第36話 大移動と大改装。



 ちょくちょく避難所に帰っていた太郎さんも含め、一ヶ月も使った集中レベリングが終わり、本日家に帰ることになった。


「それでは、よろしくお願いします……」


 ちょいちょい太郎さんが離れている間にレベリングを加速させ、私、秋菜、太郎さんのレベルが現在百五十と横並び。

 そして百レベルを超えたところで幾つかステータスに変化があったりしたが、今は割愛する。

 一ヶ月もワイバーンを狩り続け、逆にそれだけ狩り続けてもまだ湧いてくるワイバーンに、ホムセンメンバーは流石に困惑し、そこで私がモンスターのリポップ現象について教え、住処を直接見てないから断定出来ないが、ほぼ確実にワイバーンもリポップしている事を伝えた。

 彼等は悩み抜いた末に、ホームセンター拠点を放棄する事を決定。

 その殆どを第三中学校避難所で引き取り、二名だけ私達が引き取る事になった。

 私達が引き取るのは親をどちらも失ってしまった五歳と六歳の子供で、名前をカナちゃんとチウちゃん。どちらも女の子だ。

 漢字で書くと佳奈と千兎。カナちゃんは良いとしてチウちゃんは千の兎とかモフみがヤバいだろ。

 この子達は魔法に憧れて、両親を殺したモンスターを倒したいと願い、そして大好きになった精霊達と離れたく無いと泣き叫んだのが一番大きな理由だが、とにかくココログループに加入する事になった。


「それじゃ、出発するよー」

「はーい!」


 大移動にあたって、テイムしたペットワイバーン達を使った空輸を利用する。

 現在、結局後で自分も欲しくなった秋菜もワイバーンをテイムして、ココログループは現在四体のワイバーンを所有している。

 私が所有するダークグレーのワイバーンがアッシュ。

 雪子の純白ワイバーンがピュアホワイト。

 春樹が選んだ真っ黒のワイバーンがブラックサンダー。

 秋菜がテイムした薄桃色のワイバーンはモモちゃん。

 なんだかカッコつけた結果ネーミングが競馬っぽくなったのが混ざってるが、そこに太郎さんが選んだモスグリーンのワイバーン、イヴが加わり、ホムセンの資材を使ってゴンドラを作成して、その上で数回に分けて引越しを行う。

 この引越し作業の対価は、持って行けないホムセンの資材全て。

 正直ちょっと小躍りしたい内容だよね。

 そして、ココログループのワイバーンが四体で太郎さんがイヴだけだと、単純に報酬を割るとコチラが八割、太郎さんが二割となるが、流石に今回太郎さんが見せた働きに見合う報酬だとは思えないので、コチラが六割、太郎さんが四割で話が決まった。


 そしてお引越しが終わり、久々の我が家。


「よっし、じゃぁ計画の通り活動開始!」

「らじゃー!」

「ワイバーンに力仕事任せられるし、すぐ終わるだろ」

「私はカナちゃんとチウちゃんのお世話と、食事の準備ですよね。……私だけこんなのでいいんですか?」

「雪子知らないの? 子供の世話って重労働なんだよ?」


 まず春樹と秋菜が人の居なくなったホムセンに戻り、太郎さんと取り決めた向こうの取り分を除いた物資をありったけコチラに運ぶ。

 その間、私はアッシュと一緒に物資を絞り尽くした辺り一帯の廃墟と瓦礫を撤去して、土地を確保する。

 ついでにずっと不安だった自宅の下水を調べて、最寄りのドブやら川やらにしっかりと繋げ直すつもりだ。

 そうして土地の確保が終わったら、空いた場所に秋菜達が運んで来る資材を置いて、最終的に自宅を囲む塀を広げて家の敷地を拡大する事が目的だ。

 広げた敷地には、鶏が過ごす為の小屋と水場を用意した専用の広場を作り、もう食糧でパンパンになっている地下倉庫の他にも大型倉庫を庭に作り、ワイバーンの離着陸を行う発着場も用意する。

 流石にワイバーンの住処は外に作るが、それを含めた自宅拠点の大改装が始まる。


「アッシュ、好きに吹き飛ばせ」


 秋菜達を見送った私はまず、拠点周辺を徹底的に更地にし始める。

 瓦礫も資材として使えるので、砕いて崩したらアッシュに運ばせて一箇所にまとめ、建物の基礎やら上下水道管も魔法とワイバーンパワーと百五十レベルパワーを使って撤去する。

 その後、自宅周辺の地面を掘って拠点の下水管を確認して、その進路を延々と辿っていく。

 このまま下水処理場に直接繋がるのか川やドブに繋がるのか私は知らないが、自宅から一キロほど離れた場所でやはり下水管が断裂して、周囲の土ごと汚染していた。

 このままだと地下水まで汚染して拠点の井戸にも影響が出るかもしれないので、まず汚れて臭いまくる土の撤去を行い、その後にアッシュに乗って上空から拠点とドブや川の位置関係を調べて、下水を放っても良さそうな川と拠点を自分で繋いで新しい下水を作る事にした。

