第7話 黒と白のステータスカード
ルイが学院に行くと、ここ最近の恒例になっているかのようにクレアが待っていた。
いつもルイが座っている席に座り、綺麗な顔が怒っている。
「なんで一週間も学院に来なかったんですか!」
「……学院からなにも言われていないのに、なんでアンタにそんなこと言われなきゃいけないんだ?」
「それは……そうですが」
「わかったらそこを退いて帰ってくれ」
「そういうわけにはいきません。お話がありますので、午後お時間をください」
「俺はアンタと話すことなんかない」
「迎えに来ますから、絶対にいてください!」
話があると言っている側のクレアが、ぷりぷり怒りながら席を譲ってクラスを出ていく。
本当に面倒なのに関わってしまったとルイは思った。
そして午後の講義が終わると、朝言い捨てていったようにクレアが迎えに来る。
「ゆっくりお話できるところに行きましょう」
「ゆっくりって。要件はなんなんだ? サッサとしてくれ」
面倒そうにルイが言うと、クレアはルイの袖を掴んでズンズンと歩きだした。
朝もそうだったが、どうやらクレアのご機嫌はあまりよくないらしい。
結局そのまま連れていかれたのは、先日ご馳走になった個室だった。
紅茶が用意され、クレアがそれを一口飲んでゆっくり呼吸を整える。
ルイには心当たりはなかったが、クレアの様子からして話があるというのは本当みたいだ。
「ルイさん、私の小隊に入ってください」
「その話か。この前断っただろ?」
「そうですね。ですが今回のお話は、軍に入ってもらいたいということではありません。
メディアス家で、私の専属騎士としてお迎えしたいと思います」
クレアの話に興味がなかったルイも、さすがに驚く内容だった。
貴族の私兵として雇われている騎士はいる。こういった場合の待遇は軍の騎士とほとんどかわらない。
だが軍と違って戦闘をする機会は減る。国として動き、徴兵という形になるとその限りではないが、そんなこと滅多にあるようなことでもない。
しかし専属の騎士とはこの私兵とは違う。軍で言えば大隊長クラスの待遇で、一貴族が召し抱えることになる。
名が通った騎士ならいざしらず、学生を迎えるなどあり得ないことだった。
「月のお給金は一五万リルご用意します。他の公爵家だったとしても、この金額は高待遇だと思いますし、傭兵をされるよりも稼ぎはいいはずです」
クレアの提示した金額は、確かに破格の金額だった。
給仕の給金が、月でおおよそ七五〇〇リル。
軍の一般的な騎士で六万リル。危険度にもよるだろうが、一ヶ月の護衛任務だったとしても一五万リルはたぶんない。
この金額からいってお飾りではなく、本当に騎士としての働きを求めてきていると見てよかった。
「アンタが俺を召し抱えるってことか?」
「私の専属となります。もちろん小隊で動いてもらいますし、小隊での任務が学院の単位にもなるように取り計らいます。
ですが金額が大きいので、私が払えるようになるまではメディアス家からお給金はお支払いします」
「すでに話は通してあるってことか」
「はい、いかがですか? 私のところに来ていただけますか?」
「条件を教えてくれ」
専属の騎士となった場合、クレアが就く任務に必ず同行する。
任務がない場合学院を優先することが許され、小隊の訓練には一/三は参加する。
任務で討伐した魔物に関しては軍が換金するが、場合によってはそれに応じて軍から報奨金が払われる。
この場合はルイも同様に、メディアス家から支払われる。
細かい部分はあるが、基本的に気をつけることはこんな感じだった。
「俺から一つ条件をつける」
「……どのような条件でしょうか?」
「無茶な任務の場合、破棄させてもらう」
「…………」
「一〇回戦って九回全滅するような任務は任務とは言えない。
そんなバカバカしい任務はお断りだ」
「ルイさんですから、どんな条件を出してくるのかと思いました。
わかりました、それでかまいません。ウィリアム、お願いします」
外で待機していたのか、執事が入室して契約書を差し出してきた。
契約を終えると、クレアがイスを移動して隣に寄って座る。
そして、ルイの前に白いカードを出してきた。
「小隊ではやりませんが、専属ですからお互いの能力を把握しておいた方がいいと思います」
差し出されたカードはクレアのステータスカードで、噂通りの色だった。
名前 クレア 家名 メディアス 年齢 二〇歳
魔法属性 水・風 複合魔法 氷
啓示 導き手
以前も魔法を見たことがあったのでわかっていたことだが、二種類以上の魔法属性をクレアは持っていた。
四大属性といわれる火、水、土、風の他に、これらの属性を高いレベルで行使できる者は複合魔法の属性が扱えるようになる。
火と風なら豪炎、火、土、風なら爆烈、水と風なら氷というように。
「噂では聞いたことがあったが、この導き手ってなんなんだ?」
「私にもわかりません。ですが私はメディアス家に生を受け、騎士として人々を守ることが使命です。
人々のために剣を抜くことが、導くことだと考えています」
「そうか」
クレアは絵に描いたような純粋な貴族で、そして騎士なのだとルイは素直に思った。
ここ数日のクレアの言葉を思い返しても、この白いカードのように真っ白で純粋な意志を感じた。
そして同時に、自分とは違うとも思った。
「ルイさんも見せていただけますか?」
あまりルイは見せたくはなかったが、関係上そうもいかないのでテーブルの上に出した。
「――!」
「……」
クレアとは真逆と言えるような黒いカード。
それを見たクレアが、一瞬息を呑んだのをルイは見逃さなかった。
名前 ルイ 年齢 一七歳
魔法属性 **** *
啓示 ******** ***** 神聖魔法 **
ステータスカードを見たクレアが、遠慮がちに問いかけてくる。
「このように内容が隠されているのを見るのは初めてです……。
ルイさんはなにか思い当たることなどはあるのですか?」
「リリスの呪いとかか?」
「そういうのはやめてください! ステータスカードは、女神パナケイア様が授けてくださるものです。
それにルイさんは、神聖魔法の奇跡を扱えるんです。邪神リリスの呪いだなんて言わないでください」
「わるい、ちょっと自虐が過ぎた。教会で授かったときからこうで、俺に心当たりはない」
謝るというには言葉が雑ではあるが、ルイの言葉にクレアはキョトンとしていた。
そしてやさしい笑顔をルイに向ける。
ルイはその笑顔を見て、導き手という啓示がなんとなく理解できるような気がした。
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