第52話 エルフの魔法

 聖都から西に位置する山のふもとには森が広がっている。

 この山のふもとに流れている川は国境となっていて、山の向こう側にはブルクが。

 そこから南にはヴァントシュタットがある。


 セイサクリッドとブルクの間にある山からは、魔石や鉱石が発掘されている。

 今回の選抜編成による任務の場所は、この山に繋がる森。

 この森は通常Bランクの魔物くらいまで現れるとされているが、Sランクの魔物が複数目撃されたことからの任務となっている。

 森の外で休憩を取っていると、ユスティアがルイに声をかけてきた。



「珍しいわね。あなた刀を使うのね」


「今日からだけどな」



 ルイは今回の任務から二本の刀を帯刀している。

 一本は刀身六七センチで腰にある。

 この刀は打刀うちがたなと呼ばれるもので、一番日本人がイメージしやすい刀だ。

 もう一本は刀身九〇センチの太刀たちで、こっちは背中に背負っている。


 銀の鍛冶屋のゾラによって打たれた刀は、銀九〇%で打たれたものだ。

 銀は魔力に一番敏感な金属とされるが、同時に一般的に使われる鉄や合金よりも強度が低い。

 そのため、身体強化による強化次第で強度が大きく変わる刀だった。


 だがそれは、刀だけではなく鎧もだ。

 二振りの刀だけで三〇万リルと高額だったので、鎧に関しては適当に間に合わせでルイは済ませるつもりだった。

 だがクレアがそれを止めた。自分の専属という立場もあるからと、クレアの持ち出しで鎧も揃えたのだ。



「綺麗な刀ね」



 ユスティアの感想には、ルイも同感だった。

 なんとなく黒っぽい無骨なイメージを刀に持っていたルイだったが、受け取った刀は華やかさを持っていた。

 一般的な剣よりもわずかに白っぽく、刀身には突き技で刀が抜けやすくするために青い一本のラインが彫刻されている。

 刀身こそルイの知っている刀であったが、つばつか部分のデザインはガイアの剣に近かった。

 とはいえ、ユスティアはさやに収まっている状態でしか見ていないので、刀身までは見ていないのだが。



「そんな玩具みたいな剣で戦えるのか?」



 不機嫌な声をかけてきたのは、三騎士の一人であるグロウだ。

 今回三騎士のグロウとシャインが部隊にいたのだが、グロウはルイが選抜に選ばれていることが気に入らないようだった。

 聖騎士で選ばれているのはルイだけで、聖騎士が選ばれていること自体も気に入らないらしい。

 さらに神騎であるユスティアが、クレアたちの師匠であることもあってなにかと来るので、それが余計に気に触っているようだった。



「三騎士がなに後輩に絡んでるのよ。弟子の班員なんだから、ちょっかい出さないで!

 あんまり絡むなら、私が動けなくしちゃうわよ?」


「……ッチ」



 ユスティアが間に入ったことで、グロウは舌打ちをして離れていった。



「ワイバーン!」


「「「「「――!」」」」」



 誰かが大声でワイバーンが現れたことを叫ぶ。

 ワイバーンはSランクに設定されている魔物。

 他のSランクや、Aプラスに設定されているカースナイトよりも脅威というわけではない魔物だが、空からの攻撃をしてくるのが厄介であった。

 もちろん竜種であるため、脅威ではないなんていうことはあり得ないのだが。



「ルイは風の魔法は?」


「俺は聖騎士だぞ?」


「そうなのね、わかったわ。クレア、行くわよ」


「はい、先生」



 ユスティアとクレアが、大気を操作する風魔法のレオールで空へとあがっていく。

 他の班からも次々と空へとあがり、それは隊の一/三ほどになった。

 エリスはすぐにワイバーンとルイとの位置関係を確認して動く。

 すぐに戦闘への思考に切り替えができており、ルイが言うべきことはなにもなかった。

 ルイも背中にある太刀を抜き放ち、臨戦態勢を取る。


 ワイバーンは体躯が四メートルほどで、尻尾まで入れれば八メートルくらいの個体がほとんどだ。

 それなりの大きさを誇る魔物であるのと空からの攻撃をしてくるため、近接戦闘に向いている打刀ではなく、刀身が長い太刀の方を抜いていた。



「クレア、何体か一箇所にまとめられるかしら?」


「わかりました」



 ユスティアに言われ、クレアがワイバーンに刺突を放つ。

 それを下降して躱すと、ワイバーンが下からクレアを襲いに行く。

 すぐにクレアは旋回してそれを回避し、近くにいたワイバーンに向かっていった。


 空での戦闘は地上とはまるで違う。機敏な動きの制御という点で劣る。

 これは大気を操って身体を動かしているためで、ルイには空での戦闘が戦闘機のドッグファイトのように見えていた。


 クレアが三体目のワイバーンの側面に突っ込み、刺突を肩の辺りに入れて急上昇する。

 三匹のワイバーンが一箇所に固まったタイミングを見逃さず、ユスティアが魔法を使った。


「インパクト!」


 クレアとワイバーンとの間に、突然激しい乱気流が現れる。

 薄っすらと緑がかった境目が見えない乱気流が、クレアを追尾していた三匹のワイバーンを衝撃で撃ち落とした。

 まるで制御を失った紙飛行機のように、三体のワイバーンが落ちる。



 ルイはユスティアの魔法を見て、正直驚いていた。

 インパクトは風の初級魔法で、大気を操って衝撃を与える。

 それは大気であるがゆえにはっきりと見えるようなものではない。

 上級魔法のトルネードなどになると、魔力によって薄っすら緑色が見えるらしいが、ユスティアが放ったインパクトは乱気流と化している緑の衝撃が見えていた。



「珍しいな。先生の魔法に驚いているのか?」


「ああ、そうだな。実際に見たことがなかったから驚いた」


「先生はエルフだからな。精霊の力で魔法の威力が私たちとは違う」



 エルフの魔法は、精霊の力が加わることで威力が増すことはルイも知っている。

 だが実際に目の当たりにすると、その威力に視線が奪われてしまう。

 それをやったユスティアを見ると、ゴシック調のスカートをはためかせながらルイに投げキッスをしていた。

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