書籍化イベントに出すために(妄想コンテストを例に考える)
短編ミステリーのコツ
わけあって先日からエブリスタの妄想コンテストの研究をしてます。
たまに気になるタイトルの作品を読んだりなど。
で、ミステリーを何話か読みました。
自分でも書いてるので、8000字内でミステリーを作ることが、どれだけ大変なのかわかってるからです。ほかの人がどんなふうに仕上げてるのか見てみたいんですよね。
それで読むんですが……残念ながら、ガッカリすることがほとんどです。というか、満足したことがない。
というのは、どれもミステリージャンルに設定してあっても、内容はミステリーじゃなかったり、ミステリーだけど、本格ミステリーではないんですよね。
わかる! わかりますよ?
ほんとに8000字で、本格ミステリー書くのは不可能に近いんだって。
前にミステリーのコツの回で書いたけど、ミステリーはほかのジャンルにくらべても、とにかく伏線の数がめちゃくちゃ多いです。
しかも、探偵、犯人、被害者と最低三人の登場人物が必要な上に、なんなら犯人をまぎれさせるために容疑者をほかに数名、出したりします。あと、目撃者ね。
そこにさらに探偵の助手だの、探偵の友達だの、探偵が刑事じゃない場合はやってきた警察関係者だの、いろんな人を出したい。
で、落ち入りがちなのが、これらの登場人物を長編なみにしっかり描写しちゃう人。
これ、やっちゃうとそれだけで8000字行くよね? やりたいのはわかるけど、やめたほうがいいです。
たぶん、本格ミステリーらしく書きたいんだろうけど、人物紹介は短編本格ミステリーのなかでの優先順位は四番めくらい。
じゃあ、一番はなんなのか?
はい。推理の過程です。
二番は過程をふまえて、論理的な謎解き。
三番はトリックかな。
え? 違う?
今、ミステリー好きのみなさんは、一番重要なのはトリックだと思ったんじゃないですかね?
たしかに書籍化の一般公募に出すなら、トリックは最重要。20万字ていどを求められる長編小説なら、です。
でも、そこまで「こ、このトリックはスゴイ! 絶対、受賞する!」と言えるほどの自信のトリックなら、それは迷わず長編にして、著名な賞に出してください。短編で終わらせるのは、もったいない。
なので、短編の場合、大事なのは推理過程です。
前述のように何人かのミステリーを読んだところ、その全員が推理過程をまるごと(ないし大幅に)省く、という形で文字数をあわせておられました。僕があれはミステリーじゃないというのは、そこのところ。
人物紹介、または事件の発生などを詳細に描いたあと、とつぜん謎解きに入ってしまうことが多かった。
残念ながら、これでは読者が推理で犯人を当てることはできません。
本格ミステリーというのは、推理過程を読むことで、読者が推理し、犯人を解明することができる作品です。
それ以外の作品は、たとえ作中で殺人事件が起こったとしても、サスペンス、クライムサスペンス、サスペンス調のヒューマンドラマです。
もちろん、それも広義のミステリーではあるので、自分が書きたいミステリーは本格じゃないというなら、それでかまわないんですが。
ホラーをミステリーだと勘違いしてるっぽい人もいた。ぜんぜん事件になってなくて、心霊的な現象しか起こらなかったんだけどな。もしかしたら、ジャンル設定のミスだろうか?
さて、あらためて、じゃあ、本格ミステリーとして成立させるために必須の要素とは。
1、登場人物。とくに探偵と容疑者。それぞれの事情や心情などもふくむ描写、動機が必要。
2、事件発生。どんな事件が起こったのか、という最初の現場状況の説明。
3、探偵が事件と接触し、調べていく。目撃者や証拠を探し、それらをすべてつなぎあわせると、真実が見える。とくに伏線が多用される場面。
4、謎解き。本格ミステリーでは謎解きの前に、読者への挑戦状がつきつけられることも。ここですべての伏線が回収され、読者は真相を知って満足。
短編におけるミステリーの各パートですね。推理系のゲームなんかでも、推理パート、謎解きパートなどあるじゃないですか。
事件発生から、いきなり謎解きに移行するゲーム、ないですよね?
