第173話 東南西北白初中、勇愛紫(陽花)


 視線を覆う程の魔獣を相手にしながら、徐々に戦線を押し上げていく。

 “黒船”と魔術師隊からの援護射撃が飛んで来る時には、警告の笛が鳴り一斉にその場を離れる事になっている。

 かなり危険な作戦ではあるが、それでも今の所ミスなく進んでいるのは確か。

 ドワーフメンツに関しては、仲間も入り乱れる戦地に大砲をぶち込む役目を背負っているのだ。

 相当精神をすり減らしている事だろう。

 とはいえ誤射なく済んでいるのは、流石としか言いようがないが。


 「シャァァ!」


 叫び声を上げながら二本の槍をぶん回していれば。


 「シッ!」


 すぐ近くの魔獣をあり得ない速度で両断していく勇者。

 相も変わらず、コイツはチート組の様だ。

 そんな彼と背中を合わせてみれば。


 「黒鎧、その……ありがとう」


 「急になんだよ、気持ち悪ぃな」


 「望の事だよ。俺との約束も、アイツの事もちゃんと守ってくれた」


 すぐさま互いに走り出し、迫り来る魔獣に刃を叩き込む。

 しかし、数が多い。

 前日同様に猪突猛進の御様子で、数匹片付けた程度じゃ足止めにもなりゃしない。


 「勇者! カバー!」


 目の前に迫った王猪の集団に舌打ちを溢してから叫んでみれば、俺の隣を光の魔法が通り過ぎていく。

 相変わらずとんでもねぇ威力だ事。

 ギルもアナベルも、そんでもって聖女もいるからな。

 コイツを特攻隊に引き抜いておいて正解だったぜ。


 「穴が開いた! 突っ込むぞ!」


 「おうっ!」


 二人並んで獣の集団に飛び込み、再び武器をぶん回し続けていれば。

 すぐ隣からボキンッ! と、随分鈍い音が聞えて来た。

 チラッと視線を向けてみれば、勇者が使っていた長剣が根元から砕けているではないか。


 「なぁっ!? お前勇者なんだからもっと良い武器使えよ!」


 「悪食の鍛冶師に作って貰ったのもあるけど、アレは魔法使う時の為に取って置かないといけないんだよ!」


 「だぁくそ、世話の焼ける!」


 「大丈夫だ! 目の前に集中してくれ!」


 いや剣が折れてんのにどうすんだよ。

 なんて事を考えた瞬間、勇者の坊主は左手に着いた義手を魔獣の胸に差し込んだではないか。

 そして、随分と聞き覚えのあるパリンッ! という軽い音が聞こえ、魔獣が大人しくなる。


 「大丈夫だって言ったろ、剣も予備がある」


 獣から義手を引っこ抜くと同時に、腰に着いたマジックバッグから新しい長剣を取り出す勇者。

 うーむ、蛮族。

 人の事は言えない気がするが、人がやっているのをみると普通にドン引きするね。

 俺も周りからはこんな風に見られていたのだろうか。


 「そういや忘れてた。勇者、土産だ」


 近くの魔獣に槍を投げつけてからマジックバッグに手を突っ込み、飯島で勇者東(笑)が引っこ抜いた長剣を引っ張り出して放り投げた。


 「……なんだこれ」


 「なんか結構な付与魔法が付いてるんだってよ、使ってみろよ」


 さてさてどんな効果があるのか、実際使える人間が持たないとその効果さえ分からないからな。

 エルフ姫のリナも認めるくらい、“結構な付与が付いている”と言っていたのだ。

 興味あるじゃない。

 チラチラと視線を送りながら、先程ぶん投げた槍を引っこ抜いてみれば。


 「いや、うん。どうも……じゃなくてさ! 付与云々の前に何か台座がくっ付いてるんだけど!? なんだよコレ!」


 今では両手に長剣を携えた勇者が、必死に剣を振り回している。

 おぉー、見た目はそれこそ主人公キャラみたいになっているじゃないか。

