、キマイラが選択したものになる。
左右から二人を相手にすることを嫌ったキマイラが、二つの土壁をハの字で発現してその間を抜けてきた。
クレアたちの動きがキマイラに遅れる。
二人はキマイラが発現した土壁を蹴って後を追うが、その一瞬の間は間合いという部分で届かない。
キマイラの知能なのか、それとも魔物の本能がなせることなのか。
どちらにしろ、キマイラの取った動きは最善と思われるものだった。
ルイは迫るキマイラから回避行動は取らず、神聖魔法の盾を発現する。
振り上げられたキマイラの爪がルイの盾で防がれると、次の瞬間キマイラは宙に浮いていた。
「ウォーター」
キマイラが攻撃したタイミングで、それを見ていたエリスがキマイラの真下から魔法を放つ。
それは時間を稼ぐために放たれた魔法。
ルイは回避ではなく、防御という選択をした。
回避であれば、位置関係が崩れてキマイラが周囲を囲まれている状況が変わる。
だがルイがキマイラを押さえることで、その状況を留めることができるのだ。
そしてエリスは、そんなルイの判断を理解していた。
エリスの魔法によってキマイラが宙に浮かされたその一瞬は、クレアとアランがキマイラを間合いに捉えるだけの時間をもたらす。
アランより一歩分早いクレアがキマイラを間合いに捉えると、尻尾の蛇がクレアに向かって伸びる。
クレアはそれを予測していたかのように、蛇の側面へと回避して斬り落とした。
悲鳴とともに、キマイラの意識がクレアの方へと向く。
それと同時に、今度はアランが右後ろ足を両断した。
次々と別角度から攻撃を受けるキマイラは、その度に意識を持っていかれる。
それはキマイラの致命的な反応になってしまう。
クレアとアランに意識を向けてしまったキマイラは、目の前にいたルイに無防備になってしまっていた。
意識が逸れているキマイラの首を、ルイの刀が一閃する。
悲鳴すらあげることもなく、キマイラの身体はその場に倒れた。
ルイがユスティアの方を見ると、すでにキマイラを片付けたあとでこっちを見ていた。
どうやら早々にキマイラを倒し、ルイたちの戦闘を観察していたらしい。
ルイたちもキマイラを倒すのに時間がかかったわけではない。
四人がかりだったというのもあるが、むしろ早いといえる。
そのルイたちよりも一人で先に終わらせたユスティアは、確かな実力を持っているようだった。
その後ワイバーンも無事に討伐し、任務は明け方前にすることになった。
乱戦での高ランク任務になったため、疲弊した状態で森の探索を避けるためだ。
クレアたちが焚き火を囲い、紅茶を飲んでいる。
そこには当然のようにユスティアがいて、さっきの戦闘でのことを訊いてきた。
「二人とも随分実力が上がったみたいね」
「本当ですか?」
「ありがとうございます!」
神騎であるユスティアの賛辞ということもあり、二人はうれしそうにしいている。
「私が想定していたよりも早く成長していたわ。誰かに特訓してもらった?」
クレアとアランとは対象的に、ユスティアの表情は真剣だった。
いつもはふざけた感じのユスティアだが、時折こういう顔を見せる。
青い瞳が、見定めるような視線をクレアたちを見ていた。
「私が隊を持ってから、ルイさんに魔力コントロールを見てもらっています」
一瞬視線がルイに向けられるが、ユスティアはさらに質問を続ける。
「ルイくんって、ただの班員ではないんじゃない? ちゃんと見たわけじゃないけど、たぶんルイくんの実力は高いでしょ?」
「えっと、実はルイさんは軍の騎士ではないんです」
「どういうこと?」
「私が専属で迎えた騎士なんです」
クレアの言葉を聞いたユスティアの目が、一瞬大きくなってルイを見る。
そのあとなにかを考えているようだったが、少しして口を開いた。
「これから私も、クレアの隊に同行することにするわ」
「え! 先生がですか?!」
「ええ、これからよろしくネ」
ユスティアの言葉に驚いていた一同と関心なさそうなルイに、ユスティアはウィンクをして楽しそうにしていた。
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