第10話・オル、あなた何者なの?
「いい匂い~。もしかして私の髪に付けてくれたこのジャスミンの花は?」
「ここの花壇の花だよ。朝、一番に摘んだ花をきみに贈りたかったんだ」
「ありがとう……」
オルにお礼を言っていると、オルの腰の辺りまでしか身長のないイチリンに遠慮がちにローブの裾を引かれた。
「その花には意味があるの。知ってる?」
「知らないわ。どのような意味があるの? 教えて」
「それはね……内緒」
イチリンが話しかけてオルと目が合い、慌てて口を噤んでしまった。恐らくオルが視線でけん制したのだろう。オルは私には優しい眼差しを向けてくるけど、イチリンとニリンがオルの顔色を窺っているのが分かるもの。
この三人の関連性が気になってきた。
「ねぇ、オル。あなた何者なの?」
「僕はこのコーカサス国を治める王だよ。きみはその僕の保護下にあって、寵愛を受けていることになる」
「王さまだったの?」
昨晩からひょっとしたら自分が今いるこの場所は、自分の知る世界とは別の世界ではないかと思ってはいた。オルの姿やイチリン、ニリンの姿を見て自分とは違う人種だと感じたし。でも、オルがこの世界の王さまなんて思いつきもしなかった。
顔を上げた先の彼と目が合う。黒水晶の瞳が見返してきた。
「まだ信じられないって顔だね? ではこれではどう?」
「きゃあっ」
いきなり彼は黄金の羽を広げて飛翔した。イチリンとニリンの姿がどんどん遠ざかりどこまで浮上するのかと怖くなった。
「や────」
「大丈夫だよ。目を開けて」
落ちたら怖い。と、オルに必死にしがみ付くと、「僕がしっかり押さえているから平気だよ」と、言われて恐る恐る目を開ける。すると視界に飛び込んできたのは、キラキラと輝く琥珀色に輝く砂漠。そこには大きなオアシスがあった。
オアシスを中心に碁盤の目のように水路が張り巡らされていて、水路の脇には椰子の木が街路樹のように幾つも立っている。まるで人工都市のようだと思っていると、オルが「あれは作られた都市なのさ」と、言った。
「あの砂漠のオアシスにはね、マーメイド達が住んでいる」
「マーメイドって人魚のことよね? 人魚は海にいるんじゃないの?」
「きみのいた世界はそうなのかもしれないけど、この世界の人魚は砂漠に住んでいるのさ」
「へぇ。珍しいのねぇ」
人魚とは童話の中の世界の生き物だと思っていた。海に住んでいるはずの人魚。その人魚は陸にあがって平気なのかしら? 尾鰭で二足歩行するのかと疑問に思った。
美しい砂漠の人工都市を眺めているうちに、高所から見下ろすことにだんだんと慣れてきて怖さが薄れて来る。さらにその先へと目を向けた時に、巨大な円形のものに気が付いた。
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