 片方の剣の先っぽに台座くっ付いたままだけど。


 「だぁもう、抜けねぇ!」


 「思いっきり引っ叩くか、魔法でも使えば粉々になるんじゃねぇの?」


 「アンタ結構いい加減だよなホント! だぁもう! “光剣”!」


 という訳で、義手で掴んでいるお土産の方から光が噴射する訳だが。


 「……何それ」


 「……いや、良く分かんないけど」


 確かに“光剣”の魔法は発射された。

 だというのに、お土産の長剣には何か残っているのだ。

 剣の上から、魔法の残滓が残ったかの様に。

 元の長剣の上に、彼の光魔法が剣の形をして残っている。

 なにこれスゲェ、マジで魔剣じゃん。

 剣の長さが、魔法込みで倍くらいになってる。


 「と、とりあえず使ってみる!」


 「ちょぉ!? あぶねぇな! 振り回すな!」


 二刀流になった勇者が土産を振り回している訳だが、ソレと一緒に剣に残っている“光剣”のお残しも振り回されるので堪ったもんじゃない。

 ブォンブォンと、ちょっとロマンある音がしているのがズルい。

 俺もそういうの欲しい。

 なんて事を思っている間にも、勇者は超ロングソードで魔獣を切り刻んだ。


 「うぉぉぉ! すげぇ! マジで光剣が残留してる感じだ! 滅茶苦茶斬れる!」


 「分かったから片方仕舞え! お前片手で長剣使うのに慣れてねぇだろ! めっちゃ危ねぇ!」


 ブォンブォンと恐ろしい長剣を振り回し、今まで以上の速度で殲滅していく勇者様。

 なんか、とんでもない代物を渡してしまった気がする。


 ――――


 「何やってんだありゃ? 最前線も最前線、その先っぽで暴走特急やってるってのに……元気だなぁこうちゃん達」


 街道脇に潜みながら、すぐ近くで暴れているこうちゃんと勇者に視線をやってみれば思わずため息が零れた。

 こんだけワラワラと魔獣が来てるっつぅのに、何遊んでるんだか。

 後ろを着いていく特攻隊の皆様も大変そうだ。


 「西田さん、皆準備出来ましたよ」


 スッと音も無く隣に現れた中島さんに、グッと親指を立てて返す。

 彼の後ろに、街道の反対側に。

 俺の様な斥候組が隠れているのが見える。

 真正面はこうちゃんに勇者、そして近接組がかき乱してくれているので、漏れた奴の始末と近接組を手助けするのが俺達の役目。

 だというのに……。


 「あぁ、なんだ。一番先頭には近づかない方が良いかもな。こうちゃんは暴れてるし、勇者も良く分からんロマン装備を振り回してる。多分近づくだけで怪我するぜありゃ」


 持ち帰った土産の長剣にも見える気がするが……気のせいって事にしておこう。

 しらん、頑張れ。

 俺達のせいじゃない。


 「うっし、俺達も行くぜ。前もって伝えた通り、俺が暴れるから皆はヒット&アウェイ。南ちゃんと白ちゃんだけは、こっちと一緒に援護頼むな。足、自信あんだろ?」


 「当然、舐めるな西」


 「お供致します」


 頼もしい少女二人の頭に手を置いてから、今一度前線の様子を確認する。

 特に変化なし。馬鹿二人が暴れ、残りを続く兵士やウォーカーが討伐している。

 カイルさんも一緒だし、多分何とかなんだろ。

 いよし、そんじゃ行きますかね。


 「中島さんには、ちょっと派手に暴れてもらう事になるけど問題ねぇよな? 期待してるぜ、新しいそのカッチョイイグローブ」


 「ご期待には応えて見せますよ。囮二号は私がきっちりとこなします」


 えらく格好良い爪付きグローブを鳴らす中島さんは、ニッと口元を吊り上げてから眼鏡を押し上げた。

 彼の手首辺りでは、キュィィンと何かモーター音が響いている。

