第11話・幻想的な世界


「ねぇ、オル。あの緑の大きな円形のものは何?」

「あれは採掘穴だよ」

「採掘?」

「あそこはゴブリン達の国。ゴブリン達は宝石を取ってそれを加工して売っているんだよ」


 オルが巨大な円に近付いてくれる。そこは遠目に見た時には緑色の円に見えたのに、大地にぽっかりと穴が空いていた。それが採掘穴と聞いて納得した。穴の壁は削られた形になっていたから。


「じゃあ、あの断崖鉄壁にある町はそのゴブリン達が住んでいるの?」

「いや、あれはケンタウロスの国だよ。彼等は閉鎖的でね、あまり他の国の者と交流したがらない。だからあんな高いところに都を築いているのさ」

「気難しい人達なのかしら?」

「まあね。相手をするのはちょっと厄介でね、……」


 オルは何かを言いかけたのに、私と目が合うと口を閉ざした。それが気になったけれど、私はそれよりも他に気を取られた。


「あ、海。こっちの世界にも海はあるのね?」


 先ほどマーメイドが砂漠の国に住んでいると聞いたので、ここには海はないのかもしれないと勝手に思っていた。でもケルベロスの国を抜けた先に、底が見えるほど透き通った美しい青い海が広がっているなんて思ってもみなかった。


「海を治めているのはサキュバスの王で、彼らは島国で暮らしている。海の中にいくつも島が点在しているだろう? あれに全てサキュバスが住んでいる」

「そう。綺麗ねぇ。白い建物が映えて見えるわ。ねぇ、あの海辺の町は? その先にも赤い建物が広がる一帯が見えるけど?」

「赤い建物の集団はフェニックスの王が治める国だ。鋳物を生業にして暮らしている」

「コブリン達と同じく職人気質なのかしら?」

「良く分かったね? そうなんだよ。彼らのおかげで僕達の生活も成り立っているよ」


 私は夢中になっていた。自分の横顔をオルが凝視していたなんて気が付かずに。


「ねっ、ね。あの空に浮かんでいる島みたいなのはなに?」

「あれは天空の国だよ。ユニコーン達が住んでいる。近付いてみるかい?」

「いいのかしら? 私みたいなのが近付いても。ユニコーンは処女じゃない女性が近付くと攻撃するんでしょう?」


 ユニコーンと聞いて怖気づくと、オルが笑った。


「僕がついているから平気だよ。それに今のユニコーンの王は女性だしね、むやみに女性に危害を加えるのを良いとは思ってないよ」


 オルはさらに高く飛んで天空に浮かぶ島を見下ろす位置で止まった。天空の島は雲海の中にあり、中央にあるお城を中心に城郭が星型に組まれていた。庭園には丸いマリモのような木が幾つもあり、城郭の外は堀に囲まれている。


「幻想的な国ね」

「気にいった? 僕の国も負けてないけどね」


 オルはゆっくりと低空飛行してくれた。緑広がる山々の峰の中腹に、空に向かって手を伸ばすように高層の美しい城が立っているのが見える。城の側には川があり城壁には蔦が絡まる。その城壁の内側には、刈り取られた芝が幾何学模様を描いた庭園があった。


 先ほどはオルが天高く昇ってしまったので、怖くて目を瞑り見逃してしまったが、彼の住む城は西洋の中世時代を思わせるような様式で、まるで絵本の中から飛び出してきたみたいだ。

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