第139話 ダンジョン 2
「よっと! まだそれなりに浅い層だってのに、結構数が居るのな」
「だな、人も割と早い段階で少なくなって来たし」
「連携取って来る相手も居るから、攻略とか本気で難しいかもしれないねコレ」
俺達の周りには、でかっぱらのオークの集団。
ブタッ面というより、猪みたいな顔に毛並み。
そんでもって、皆鎧を着ていた。
「普段はこんなに出る事って少ないんだけどなぁ……どこかの層に新しいボスでも生まれたかな?」
「儂らも久しぶりじゃからのぉ。 とはいえ報告も上がって来ていないとなると、本当にそうなのかもしれん」
王族二人がそんな事を呟いてはいるが、当の本人達はまだまだ余裕だと言いたげにダンジョン内を走り回っている。
姫様の方は“出来る”事が分かっていたが、まさか爺さんの方まであそこまで強いとは。
「こんな奴らでも攻略無理なのか? だったらマジで厳しくねぇか?」
「君達みたいな化け物に言われてもねぇ」
「誰が化け物じゃい、こちとらただの人間だ」
「普通の人間は、この数のオークに囲まれれば流石に慌てると思うけどなぁ」
軽い調子で言葉を交わしながらリナは鉄扇を振り回し、アルフは走り回りながら魔法を行使する。
手慣れたもんだねぇと感心してしまう程、二人共戦い慣れている様に見える。
こりゃこっちも負けてらんねぇわな。
「南、ロープ付きの銛。 いい加減面倒になって来たからまとめるぞ」
「はい、ご主人様。 あまりお二人に頼ってばかりでも恰好がつきませんからね」
南もやはり思う所があったのか、すぐさま鮫の時に使っていた銛を俺に向かって差し出して来た。
「西田、簀巻きを作るぞ! 東は合図と同時に下がれ! 聖女コンビ! ブレス(小)準備! 魔力温存気味で頼むぞ!」
「「「了解!」」」
『食えない奴は焼き払うに限るね』
という訳で東が抑えている先頭のヤツに向かって、思いっきり銛をぶん投げる。
胴体の鎧を貫通し、オークの胸に深々と突き刺さった銛。
本来なら鎧の隙間なんかを狙う訳だが、今回はアンカーの代わりになってもらう為、銛を一本犠牲にしてでも“固定”しておきたい。
「東下がれ! 西田!」
「あいよぉ!」
銛の石突から伸びるロープを西田に放り投げれば、返事が聞えたすぐ後から姿が消えた。
「はっや……君らホントに“人族”?」
「カッカッカ、儂にはもはや見えん」
呆れた声を上げる二人が隣に戻って来る。
こんなに密集してしまえば、すぐさまオーク達がこっちに突っ込んできそうな所だが。
追撃はなし。
むしろそこら中でずっこけたり、仲間同士でおしくらまんじゅうしたりと大忙し。
「大体まとめた! こうちゃん後頼む!」
戻って来た西田にロープを投げ返され、ソイツを今度は思いっきり引っ張った。
括りつけられていたり、縛られている様な奴も居るが、とりあえず群れの周りを走り回って来てくれたらしい。
引けば引く程、オークの密集地帯が出来上がる。
「それじゃ、行きますよ?」
『ぶっ放すよー』
声を上げる角っ子に片手を上げて答えれば、ニッと口元を釣り上げた聖女コンビがカパッと大口を開けた。
そして。
「『ブレス!』」
一筋の光が伸び、チュドーン! とばかりに爆発が起きる。
いやぁ、いつ見ても凄い。
これで威力抑えめってのがまた。
ウチの聖女様は大量破壊兵器だね。
今の彼女を教会の連中が見たら、いくらなんでも裸足で逃げ出す事だろう。
パラパラと色んなモノが降ってくる中、随分と静かになったダンジョンの床には大量の魔石だけが転がっていた。
「ドロップ品は無し、と。 あいっ変わらずだなぁオイ」
「なぁんか、やっぱ俺らダンジョンに嫌われてんじゃねぇの?」
「血抜きされてない片腕とか首とかドロップしても、なんにも嬉しくないけどねぇ」
「魔石回収してきますね、皆様お疲れさまでした」
という訳で、戦闘終了。
魔石は結構な量が手に入ったから、まぁ良しとしよう。
「とりあえず今日はこの辺りだな。 野営の準備すんぞー」
「「りょうかーい」」
