羅什3  苻堅動きます  

クマーラジーヴァの名が西域でとどろき、

ついにはその名が東国にも届く。


この頃の関中かんちゅう苻堅ふけんが支配していた。

西域の王である車師しゃし前部ぜんぶ王や亀茲クチャ王の弟が

苻堅のもとに訪れると、

苻堅は彼らと正殿にて会見する。


彼らは苻堅に言う。


「西域は珍しい物を多く産出致します。

 苻堅様におかれては兵を率い、

 平定し、統べて頂きたいのです」


さて、どうしたものか。

その後も苻堅の元にはお誘いが来る。


例えば 377 年。星見役が言う。


「よき星が外国の領分に

 留まっております。

 これは偉大な僧がやってきて、

 政を支えてくださる証です」


「西域にクマーラジーヴァがおり、

 襄陽じょうようには釋道安しゃくどうあんがおるそうだが、

 これらのことであろうかな」


そう言って、この時は

使者を飛ばすにとどまった。

どちらの招聘にも失敗したのだが。


次いで 381 年の2月、

鄯善ピチャン王、車師前部王らが

再度苻堅に西方討伐を要請。


そしてついに 382 年9月、

苻堅は呂光りょこう姜飛きょうひを総督とし、

前部王や車師王らとともに

七万もの兵を率いさせ、

龜茲や烏耆カラシャールの諸國に侵攻させた。




什既道流西域,名被東國,時符堅僭號關中,有外國前部王及龜茲王弟並來朝堅,堅於正殿引見,二王因說堅云:「西域多產珍奇,乃請兵往定,以求內附。」至符堅建元十三年歲次丁丑正月,太史奏云:「有星見外國分野,當有大德智人,入輔中國。」堅曰:「朕聞西域有鳩摩羅什,襄陽有沙門釋道安,將非此耶?」即遣使求之。至十七年二月,鄯善王、前部王等,又說堅請兵西伐。十八年九月,堅遣驍騎將軍呂光、陵江將軍姜飛,將前部王及車師王等,率兵七萬,西伐龜茲及烏耆諸國。


什の既に西域にて道の流るるに、名は東國に被る。時に符堅の關中で僭號せるに、外國の前部王、及び龜茲王の弟有りて並べて堅に來朝せば、堅は正殿にて引見す。二王は因りて堅に說きて云えらく:「西域は珍奇を多く產ざば、乃に兵を往ましめ定めんことを請い、以て內附を求む」と。符堅の建元十三年の歲次丁丑の正月に至り、太史は奏じて云えらく:「星の外國が分野に有るを見たり。當に大德の智人の中國に入輔せる有らん」と。堅は曰く:「朕は西域に鳩摩羅什有り、襄陽に沙門の釋道安有るを聞く。將た此に非ずや?」と。即ち遣使し之を求む。十七年の二月に至り、鄯善王、前部王らは又た堅に說きて兵の西伐を請う。十八年九月、堅は驍騎將軍の呂光、陵江將軍の姜飛を遣りて前部王及び車師王らを將い兵七萬を率いしめ、西に龜茲及び烏耆諸國を伐たしむ。


(高僧伝2-3_術解)





西域諸国のバランスゲームの話に見えますね。苻堅と言うでかい兵力で主導権を握ろうとしたんでしょうか。ここで出てくる苻堅を説得せんとする王たちの動きは、贔屓目に見ても奸臣の類にしか見えない。


ともあれ、クマーラジーヴァの人生を大きく揺り動かす呂光の西方討伐がここに始まるわけですね。あ、ちなみにここで呂光の伝記を取り扱うつもりはないです。きりがないので。


なお西域諸国で一番西に遠いのがクチャ、それから東にカラシャール、ピチャン、車師となるもようです。そして呂光の最終到達点が、クチャ。もはやクマーラジーヴァ強奪遠征と呼ぶ以外ない気がする……。

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