 集めた瓦礫を砕いて集めて、地魔法全開で頑強な下水管を作り、自宅から川まで繋ぎ、そして埋め立てた。

 一日がかりの大仕事だった。体がめっちゃ臭い。


 次の日、ホムセンの資材を全部回収して来た秋菜と春樹も増えて、全員で作業する。

 自宅周りはコンクリもアスファルトも何もかも引っくり返して完全に土を露出させ、徹底的に地を均す。

 そしたら塀を広げる予定地にホムセンの資材を使って基礎を打っていき、魔法と建材と瓦礫を使ってどんどん塀を作って行く。

 高レベルのスキル持ちでも容易に侵入出来ない壁を作るのは骨が折れるが、安全性を捨てる訳にはいかない。

 最終的に、ワイバーンが足で掴んで飛べるギリギリの重さまで厚く広く高くした門を用意して、開閉をワイバーンに任せる事にした大城壁が完成した。

 瓦礫だけは大量にあったので、なかなか立派な壁が出来上がった。この壁はローゼかマリアかシーナと名付けよう。

 壁はネズミ返しを付けたものの、ただ高くして侵入者を拒み、それすら超えるスキル持ちは単純にワイバーンが撃退してくれるセキュリティになった。

 ワイバーンちょっと便利過ぎない?


「なぁ姉ちゃん。ワイバーンが居るからもうトラックも使わないだろうし、俺たちはワイバーンが居るから空から入れるし、この門って必要だったのか?」

「バカかお前は。トラックじゃ無くても車はガソリンが有れば電気を生産できる貴重な資源だぞ? めぶき病院とか中学校の幹部がもし車でここに来たら、壊されるかもしれない壁の外に車を放置して中に入って来いとでも言うのか? 他にも魔法が使えなくてワイバーンを怖がる様なお客が来たらどうするんだ? 私達が抱えて運ぶのか? お客さんを小脇に抱えるのか? 門を開けば済む話なのにそんな失礼ブチかますのか?」

「わ、分かった、分かったよ! 俺が馬鹿だったから、そんなにズイズイ来んなよっ、照れるじゃんっ!」

「お前怒られながら私のケモミミ見てるとか良い度胸だな?」


 そんな感じで、敷地の拡張、鶏広場、大型倉庫、発着場、ワイバーンの小屋建設が一週間かけて終了した。早速ホムセンの資材を倉庫へしまう。

 その後は細々と拠点の中の土をいじってホムセン資材の中から芝生の種を撒き散らし、鶏広場の水場を微調整したり、卵の回収機に四苦八苦したり、なかなか充実した日々を過ごした。

 六歳のカナと五歳のチウも、ココログループに慣れ始めて、雪子や私に甘え始めた。


「姉ちゃん、俺またワイバーン狩りに行ってきて良いか?」

「お、なんだ良いぞ、私も行く」

「えぇー、姉ちゃんも一緒だと追いつけないじゃんか」

「秋菜に抜かれたあと抜き返して、今では横並びなの結構キたからな。油断しない事にした」

「あ、じゃーあきなも行くー! チウちゃん達も行こ?」

「いいのー? かないきたーい」

「ちうもー!」


 現在私と秋菜はレベル百五十ジャスト。

 春樹はレベル百三十六。大分引き離してやったぜ。

 そして私のステータスは今こんな感じだ。


 【ココロ:Lv.150】

 【メインジョブ:九尾の剣士】【サブジョブ:未設定】

 【パッシブスキル:修羅-玉藻刀剣術-玉藻の舞-戦闘術-超感覚-羅心眼-不撓不屈】

 【アクティブスキル:魔法剣-狐火-ココロ・オーバードライブ】

 【マジックスキル:九尾の魔術】

 【ウェポンスキル:魔力超強奪-生命強奪-銀幻狐火-金華金炎-共鳴共闘-黒狐魔弾-黒狐狙撃-黒炎魔砲-魔力増幅-魔力回復-色彩変化-美衣変化-天空侵犯-足元素敵-白面金毛玉藻九尾】


 なんかレベル百五十でジョブが生えた。

 そして二つ名くさいあだ名がそのままジョブ扱いされ、剣術と武術が玉藻のなんちゃらに進化。斬撃スキル等は全部が統合されて戦闘術になり、必殺スキルもココロ・オーバードライブに統一され、魔法から派生したアクティブスキルも全て魔法剣に統合されてスッキリした。

 狐火なる新スキルが生えて、魔法が全部九尾の魔術に統合され、効果も変わった。

 魔法スキルは呪文を唱えないと発動しなかった訳だが、九尾の魔術は尻尾を振ると魔法が発動する。この大改装中も魔法を使いまくって尻尾をふりふりしてたわけで、春樹が大歓喜していたのは言うまでも無い。

