第74話同じ失敗は繰返さない

そしてその後は何事も無く休憩時間も終わり後半の仕事も何も問題無く捌く事ができ退勤時間である。


私達は小太りマダムと先輩おばさんと一緒に退勤の準備に向かう。


因みにこの時間は夜間担当と入れ替わる時間帯である為一日で一番混雑している時間帯だったりする。


「何?もう上がり?」


そんな時、件の爽やか社員さんが私達にフランクな感じで話しかけて来る。


「はぁ、まぁ、そうですけど」

「だったらコレから一緒に飲みに行かない?俺も後一時間で終わりだからさ」

「いえ、これから子供の送り迎えがありますので」

「えー、そんなの誰かに預ければ良いじゃん。一日くらい大丈夫だって」


そしてこの爽やか社員さんは小太りマダムや先輩おばさん達は無視して私だけに話しかけて来る上に、私だけ見て一緒に飲みに行こうと言うでは無いか。


もはや彼にとっては小太りマダムも先輩おばさんも眼中には入っていないのがありありと伝わって来る。


流石に真奈美の送り迎えもあるし断ると真奈美を誰かに預ければ良いと返して来る。


あり得ないと思った。


百歩譲って初日でいきなり飲みに誘うのは親睦を深めるという意味でもありなのかもしれないし、独身であれば出逢いの可能性として行動を起こす人もいるだろう。


しかしながらこの爽やか社員さんは左手薬指を見てもどう考えても既婚者であるにも関わらずこの様に飲みに誘うどころか、私に子供がいる事を伝えてもそれがどうしたのだといった感じである。


普通、子供の送り迎えという言葉を聞いたら指輪はしていなくとも既婚者であると躊躇するものだろう。


しかも私は未練がましくもまだ左手薬指には指輪を嵌めているにも関わらずこの男はあんな態度を取って来るのだ。


一応、この指輪は戒めでもある上に男対策でもある。


指輪をするだけでまともな価値観の男性は言い寄っては来ないだろう。


そう、言い寄って来るのは目に前にいる価値観が狂っている訪れるだけだ。


そして私は相手を見て心底嫌悪感を感じ、それと共に元夫や私の親達は今私が感じている以上の嫌悪感を感じているのであろうと気付く。


そうだ。


あの頃の私は目の前の男と同レベルだったのである。


こうして客観的に見る事が出来た事により、その事に気付いた私は思わずゾッとしてしまった。


「無理です。そもそもあなた既婚者ですよね?」

「そんなのバレなきゃやってないのと同じだって。大丈夫。前は失敗したけど俺出来る男だからさ、同じ失敗は繰返さないよ」


あぁ、一気に頭が痛くなって来る。

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