第13話・森の巨人
エントというのは誰なんだろうと思っていると、オルに言われた。
「仕方ないな。ヨーコ。もう少しだけ付き合ってもらうよ。僕の爺さんがきみに会いたがっている」
「オルのお爺さま?」
イチリン達を見ていた私は、話の流れについて行けずに曖昧な反応になった。オルはそんな私を縦抱きにすると歩き出した。
イチリン達がお供のように後を付いて来る。オルに連れられていった先は、城の裏手にある森だった。オルがある巨木の前で足を止めたので、彼の視線の先を目線で追い、ぎょっとした。
「きょ、巨人?」
森の奥にひっそりと立つ大きな巨木。樫の木だろうか? 横広がりに枝を広げている木に一人の大男がもたれ掛かっている。樫の葉の深緑色の髪色に、瞳はオレンジ色をしていた。明らかに私の知る常識ではあり得ない光景だ。
その大男に向かってオルが話しかけた。
「エント。ヨーコを連れてきたぞ」
「オル。その子がそうか?」
「ああ」
巨木に体を預けている大男は少しだけ上体を起こした。私はオルが紹介したが一応、自分でも名乗った。本当はオルから降りて挨拶したかったのに、彼がなかなか体を離してくれなかったので、不躾にもオルに抱っこされたままでの挨拶となった。
「はじめまして。陽子です」
「礼儀正しいお嬢さんじゃのう。このわしの姿を見て驚かぬのかね? わしはエント。わしは精霊でこの森の番人と呼ばれておる。この樫の木と一心同体なんじゃ」
「いいえ。結構、ビックリしました。でもオルがこうして連れてきて会わせてくれたので、エントさんは悪い人ではないと思いましたから」
オルがなかなか離してくれない状況を見て悟ったのだろう。エントは私の非礼を責めなかった。そればかりか度胸があると言われて苦笑しかできない。それを見てエントと名乗った大男は言った。
「オルとは長い付き合いだ。こやつが産まれた時から面倒を見てきた。それとそこのイチリンとニリンはこの森の住人。我が眷属でもある。イチリン達は森の妖精よ。オルの城にはこの森から通っている」
「やはりふたりは妖精だったのね。でもエントさんはその木と一心同体って言う事は、動けないんですか?」
エントの説明で私は納得した。初めて会った時からイチリン達は背中に四枚羽があってふわふわと可愛く飛んで移動するので、森の妖精のように思っていたのだ。でも、エントは、彼女達のように動けないのだろうかと疑問が湧いた。
「いいや、体を起こそうと思えばこうして起こせるし、歩こうと思えば歩ける。だが色々と面倒でな。わしが歩きだすと小鳥たちや動物達が騒がしくなる」
「エントさんは人気者なんですね?」
「変わったお嬢さんだ。ミーナ以来じゃな」
「ミーナって?」
エントに聞き返すと、イチリンやニリンが両脇から腕を引っ張る。ミーナという名におやっと思う。ミーナは美奈子の愛称だ。似た名前の人でもいるんだろうか?
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