 糸だよ、糸使いだよ。

 むしろ俺がその装備欲しいわ。

 何て事を思いながら、しばらく彼の装備をガン見した後。


 「羨ましいけど……我慢すっか。よし、んじゃそろそろ行くぜぃ」


 呟いた瞬間に、地面を蹴った。

 目の前に迫る木々に足を叩きつけ、再び“跳ぶ”。

 いつからだろうか、レベルが結構上がって来た頃にはこんな感じになっていた気がする。

 縦横無尽に飛び回り、視界の全てが“足場”に変わる。

 壁でも天井でも関係ない、蹴って、跳んで。

 その勢いが失われない内に“何処か”に着地して、再び“跳ぶ”。

 元々俺は足が速かった、足だけは自信があった。

 だとしても、ここまで来たら流石に化け物だ。

 自分でもそんな風に感じるくらいに、俺たちは成長していた。

 鎧も、武器も、道具も。

 全て良い物を揃えて貰っているのだ。

 だったら、俺達だってソレに答えてやらなきゃ嘘ってもんだ。

 昔よりずっと強くなった、ずっと速くなった。

 だが、まだまだなのだ。

 俺一人じゃ、何にも出来ない。

 だからこそもっと先を目指せ、もっと速く走れ。

 それだけを考えて、こうちゃん達に迫ろうとしていた獣たちの首を刎ねる。


 「あんまり遊んでるなよ? そこの二人」


 ニッと口元を吊り上げながら、両手に持ったマチェットを違う魔獣に向かって放り投げた。

 そして、手首に着いた“新装備”を起動させる。

 籠手に取り付けられた、俺の新しい“趣味全開装備”。

 ワイヤー、マジでそれだけ。

 だとしても、とんでもない威力で引っ張ってくれる代物らしく。


 「オラオラ! ワイヤーアクションだぜ!」


 マチェットに取り付けたワイヤーを引っ張りながら動き回り、周囲の魔獣を遠心力で切り刻んでいく。

 更には。


 「よっと」


 遠くの木にアンカーを打ち込み、ワイヤーを巻き取りながら周囲を蹴る。

 コレにより空中でより立体的な動きが出来るようになった訳だ。

 アメリカンな蜘蛛男になった気分。

 彼みたいに色々な場所に糸を飛ばす事は出来ない上に、着地地点が決まっているので結構頭を使いながらじゃないと相手に気取られるが。

 それでも、いろんな場面で使えそうな武装である事には間違いない。


 「西、ちょっと避けて。“使う”」


 「あいよ」


 白ちゃんからおっかない声が聞えたので、すぐさま脇の木々へとアンカーをぶち込んで横に退避する。

 次の瞬間、すぐ近くを突き抜けていく“剣”。

 吹っ飛ばされそうな暴風を纏いながら、彼女が弓で放った剣……“趣味全開装備の矢”が通り過ぎた。

 もうアレ剣だよ、矢じゃねぇよ。

 白ちゃんの魔法適性と合わせて作られたソレは、消耗品にしては惜しいどころじゃない素材の数々が使われているらしい。

 ソイツを容赦なくぶち込めば、周りの魔獣を風が切り刻みながら地面に着弾する。

 確かデイジーカッターとスラングで呼ばれた爆弾があったはずだ。

 それが爆発した際、周辺の木々が雑草のように刈り取られるそうだ。

 兵器に詳しい訳じゃないから、正確な事まではわからないが。

 彼女の装備は、その表現に近い気がする。


 「ハハッ、巻き込まれたらひとたまりもないなこりゃ」


 とかなんとか、乾いた笑みを溢していれば。


 「アッチを見ても、同じ事、言える?」


 近くまで寄ってきた白ちゃんが、静かに後方を指さしていた。

 その先では。


 「皆様、指示は忘れていませんね? 欲張らない、一撃必中、そして逃げる。この繰り返しです、難しい事はないでしょう? 囮は私が引き受けますので、存分に暴れて下さいませ」