疲れたとばかりに肩を回しながら指示を出してみれば、王族二人と聖女コンビからは不思議そうな視線を向けられてしまった。
「安全地帯まで行かないんですか?」
『ご飯の途中で邪魔されるのは嫌だなぁ』
「まさか知らないって事はないんじゃろ? ダンジョンには魔獣も魔物も湧かない場所がある事を」
「普通こんな所で休んだりしないよ? どしたの?」
そうだよね、普通は安全な場所があるって言われればそっちで休むよね。
でも嫌です、あそこは安全など欠片もないので嫌いです。
「お前等ダンジョンに潜った時って、周りに誰を付けてた?」
「はい?」
「どういう事?」
「あぁ~なるほど、そう言う事か。 これでも一応王族じゃから、兵士を連れて潜ったが……一般のパーティであれば、面倒もあるじゃろうな」
一人だけ納得がいった様に、うんうんと頷いている爺さんが。
その場で野営準備を始める俺達に「はて?」と首を傾げている娘っ子二人は放置して、とりあえず飯にしよう。
「お前ら、今日は何が食いたい?」
ダンジョン生活数日目。
相変わらずこれと言った成果を上げている気分にはならないが、それでも結構順調に進めているのではなかろうか。
魔石ばっかりでドロップは無し。
宝箱? 何それ美味しいの? ってな具合だが。
結構な速度で下へ下へと向かっているのであった。
このまま進んで、本当に人が居なくなったら“安全地帯”とやらを使っても良いのかもしれない。
――――
「凄いよ、コレは……」
「サクサクふわふわとしていて……噛みしめれば口いっぱいに広がる魚の旨味……コレも魔獣肉なのか?」
神に祈りそうな雰囲気の二人を無視して、俺達もまた“天ぷら”を頬張っていた。
今回はとにかく数の多い小魚系と、漁師に貰った普通軟体生物各種。
そして当然の様に野菜、更には。
「マグロの天ぷら、予想以上にうめぇ」
「コレ凄いね、何も見ずに食べればマグロだって分からないかもしれない。 でもしっかりマグロの旨味が付いて来る……」
「ついでに鯨も混ぜて、唐揚げも作っておくか」
「「是非!」」
そんな訳で、皆さまホクホク顔で天ぷらを堪能しておられる。
はい、何故金も稼げない状況なのにこんなに豪華な夕飯を食っているかと言うと。
ダンジョンが嫌いだからです、以上。
食事ぐらいは豪華にして、テンションを上げようとしている結果に過ぎない。
ちなみに、今食っているのは食前のおつまみ。
決してコレで腹を満たそうとしている訳ではないのだ。
皆バクバク食っているけれども。
まぁ、“煮込んでいる”間の繋ぎだ。
「そろそろ良いかな? 次の魚の唐揚げも揚がる訳だし、お前らどれくらい食う?」
「「特盛で!」」
「知ってた。 南と望は? カナは望の調子を見ながら判断しろ。 割と辛いぞ」
「いっぱい欲しいです!」
「あんまり辛いのは苦手なんですけど……久しぶりにこの香りを嗅ぐと無理です! 食べます!」
という訳で、皆さま特盛ご所望。
大きな皿に特盛ご飯を盛り付け、とろぉっと香り高いコイツを盛り付けていく。
『色がとんでもない事になっているけど、大丈夫なの?』
「馬鹿野郎、コレが正常だ」
カナから突っ込みを頂きつつも、どんどんと皿に盛り分け。
更にはその上に鯨やら鮫やらの唐揚げを乗っけていく。
カレー粉は以前から見ていた。
ソレでカレーを作ろうとしたこともあった。
でも駄目なのだ。
どうしても、辛いというより苦いになってしまったのだ。
カレーに詳しい人からすれば、当たり前だボケと言われてしまいそうだが。
生憎とスパイスから作れる程、俺は詳しくない。
しかし、俺達はついに手に入れた。
“カレールー”を。
という訳で。
「大鍋で煮込んだカレーと、鮫と鯨の唐揚げトッピング。 陸の魔獣肉も一緒に煮込んだから、結構濃厚になってる筈だ。 天ぷらで満足した奴が居たら言えよ? 俺達で喰っちまうから」
ニカッと笑みを浮かべて、王族二人に視線を向けてみれば。
「普通ここで仲間外れにしようとする? あり得ないでしょ、ねぇ。 さっき“突貫魚”の天ぷらで感動したのに、新しく作って貰った料理食わない馬鹿がいると思う?」