そんなことはわかってる、と、一度でも短編ミステリーを書いたことがある人なら言うはず。
わかってはいるけど、8000字じゃ書けないんだ——と。
そう。各パートをていねいに書くと、8000字では不可能。最低でも12000字は欲しい。ゆとりを持って書くには二万字。
8000字ですべてのパートをじっくり書こうと思うと、それぞれの描写が短くなり、情緒とか余韻とか、ふんいきとかは二の次になってしまいます。ましてや、キャラクターの魅力まで出すのは至難の業。
ということは、どこかで何かを省略しないといけない。
この省略をするとき、ついやっちゃうのが、前述の推理パートをなくすやつ。謎かけ→謎解きでなんとかミステリーのていは作れるので。ただ、読者的には満足できない。
じゃあ、読者が満足できる形で省略するには?
一つの方法としては、容疑者をしぼる。つまり、探偵対容疑者の一対一の対決にする。その人が犯人だとわかっている状態で、トリックを暴くことにだけ焦点をしぼる。
またはトリックはすでにわかっていて、それを行うことができる犯人を容疑者のなかからしぼる。
など、ミステリーのどこかの部分だけを強調する。
長編なら、トリックを解明し、容疑者をしぼり……とやるところ。一作のなかに謎が複数存在してるんだけど、それを一つにするわけです。
二つめの手法。
推理パートと謎解きパートを同時進行してしまう。
なんなら登場人物紹介も並行。
えっ? それ、どういう意味?
えーと、説明は難しいんですが……僕は妄コン用の短いミステリーを書くときは、このやりかたでやってます。
謎解きのとき、最低限の文字数ですむよう、推理の過程で、あるていどの謎を解いていく。
と言ってもなぁ。この説明じゃ、ちんぷんかんぷんだろうなぁ。
というわけで、例文。
「ねえ、ワレス。人間が夜になると恐ろしい化け物に変身するなんてこと、あると思う?」
「はっ? また変なことを言いだしたな」
「ポレットの娘はアマンディーヌと言うんだけど、舞踏会で、ある男性と知りあったらしいの」
「わかった。その男が化け物に変身するんだな」
「そうらしいのよね」
「えっ?」
「昼間はむしろ華奢な美青年なんだけど、夜になると体じゅうが毛だらけの狼になって、屋敷をウロつきまわるのだそうよ」
「……本気で言ってるのか?」
「わたくしはポレットが言ったことをそのまま伝えているだけ」
「じゃあ、そのポレットがウソつきなんだ」
「ところがね。ポレットは子どものころからお行儀ばっかり気にする堅苦しい人で、わたくしと気があわなかったわ」
「堅物の貴婦人がそんなつまらないウソをつくはずがないな。当人はほんとに見たと信じているんだ」
はい。これ。
連載中の『ジゴロ探偵の甘美な嘘』シリーズのなかの『狼男の求愛』の冒頭です。途中の地の文は全部消してます。
で、どこらへんが推理と謎解きを同時進行なのかというと、これの最後のセリフ。
本来、長編なら、ポレットも容疑者の一人です。なので、ここでさっそく「本人は信じてる」なんていうセリフで容疑者から外したりはしません。
ただ、ギリギリの文字数のなかで、いかにも怪しい人がたくさんいるふうに見せつつ、瞬時に容疑を晴らす、という手法で短略化をはかってるわけです。
もう一つ、同時進行のコツ。
容疑者=目撃者にしてしまう。
これも僕がよくやる手法。
怪しい人物たちの話を聞くと、それがイチイチ目撃証言になっていて、その人の容疑は晴れつつ、しだいに犯人に迫っていく。
これなら、容疑者と目撃者が一人二役なので、人数が半分ですむわけです。
あと、さっきの「ねえ、人間が化け物に」うんぬんのセリフも、コツの一つですね。
いきなり冒頭で謎かけしてしまうことで、その後の展開をスピーディーにしてます。
ほかに?
とにかく一文を短く!
これにつきます。
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