 周囲から多くの斥候が切り込み、すぐさま隠れる中。

 後方でただ一人、俺と同じように姿を晒し続けている奴がいた。

 悪食メンツの中では一番常識的、なんて思っていた筈の中島さんが。

 周囲に“糸”を張り巡らせて静かに“踊っている”のだ。

 正確に言えば、少し不思議な動きをしながら静かに歩いているだけなのだが。

 ステップでも踏む様にコツコツと踵を鳴らしながら、周囲の糸を調整して動き回っている。

 俺と違って、小さな動きで広範囲の敵を捕らえている様な。

 そんな、蜘蛛みたいな動き。

 彼に迫る魔獣は端から絡め取られ、切断され、細切れにされていく。

 それこそ、彼の指先一つの動きで“蜘蛛の巣”の形が次々と変わるのだ。

 こっわ、何アレこっわ。


 「ありゃ……巻き込まれる前に近づく事さえご遠慮したいな」


 「同意、物凄く」


 二人してうんうんと頷いていれば、また新しい影がすぐ近くを通り過ぎた。


 「お二人共! サボっている暇はありませんよ! 後続来ます!」


 叫び声を上げる南ちゃんが、近接組の元へと向かおうとしていた魔獣を仕留めていく。

 再び改造を施されたクロスボウ。

 形も何かゴツくなっているし、連射速度も精度も上がっているらしい。

 そんでもって、カチリと彼女が何かを押し込んでみれば。


 「少しだけ、場所を開けます」


 彼女にしては珍しく、狙いすませたかの様に一本だけ矢を放つと。

 ズドンと、小さな爆発が起きた。

 それでもこうちゃんの突撃槍や白ちゃんの矢に比べて“小さな爆発”。

 普通に考えれば、アレでも結構な威力だけど。

 手榴弾か何かかよ。

 なんて思ってしまう程の爆発が、視界の先で炸裂した。


 「俺達は何処に向かおうとしているんだろうか……」


 「とりあえずは、勝利へと?」


 「格好いい事言うじゃん、白ちゃん」


 言ってやったぜ、とばかりにドヤ顔で親指を立てる白ちゃんに呆れた笑みを返しながらも、再び俺達は地を蹴るのであった。


 ――――


 船の目の前。

 それなりに距離は空いているが、普通に視界で捕えられる程度の位置取り。

 まぁ、黒船がデカいので結構離れても見えるだろうが。

 そんな場所に、僕たちは立っていた。


 「せってーき! 抜けて来た魔獣と思われます!」


 兵士さんが声を上げれば、そこら中でガチャガチャと鎧の音が響く。

 誰も彼もやはりどこか緊張した様子で、呼吸も荒いモノが聞こえて来る。

 なので。


 「ウオォォォォォ!」


 とりあえず、声を張り上げてみた。

 僕に出来る事は少ない。

 守って、殴って、力任せに叩き伏せるくらいだ。

 だから、北君の真似をしてみた。

 声を上げ、誰よりも先頭に立ってみた。

 そして、西君の真似をした。


 「皆、おこぼれが来たよ! コレを食べておかないと、僕達立っているだけになっちゃうからね! 満腹になって帰って来た皆をハンカチくわえながら“おかえり”って言う事になるよ!」


