姚泓13 劉裕侵攻5   

自分の提言が聞き入れられるどころか、

実質おん出されてしまった、趙玄ちょうげん

泣きながら、姚洸ようこうに言う。


「趙玄めは姚萇ようちょう様以来の恩を

 重ねて賜ってまいりました。

 正しきもののために戦い、

 果ててみせましょう。


 しかし姚洸様が忠臣の言葉を退け、

 ゴミカスの戯言に判断を誤られるのを

 見てしまうのは、後に後悔しても、

 もはやどうしようもありません」


結局姚洸は判断を翻すことなく、

趙玄を出立させた。


陽城ようじょう成皋関せいこうかん滎陽けいよう武牢関ぶろうかん

いわゆる要衝の守将は、次々に降伏。

ずんずん迫る檀道濟だんとうさい

石無諱せきむい石關せきかんにまで出たが、

こりゃ無理だと逃げ帰ってきた。


一方の、趙玄である。

飛ばされた先の柏穀はくこうにて、

檀道済の麾下将であった毛徳祖もうとくそと激突。

しかし、衆寡敵せずであった。

大敗し、自らも十箇所ほどの傷を負う。


クソが、このクソ晋が!

地に伏し、動かぬ身体にむち打ち、

趙玄は、叫ぶ。


その叫びを聞きつけ、やってきたのは、

趙玄の副官であった、騫鑒けんかん

晋軍が取り囲む中にあえて飛び込み、

趙玄をかき抱いて、泣く。


「俺は助からん。

 そなただけでも逃げろ」


その趙玄の言葉に、騫鑒は首を振る。


「将軍が助からぬのであれば、

 わしもここで果てましょう。

 逃げてみたところで、どうして

 安穏と生き長らえられましょう!」


そして、ふたりはともに戦死した。


内応していた姚禹よううは、

檀道済軍が迫ってきたところで、

洛陽らくようを脱出、檀道済に合流。

こうして洛陽に到達した檀道済軍を見、

姚洸は恐懼し、降伏した。


長安ちょうあんを出た二軍、

閻生えんせい軍は新安しんあんに到着し、

姚益男ようえきだん軍は湖城こじょうに着いたが、

その頃には、洛陽は陥落済みであった。

両軍は結局、そこで立ち止まった。




玄泣謂洸曰:「玄受三帝重恩,所守正死耳。但明公不用忠臣之言,為奸孽所誤,後必悔之,但無及耳。」會陽城及成皋、滎陽、武牢諸城悉降,道濟等長驅而至。無諱至石關,奔還。玄與晉將毛德祖戰于柏穀,以眾寡而敗,被瘡十餘,據地大呼,玄司馬騫鑒冒刃抱玄而泣,玄曰:「吾瘡已重,君宜速去。」鑒曰:「若將軍不濟,當與俱死,去將安之!」皆死於陣。姚禹逾城奔于王師。道濟進至洛陽、洸懼,遂降。時閻生至新安,益男至湖城,會洛陽已沒,遂留屯不進。


玄は泣きて洸に謂いて曰く:「玄は三帝の重恩を受かば、守りたる所にて正に死すのみ。但だ、明公の忠臣の言を用いず、奸孽に誤らる所と為らば、後に必ずや之を悔いても、但た及びたる無かるのみ」と。陽城、及び成皋、滎陽、武牢の諸城の悉く降じ、道濟らの長驅し至るに會い、無諱は石關に至れど奔りて還ず。玄と晉將の毛德祖は柏穀にて戰い、眾寡を以て敗し、瘡十餘を被り、地に據し大呼せば、玄が司馬の騫鑒は刃を冒し玄を抱きて泣く。玄は曰く:「吾が瘡は已に重し。君は宜しく速やかに去るべし」と。鑒は曰く:「若し將軍の濟からずんば、當に與に俱に死さん。去りて將た之に安んぜんか!」と。皆な陣にて死す。姚禹は城を逾え王師に奔る。道濟は進みて洛陽に至り、洸は懼れ、遂に降ず。時に閻生は新安に至り、益男は湖城に至れるも、洛陽の已に沒せるに會い、遂に留屯し進まず。


(晋書119-13_衰亡)




趙玄さんめっちゃ好みやん……(好みです、はい)


滅びに殉じる主従っていいよね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る