第9話・オルの辛辣な言葉
「あなたのご家族は?」
「両親はいたけど……死んだ。それから僕は一人でここに住んでる」
オルは何気ない様子をみせたけど、戸惑いが感じられた。触れてはいけない話題だったかと思う私に、逆に彼が聞いてきた。
「きみの家族はどんな人?」
「そうね。父は大人しい人だけど叱られると怖くて、義母は口うるさい人。あと義妹が一人いるけど、彼女は幼い時からなんでも私の真似をしたがって大変だった」
妹に含む気持ちのある私は、それ以上、語る気にはなれなかった。その私の心の中を呼んだわけではないのだろうけど、オルは辛らつな事を口にした。
「幼い子は身近な人の真似をしたがるものだよね。無垢なその姿は愛らしいけれど、その魂は時に残虐だ」
「オル?」
彼の言葉にゾクリとした。私には優しい彼が、何かに関しての嫌悪感を潜ませたその表情は、黒い翳りのようなものを帯びているように思えて一瞬、この場が冷えた気がしたのだ。食事の手を留めると、こちらを窺うその目は優しいものに溢れていたけれど。
「どうしたの? ヨーコ。口に合わなかった?」
「ううん。美味しかったわ。もうお腹一杯。ごちそうさま」
「ヨーコは、少食なんだね? 完食したらご褒美あげようかと思っていたのに」
食欲が失せてしまったなどと言えない私は、ほほ笑むのに留めた。
「いやね、オルったら。子供扱いして」
「僕から見たら、きみは目に入れても痛くないほどの可愛い存在なんだよ」
だから仕方ないだろう。そう言ってオルは再び、私を縦抱きにすると「散歩に行こう」と、言い出した。オルは、私に構いたくて仕方がないようだった。私のなにが彼をそんなに惹きつけるのか分からないけれど、失恋後の私にとって、彼という存在はあまりにも美しすぎて目に毒だと思う。
庭に出ると、どこからともなくイチリン達がやってきて、私達の後を足取り軽くついて来る。それに癒されるような思いがして、私は綺麗過ぎる男の顔を見るのを避けるように彼女達を見ていた。
昨晩は暗かったこともありこの城の庭の全容が見えていなかったけれど、昼間の庭は刈り取られた芝が幾何学模様を描いた美しい庭園となっていた。芝を抜けると花壇に出た。そこには薔薇やカーネーションやジャスミンの花に溢れていた。
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