 いつだって飄々としていて、どんなに不味い事態でも軽い笑みを浮かべて冗談を言う。

 そんな頼もしい彼等の真似をして、僕は全力で笑って見せた。

 周りを引っ張っていく為に。


 「初手貰うね! パイル……バンカァァ!」


 両手に装備した大盾の裏に仕込まれた装備。

 前回の“趣味全開装備”同様、杭を打ち出す大盾。

 でも、今回はそれ以上の“遊び心”が加えられているのだ。

 早く動けない僕をサポートしてくる、馬鹿みたいな装備が。


 「ウォォォォ! ひっくり返せぇぇ!」


 地面に叩き込んだ杭。

 ソレを使って、テコの原理で“地面”を剥がす。

 元々街道として整備されていた道だ、更には多くの人や馬車が踏み固めた大地。

 ソイツに対して、思いっきり亀裂を入れてやった。


 「アズマさん……マジ?」


 「え、えっと……バフ、要ります?」


 アイリさんとアナベルさんからドン引きした声が聞こえて来るが、今だけは聞かなかった事にしよう。

 大人二、三人くらい入りそうな穴が出来上がり、硬い大地は分離して僕の腕に抱かれている。

 という事で。


 「どっせぇぇい!」


 とりあえず、先頭集団にぶん投げる。

 大地の欠片(街道)は魔獣達の先頭集団に直撃して、盛大に砕け散った。

 周りはその欠片を鬱陶しそうにしながらも、獣たちが真っすぐこちらに進んでくる。


 「魔術師部隊、放ちなさい!」


 「弓兵も援護! 一匹も通すな!」


 お姫様と支部長の声が上がり、周囲から魔法や矢の数々が降り注ぐ。

 それでも魔獣の勢いは止まらない。

 これでも、“おこぼれ”なのだ。

 前線ではどんな数が蠢いている事やら。


 「アナベルさん! アイリさん! 初美ちゃんもどこかに居る!?」


 「居ますよ! 影薄いみたいに言わないで下さい!」


 「アズマさん、いけますよ! “氷界”!」


 悪食の魔女様が魔法を使えば、迫って来た魔獣達の前方部隊が白く凍り付いた。

 氷像と化した仲間達を避ける様に、他の魔獣も迫って来る。


 「アズマさん、合わせるよ! 久々のパワータッグ!」


 「期待してます、着いて来て下さいね」


 「え?」


 彼女の声を聞いた瞬間に、“盾”を使った。

 趣味全開装備、なんて呼ばれているけど。

 これは多分他のメンバーの“趣味”が反映された装備だ。

 杭が放たれる逆の方向に、不自然に開いた四角い穴。

 まるで車のマフラーみたいだ、なんて感想が出そうなそれから衝撃と炎が撒き上がった。

 僕はヒーローに憧れていたんだ、だというのに。

 これじゃまるでロボットじゃないか。


 「ブーストォォォ!」


 「ちょぉぉぉ!? アズマさぁん!?」


 いつもなら絶対追い付かないアイリさんを置き去りにして、僕は敵のど真ん中に突っ込んでいく。

 ブースターだ、もはや戦闘機か人型ロボットみたいになっている。

 北君の突撃槍が一点集中の爆発を叩き込む武器だとすれば、僕のは広範囲に爆発の威力をまき散らし、“反動”を使ってとにかく前進する為だけに作られた物。

 足の遅い僕が、皆と一緒に“突っ込んでいける”為の装備。

 生憎、威力があり過ぎて敵のど真ん中で盾を振り回しながら暴れる結果になってしまったが。

 とはいえ、これは凄いのが来た。

 東、行きまーす! と言っても怒られなそうな雰囲気で突撃出来るのだ。


 「なんでこう……三人に渡す武器はいつも頭おかしい訳!?」


 「あぁ、嫌だなぁ……コレを見るとますます“あの装備”を使うのが怖いです」


 そんな事を呟きながら、アイリさんと初美ちゃんが魔獣の群れに飛び込んで来た。

 良し、勢いとしちゃ問題ない。

 僕達の仕事は最後の最後、皆が頑張ってくれた後の“お残し”を、魔術師と弓兵と協力して一匹残らず駆逐する事。

 それが、“盾”の部隊。

 国の最終防衛ラインにして、鼠一匹通さない“鉄壁”でなければならない。

 だからこそ、叫んだ。


 「皆のお陰で全然少ないよ! こんなのに抜けられたなんて言ったら笑われちゃう! 僕達は“盾”だ! この国を守る最後の“壁”だ! 皆気合い入れていこぉ!」


 叫びながら大盾を振り回していれば、船の方からガツンッ! と鉄を叩く音が聞こえて来る。

 視界を向けてみれば、納得したとばかりに微笑みが零れてしまう光景が広がっていた。

 兵士ならではと言って良いのか、びっくりする程綺麗に整った盾がこちらに迫って来るのだから。

 もう、不安はない。

 今の彼等なら、絶対に“抜けられる”事など無いだろう。


 「よし! 駆け巡るよ! ブースタァァ!」


 「アズマぁぁ! そう動き回られちゃ矢も魔法も放ちづらくなるだろうがぁぁ! どうにかそこで留まれ! 動きたいなら合図を出すからその時に頼む! お願いだから! こっちでも援護すっから!」


 船の上に居るギルさんにえらい勢いで怒られて、結局大人しくその場で大盾を振り回す。

 皆の方は大丈夫かな? なんて思ってしまうが、まぁ多分余計な心配なのだろう。

 特攻馬鹿のあの二人が居て、他にも頼もしいメンツが揃っているのだ。

 なんたって屍竜に対して、フォーメーション”猪”をやるくらいにぶっ飛んでいる二人。

 だったら、心配するだけ無駄だというものだろう。


 「ちなみにブーストをこんな風に使えば、急旋回も出来ます」


 「アズマさんが……滅茶苦茶機敏に動いてる……」


 「一応“影”で足止めしてますけど、蹂躙する姿が魔王なんですよねぇ……」


 お二方からいろいろお言葉を頂きながら、僕達は国の入り口前で暴れ続けるのであった。

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