読まれる小説19 SFのコツ



 SF。サイエンスフィクション。空想科学小説。

 これも僕の好きなジャンルの一つ。


 空想科学小説と言うと難しそうだけど、そこは昨今、めちゃくちゃハードル下がってますよね。


 たとえば、なんか普通にいろんなジャンルで使われるようになったタイムリープとか。最初は斬新だったんですが、みんなが使うから新鮮味は皆無。またか……くらいの感じですよね。


 ちなみに、たぶん二十年前くらい(?)に作られた外国の映画でも、タイムリープはすでに使われてます。クリスマスの一日をくりかえす男の恋と成長の物語。ずいぶん前に深夜番組で見たけど、すごくよくできてました。当時はタイムリープなんて言葉もないくらい珍しかったです。萩尾望都さんも『銀の三角』のなかでタイムリープ使われてますしね。あれなんか三十年くらい? 前に描かれた作品。もっと前かな?


 果たして、タイムリープがあるだけの現代ドラマをSFと言うかと言えば、それは違うって気がする。恋愛、ラブコメ、ミステリーなど、他のジャンルのなかの一つの要素でしかありませんよね。ちょっと変わった設定ってだけ。

 それってSFっていうよりはファンタジーなんじゃないかなと。現代ファンタジーですよね。

 まあ、この前から言ってるジャンルの融合によって新奇性を狙ってるわけです。


 じゃあ、ほんとのSFって、どんなだろう?

 SFと言えばハヤカワ。海外の翻訳物のイメージ。

 難しい専門用語がひんぱんに出てきて、宇宙船とかエイリアンとかアンドロイドとか特殊な世界観とか出てきて、近未来的……。

 そう。本格SFって近未来ですよね。今より少し進んだ科学の話を描いた作品がそうなのかなと。


 今の作品が(とくにネットの)あまりSFっぽくないのは、空想科学小説ではなく、空想小説になってしまってるから。科学の部分がぬけちゃってるんですよねぇ。


 まあ、一般ウケにはそのくらいのほうがいいんでしょうね。本格SFって、SFが好きじゃない人からすると、難しくて読みにくいらしいんですよね。


 SF好きにとって、エンパシーって一般常識なんですが、エブリのころ、なんの説明もなくこういう単語が入ってるのが、よくわからないって言われたことあるんですよね。

 そうかぁ。エンパシーでもうアウトかぁ。テレビ番組とかでも、超能力捜査官とか、動物の心がわかる人とか、そういうので、けっこう出てくるんだけどなぁ。その人は歴史物を主体で書いてる人だったから、たぶん、そんな番組じたい見ないんだろうなぁ。


 つまり、そういうことです。

 SFのコツは読者対象をどこに持ってくるかで変わってくる。

 ほんとに本格SFが書きたいなら、SF好きが読むと仮定して、手かげんなしに世界観の一つずつから、じっくり作りこみましょう。SF好きはそれをゆるしてくれる。


 ただ、ネットではそこまで読まれません。本格SF……。

 いや、本格の場合、紙本でも大流行はしませんよね。カクヨムコンでも部門消滅しちゃうくらいだし。


 そうじゃない。もっと大勢の人に読まれたいんだー!

 というのなら、もうここはSFの要素は一つだけ。現代日本を舞台にして、メインストーリーは愛だの恋だの、一般の人が求めるエンターテイメントにする。『君の名は。』とかもそうですよね。『時をかける少女』だってそうだし。


 そう考えると、ラブコメとSF要素って相性いいですよね。おたがいの体が入れかわるとかもラブコメでは昔からよくあるし。ラブコメはラブであるがゆえに、体に関連したSF要素は、ちょいエロもまじって、ほどよいんでしょうね。体が小さくなっちゃうとか、幽体になっちゃうとか、動物になっちゃうとか、男になったり女になったりするとか。

 SFっていうよりは、ちょっと不思議なことですかね。


 タイムリープとかの時間に関係するSF要素は、ミステリーと相性がいいように感じますね。謎を解くという行為と、時間の流れを変えることが、相乗効果を生むんでしょうね。


 ホラーなら、なんだろ? エイリアンとか、アンドロイドの造反とか?


 ゾンビがウィルス感染っていうのも、バイオハザードのせいで普通に定着しちゃってるけど、もともとは呪術で作られる生きた死体ですから。

 死体とウィルスの化学反応が予想以上にハマったもんだから、今のゾンビ物は誰も彼もバイオハザードの二番煎じ。まったく新しいゾンビ物を世に送りだしたいなら、もうウィルスはやめたほうがいい。ホラー界のテンプレ。そこから脱却できるほどの新しいゾンビ物となったら、そうとうに強いインパクトがないといけないですから、凡人には難しいですけどね。


 ファンタジーとあうのは何かって?

 ファンタジーとSF要素はたいてい、なんでもあうんじゃないですか。

 ファンタジーって、もともとSFジャンルの一要素だったってご存じですか? SFのなかのサブジャンルにすぎなかったんです。SFから科学要素をなくし、かわりに剣と魔法をあたえた英雄譚。それがファンタジー。昔はヒロイック・ファンタジーって呼ばれてたんですよ。


 なので、いったん、とり去ったものをふたたび加えていく逆工程をほどこせばいいのでは?


 ファンタジーにとってSFはなじみやすい良い素材だと思います。


 あと気をつけるのは、前述のように、SF用語がわからないと言われる人たちのために、説明くさくなりすぎないていどに、その都度、一般的ではないと思える言葉の説明入れてくことですかねぇ。


 個人的に好きなのは、練りに練って一から作りあげていくオリジナルの世界なんですけど。


 本格SFの利点は一から作るため、作者の好きなようになんでもできる。まさに神様。通常の現代を舞台にした話ではできないような、ものすごい大掛かりなギミックを仕掛けられます。クライマックスで、それまで構築してきた世界観が逆転するような大どんでん返しが施せるんですね。これが成功したときの破壊力はその他のジャンルでは、とうてい生みだせません。何しろ、世界そのものが変わるんだから。


 そのぶん、作りこむのも大変ですけどね。一作書くために数年、アイディアの段階で練ることも。


 僕の場合、五、六年妄想してから書いたのが『タイプJ』です。エブリで選評オールAをとりました。じっくり練ったのが功を奏したのかなと。

 ほかにも何作か本格SF作品を書いてはいますが、構想に時間をかけたものほど、より仕上がりがいい気がします。


 ちょっと人が思いつかないような、ものすごいSFのネタを思いついたなら、じっくり構築することをお勧めします。


 本格SFには、大どんでん返しが可能。逆に言えば、どんでん返しがないと平坦。クライマックスで、どんでん返しが入るよう心がけましょう。それがおもしろい本格SFのコツかな。

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