第20話何だか心地良い疲れ




動物園に行ってから一カ月と少しが経った。


真奈美の転園も無事終わり新しい保育園へ三日前から通い始めている。


前住んでいたところの感覚だと待機児童という事も覚悟していたのだが意外とすんなり転園できてなんだか嬉しい誤算である。


地域によって全然違うという噂はどうやら本当であったようだ。


それまでは電車で二時間も乗って通っていたのだからその登園時間がなくなるのはかなり大きい。


マナにとっては電車で通うにはそれはそれで楽しんでいたし、お友達や先生とのお別れもあり、そして新たな環境での不安もある事だろう。


子供に罪は無い。


けれどもこの一カ月間もの間、親の罪で一番被害を被っていたのは他ならぬ真奈美であったと思う。


だからこそ財産分と独身時代に貯めていた貯金を切り崩して定期を買い毎日二時間かけて保育園へ、帰るのも面倒なので近所の図書館で時間を潰す日々を過ごした。


そんなもの、全て偽善だという事は分かっている。


「だめだだめだ。笑顔笑顔」


そして私は今浮いた時間を使いバイトを今日から始める。


勤務時間勤務日数は週五の四時間、真奈美が保育園にいる時間帯だけという事で残業は出来ないという条件かつ数年間専業主婦でブランクがある私をわざわざ雇ってくれたバイト先は今住んでいる高城の家より少し遠くにあるスーパーマーケットである。


流石に近所はよく使うので避けた。


そして私は心の中で笑顔と連呼して店の裏にある従業員用の扉を開ける。


「おはようございますっ!今日からこちらで働かせて頂く北川彩と申しますっ!」


そう、会う人会う人元気良く挨拶をしていく。


今の私に出来る事は元気に挨拶、それだけである。


だから出来る事を今は精一杯やるだけだ。


「えっと、じゃぁ北川ちゃんはお惣菜コーナーで料理担当として働いて貰いましょうか」

「はっ、はいっ!!」


そして私は新人担当の先輩のもとで一から仕事を教えて貰う。


初めに教えられたのは唐揚げの作り方で、鶏モモ肉の加工の仕方、下処理、切り分ける際のグラム数に味付けに揚げ時間、小、中、大の商品毎のグラム数、そういった事を全てメモしていく。


久しぶりの仕事、それも立ちっぱなしというのはたった四時間であっても身体は思っていた以上に疲れ果てていた。


でも、何だか心地良い疲れでもあった。


そして最後に引き継ぎのやり方と日報の書き方、シフトの希望用紙の出し方、タイムカードの退勤の切り方などを教えて貰い帰り支度を始める。


そして油の匂いが染み付いた仕事着を畳み鞄にしまうついでにスマホを取り出すと、画面には元夫の名前が映ってた。


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ポポーポポポポ、ポポーポポポポ、ポポポポポ~_(:3 」∠)_呼び込み君だと最近知りました

きっとヒロインはこの音が頭から離れなくなる事でしょう。


スーパーでは働いた事ないのでおかしな描写があるかもです。

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