第34話二人でカレーライスを作った日
「ただいま………」
「あ、お帰りなさい。高城が朝帰りなんて珍しいわね。昨日のご飯の残りがあるけどどうする?」
そんな暗い気持ちのまま家に帰ると北川が出迎えてくれる。
何だか帰りを待ってくれる人がいるのも良いもんだな、と今更ながら再確認すると共に俺は思う。
北川も、俺の元婚約者と同じ様にパートナーを裏切ったのだと。
「あ、あぁ。いつもありがとう。レンジで温めて食べるよって、何してんだよっ!?」
そして靴を脱ぎダイニングへと行く途中で北川が俺の胸へと頭を埋めてくるではないか。
「女の匂い………」
ひとしきり匂いを嗅ぎ終えると北川がボソリと呟く。
「悪いか?」
何だか俺まで浮気をした様な感覚になるもそもそも俺と北川はルームシェアの関係であり男女の関係では無いはずである。
何をしようと、誰と寝おうと、誰と付き合おうと俺の勝手ではないか。
「良いね良いねっ!それでこそ男の子だっ!朝帰り特有の酒と香水の香りと男香りを漂わせて帰る。男してるねぇ高城っ!」
そんな事を思いながら北川を振り払って進もうとしたその時、北川が嬉しそうに俺の肩をバンバンと叩き出すではないか。
あぁ、なるほど。
そういう事か。
「残念だが北川」
「うん?」
「最後まで出来なかった。やっぱり役立たずだったよ」
「……………そっかそっか。お姉さんの胸で泣いても良いよ?」
「誰がお姉さんだ。むしろ俺の方が半年お兄さんだこの野郎」
俺の言葉に北川は一瞬だけ悲しそうな顔をした後両の腕を広げお姉さんぶりながら胸を貸すと言ってくるので丁重にお断りする。
「うん、でも大きな一歩だ少年」
「うるせーし、うぜー」
かたや不倫した側、かたや浮気された側。
それでも互いで互いの傷を舐め合う関係がどこか心地良く感じてしまう。
そして俺は北川の頭を軽く小突くと作り置きしてくれていた惣菜を冷蔵庫から取り出して電子レンジで温め直す。
「何だこれ?豚肉?レバーじゃなくて?」
「私の母の味。そして真奈美の母の味でもある」
「………そっか」
「私はレバーより断然好きだな、これ」
その日初めて食べたニラ豚はどこか塩辛く感じるのであった。
◆
その日、夢を見た。
とても甘酸っぱく、懐かしい夢だ。
高城と二人でカレーライスを作った日で、私の初めての日の事だ。
「いらっしゃい。今日、親いないから」
チャイムを押して開いた扉の向こうで高城が恥ずかしそうにそう言いながら出迎えてくれる。
「そ、そう。い、一応手ぶらじゃ何だから近くのコンビニでお菓子とかジュース買ってきたんだけど………」
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