第28話我儘
「何だか、すみません」
「こちらこそ息子さんにはいつもああやってお世話されている様で………」
そしてお互いに苦笑いをする。
きっと、彼も彼で苦労しているのであろう。
もしかすれば私以上の苦労をしているのかも知れない。
それでも息子の前ではそういった表情は微塵も出さずに息子の事を第一に考えている事が伝わってくる。
「最近、一気に寒くなってきましたね」
「そうですね………風邪をひかないか心配ではあるんですけどこの感じだとお互い大丈夫そうですね。元気いっぱいと言った感じで少しだけその元気を分けてもらいたいくらいですね」
そんな当たり障りのない事を話しながら真奈美達が手を洗い戻って来るのを待つ。
真奈美は手を適当に洗ってこちらへと戻って来ようとするのだが達也君がそれを良しとせず『先生に教わった通りに手を洗わないといけないんだぞ』と指摘しながら真奈美の手を指の間まで擦らせているのが見える。
そして、やっと達也君のオッケーが出たのか二人揃って戻って来るのだが真奈美の服は水で濡れていた。
淑女にはまだまだ遠い様だ。
それにあれくらいであれば自電車で帰宅している途中で乾くだろう。
「ありがとう、達也君。明日も真奈美の事お願いね」
「まかせろっ!」
そして達也君は先程自分が言っていた言葉などすっかり忘れてしまったのか私のお願いを元気いっぱいに引き受けてくれた。
そんな達也君とそのパパさんに手を振りながら自転車置き場へ向かい真奈美を後ろに乗せて帰路に着く。
今や真奈美を乗せて自転車を運転するなどお手の物である。
そして帰宅すると汚れた足で床を汚さない様に真奈美を抱きかかえて真っ先にお風呂に入る。
私は職場での油汚れを、真奈美は保育園での泥汚れを、二人揃って一日の汚れを落とす。
因みに高城とはお風呂のタイミングがずれる為シャワーでささっと落とすだけなのだが週に一度日曜日は銭湯で行き湯船に肩まで浸かる。
今では真奈美はそれが楽しみの一つになっており、ある意そのおかげである程度真奈美の我儘をコントロール出来る様になった為有難い誤算である。
と、言っても離婚以降と比べると我儘をあまり言わなくなってしまったのだが、それは寂しさから私の気を引こうとした為か、今現在真奈美なりに私に気を使っているのか今となっては分からない。
「ぼーしっ!ぼーしっ!」
そして私がそんな事を考えていると真奈美からピンクのシャンプーハットを被らせろと御命令が飛んでくる。
「はい、帽子」
「んっ!」
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