 言葉による制限がなくなり、せっかく太郎さんが講釈してくれた呪文講座も無駄になってしまったが、殆ど無意識下でも魔法が即座に発動出来るアドバンテージは凄まじかった。


「……んー、レベル上がんないなぁ」

「秋菜もか。もしかして百五十でカンストか?」

「たぶん、ジョブ一つで百五十何じゃないかな? サブ付けたらまた上がると思うんだけど……」

「そのサブの付け方がわからんって言うね」

「はは、じゃぁ今のうちに追い付けるなっ!」

「邪魔してやろっと」

「ああああぁぁあっ!? 姉ちゃんの尻尾がフリフリするの嬉しいけど横取りはやめろぉぉ!」

「それ、尻尾で包んで集中を乱してやろう」

「ふわぁぁぁぁぁあっ…………!」

「お兄ちゃん気持ち悪い」

「はるきにーちゃんへんなかおー」

「へんにゃかおー!」


 私が尻尾を一振するとワイバーンが落ち、秋菜がトリガーを握る度にワイバーンが凍るさなか、私達のレベルは百五十から一向に上がる気配を見せなかった。

 流石がにもうレベル百十五のワイバーンでは百五十のレベルアップの足しにはならないのかも知れないが、コレよりも大物が何処にいるのかちょっと検討もつかない。

 それに感覚的な話だが、モンスターを倒すと得られる微かな感覚が、百五十になってからは少しも感じられないのだ。

 なので秋菜と私は今がとりあえずのカンストなのだと、何となく本能で理解していた。


「どうしたもんか。サブジョブの条件が分からないと、例えば終焉が始まった辺りに空を飛んでたマジモンのドラゴンとかが二百とか三百レベルくらいだったら、今のままじゃ流石に無理だ」

「他にも強いモンスターが居るかも知れないもんね。あきな達、そんなに活動範囲広くないし」

「だいぶ広げたつもりでは有るけどな。言うて市町村五つか六つ分がせいぜいだもんな」

「……県外とかにもしかしたら、あきな達より強いスキル持ちが居るかも?」

「むーん。県外遠征も考えるかなぁ。ワイバーンも居るし」


 もし仮にサブジョブを得るのに特定のアイテムが必要だったとして、そのアイテムがここら一帯に無かった場合、私達は永遠にこのレベルから脱せないことも有り得る。

 何か条件を満たしたら勝手に獲得出来るのか、儀式的な物が必要なのか、アイテムを使用するのか、今は何も分からないのだ。

 もし私のスキル【修羅】がマトモに会話出来たなら何かしら知っていそうだけど、コイツはパッシブスキルの癖に基本寝ていて、コチラからコンタクトが取れない。


「つってもなぁ、だいぶ拠点が安定したけど、自給自足って訳じゃないし」

「いちおう、腐肉のダンジョンがあるから食料物資は不足しないよ?」

「それでもだよ。そもそもダンジョンがどんな存在なのかも分かってないんだから、突然供給が止まるかも知れないだろ? 食肉ダンジョンだってここだってそうだ。訳分からんルールにコッチの手綱握られてる状況より、自分達で食糧を生産出来た方がずっと安心出来るだろ」


 そう言えば前に、交流会で太郎さんがゴブリンを使って農業を云々なんて言っていた事を思い出す。

 ゴブリンなんて私の父さんと母さんをぐちゃぐちゃに殺してくれたクソゴミモンスターをテイムするなんて業腹過ぎて死ねるけど、例えばオークダンジョンでオークを複数テイムして農業をさせるのは有りかもしれない。

 あれも三体は余裕で殺しているし、なんなら好んで食している。完全調教の条件は整っているのだ。

 ペットフードも相当数あるし、餌なら周辺にゴブリンが湧く。

 奴らは毛むくじゃらで獣臭く、精霊と違って抜け毛もあるだろうし排泄もするだろうから、家の中には絶対に入れたくないけど、まぁ庭で雑用させるくらいなら構わないだろう。

 塀の外にはまだ土地が余っているし、流石にアスファルトの下の土で農業が出来るとは思わないが、なんならもう完成してる畑の土をどっかの農地からパクって来ても良い。


「よし、一旦拠点を完全に完成させよう」

「……え? あれで完成じゃなかったのかよ姉ちゃん」

「壁の中とワイバーン小屋は完全で良いよ。家の魔改造も元に戻しちゃったけど、あの城壁とワイバーンが居れば大体の事は大丈夫だろ」


 ちなみにワイバーンもレベリングを行わせているので、現在百三十レベルくらいになってる。


「じゃぁ、なんだ? 塀の外に別の家でも建てるのか?」

「お前話し聞いてなかったのか? 自給自足したいって言ってんだろが。畑作るんだよ、は、た、け!」

「おおー。野菜がとれるなら母さんめちゃ喜ぶな」

「ホムセン資材に野菜の種もそこそこ有るしな。芋類と根菜は鉄板として、葉野菜と夏野菜系かな? そこそこ大規模にやるか」


 春樹が百四十レベルを達成した頃には日も暮れて来たので、私は計画を雪子と詰めるべく、そして雪子の作る夕食を食すべく急いで家に帰った。


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