「“大食い”の唐揚げ……旨いのぉ。 更には唐揚げが抜群に合いそうなカレー。 うん、非常に良い。 魚介を様々な形で食っては来たが、魔獣肉は全て初体験じゃ。 儂も所望するぞい」
ジジイが初体験とか嬉しそうな顔で公言するな気持ち悪い。
とか何とか思いながらも、二人分新しい皿にカレーを盛り付けて差し出してみれば。
「これで“仲間”だって事で、食事代フリーだったらもっと良かったのに」
「黙れエルフっ娘、金は貰う」
「あはははぁ……君らって結構現実主義だよね」
引きつった笑みを浮かべる姫様も、なんだかんだ言って大盛りカレーを受け取るのであった。
そして。
「ねぇ、コレ市販で売ってたカレー粉なんだよね?」
「ん? あぁ、溶かせばカレーになるっていう“カレールー”だけどな?」
食べ始めたリナから、随分と真剣な眼差しを向けられてしまった。
「ちなみに何を混ぜたの?」
「陸の魔獣の肉と野菜、ウチの商人から貰った赤ワインをちょっと。 後はドラゴンの油肉もちょこっと入れた」
「ドラゴン!? これドラゴンカレー!?」
「正確に言えば、ドラゴンの贅肉カレー」
『酷い言いがかりだ! 私が太っていたみたいに聞こえるじゃないか!』
色んな所から声が上がる中、俺もまたカレーと米を掬って頬張った。
うっま。
じんわりと広がる濃厚な味わいに、ピリッと来る辛さ。
しばらく食っていると額に汗をかいてくるような、後に残る辛さだ。
これはもう間違いなく、家庭で食える辛口カレーだろう。
ひっさびさに食った。
そして、滅茶苦茶うめぇ。
色んな動物からラード……って言ったらアレだが。
あれ? そもそもラードって豚の脂肉だっけか? まぁいいや。
油肉とか様々なモノを使った為、非常に濃厚かつ複雑になっている気もするが……しかし今は難しい事は考えない。
旨ければ良いのだ。
そして何と言っても。
「あぁぁ……鯨の唐揚げもめっちゃ合う。 やっぱカレーには何でも合うのな」
「「カレーは正義」」
「それな、分かる」
そんな訳で、ドデカイ大鍋で作ったカレーは一晩で無くなってしまった。
それくらいに、旨かったのだ。
仕方ないじゃないの。
満足満足。
「今度はチキンカレーでも作ってみるかぁ」
「鳥ですかご主人様!」
一人だけ「まだ食えるぜ」とばかりに食いついて来る仲間が、片付けをしながら眼を輝かせていた。
相変わらず好きだね、君は。
「ウチの国に住んでくれれば、補助金出すのに」
「お断り申し上げる。 高い金出して買った我が家を捨てる気はねぇ」
この国特有の生活支援システム。
とはいえ、アレは国が国民に対して支払うモノであり余所者は当然適用されない。
そりゃそうだ、国を発展させるための補助金を外部に使っていてはキリがない。
というか意味がない。
ただ、その代わり。
「こんだけ食ってんだ、代わりに飯代はたんまり貰うからな」
「そりゃもちろん。 食べた事無いモノも食べさせてもらってるからね、色を付けさせてもらうよ」
つっても魔獣肉を食わせているってだけで、珍しい料理なんぞ俺には作れないが。
寿司だけは初めてだって言ってたから、また今度作っても良いかもしれない。
刺身はあんのに……なんて思ったが、この島は様々な場所へ足を延ばした奴らが、新しい飯の情報を持ち帰るのを繰り返しているらしい。
なので、偏った感じに色々な物が増えていくんだとか。
「ま、期待しとくわ」
「なので明日からもよろしく~」
「あいあい、了解ですよっと」
ヒラヒラと手を振りながら、女性陣はテントの中へと潜り込んでいった。
「何だかんだ、王族と関わっちまったなぁ」
「ま、仕方ないっしょ」
「とは言っても、今回の人たちは良い人そうだし。 あんまり邪険にする事もないんじゃない?」
「ホッホッホ、普通本人を隣に置きながらする話かのぉ?」
なんて事を話しながら、俺たちは交代の時間まで警備に集中するのであった。
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