第36話 旗印


 「なるほど。 だからご主人様方は“こちら”の常識に疎い所があったんですね。 今更ながら納得です」


 「あぁ~うん、ホント色々納得。 王宮で“勇者召喚”の儀式が行われているって噂は前々からあったけど、そんな前からやってたんだ……。 しかもハズレは放り出すとか、えげつないなぁ。 キタヤマさん達の前にも、そういう人たちが居たかもしれないって事だもんね」


 「お前さん達は別の世界から来たんかぁ……長い事生きておるが、珍しい事もあるもんじゃ。 いやぁ、めでたい」


 「トール、もう会ってから随分経ってるんじゃ。 めでたいは違うじゃろ、めでたかったと言うべきじゃ」


 「ニシダ、向こうの酒は旨いんか!? どうなんじゃ!」


 「変な調理器具ばかり注文すると思ったが、そういう事か。 いやぁ、人生面白いのぉ」


 はい、色々言いたい事があります。

 南さんや、今度から言いたい事はその場で言いましょうね?

 溜め込むのは良く無いですよ?

 そしてアイリ。

 君が一番まともな反応だね、でもなんか俺らに対して反応薄くない?

 俺ら異世界人ですよ、宇宙人みたいなもんですよ。

 とりあえず王宮の問題に目を向ける前に、俺らに眼を向けようか。

 ホラホラ、異世界人が目の前に居るよ~?

 もう慣れた、みたいな目で見てないで、色々聞きたい事とか無いのかな?

 ないのか、そうか。

 そしてドワーフ達よ、お前らもう帰れ。

 お前らが一番俺らに抵抗持ってねぇよ、マジで分かってんのかこいつ等。


 「なぁ……なんか皆して反応が淡泊なんだが、本当に分かってる? 俺ら異世界人よ? 余所者な訳よ。 その反応で良いの?」


 なんて事を口にしてみれば、皆してポカンと間抜け面を晒されてしまった。

 何その反応、どうリアクション取れば良いの?


 「ハッ! 異世界人だからなんじゃ、儂らとどこが違うのか言ってみぃ」


 「知識が違う、常識が違うなんて。 国が変われば当たり前だからのぉ」


 「旨い飯と旨い酒の飲み方、それが知れただけでも儂らは儲けもんじゃいのぉ」


 「むしろお前さん達のお陰で面白い仕事が増えてのぉ、楽しくてしかたないわい」


 ドワーフ4人衆が、ガハハと盛大に笑い転げている。

 え、そんなもん?

 そんなあっさりと受け入れられちゃうもんなの?


 「正直に言えば大問題ですよ? 王宮の事も、貴方達の事も。 でも話を聞く限りキタヤマさん達に責任はないじゃないですか。 それに貴方達はこの短い間で様々な成果を上げ、更には人を繋いできました。 そんな貴方達が異世界人だったと知った所で、特別何かが変わったりしませんよ」


 そう言って、アイリは俺達に微笑みかけてくれる。

 なんでこの人結婚相手居ないんだろう。

 マジで疑問なんだが、天使じゃん。

 この世界の貴族連中は絶対眼が腐ってると思うんだ。


 「私にとって、貴方達が何であろうとご主人様ですから」


 「南?」


 「えっと、上手く言えませんけど……私は、ご主人様方と共に居られるから今の幸せがある訳でして。 その、えっと。 異世界人とか、人種とか、そういうの関係なしに……その。 私は皆様と一緒に居られれば、その……幸せなので」


 ヤバイ、ウチの子超良い子。

 もうね、思わず頭ワシャワシャしちゃう。


 「ご、ご主人様! 余り人前で頭を撫でられるのは……は、恥ずかしいので」


 「すまん、だが撫でる」


 「うぅ……」


 UMA扱いとかされるのかと思っていた。

 下手したらとっ捕まえられて、変な研究機関とか城に戻されてサクッと首ちょんぱされるのかと考えた事もあった。

 でも、意外にもあっさり受け入れられてしまった。

 余所者なのに、未確認生命体なのに。

 最初な“無し無し”の俺らだったが、そんな俺達にも、こんなにも受け入れてくれる仲間がいつの間に出来ていたのか。

 そう思うと、思わず目尻が熱くなった。


 「皆、ありがとな」


 「キタヤマさん達は、見ていて飽きないですから」


 「確かに。 ここ最近面白くて仕方ないわ、次はどんな魔獣を狩ってくるのかと楽しみが増えたわい」


 「「「あと飯が旨い」」」


 「例えどんな経緯があろうと、私にとっては“離れたくない”ご主人様達なので」


 ホント、良い仲間に恵まれた。

 そんな風に思っていた矢先。


 「あの、良い雰囲気の所すみません……この子が、その……限界だったようで」


 後ろから、スーツの男性に声を掛けられてしまった。

 そして促されるまま視線を向けてみれば。


 「ちょっ!? おぉい、大丈夫か!?」


 セーラー服の少女が、机に突っ伏したまま動かなくなっていた。

 思わず駆けよると、穏やかな寝息が聞こえてくる。

 あぁ、限界ってそういうことか。

 思わずホッと胸を撫でおろし、そのまま腕に担ぐ。

 随分疲れていたのだろう、無理もない。

 とりあえずベッドに寝かして、今後の方針は明日にでも。

 そんな事を考えた矢先、アイリがピッ! と人差指を立てた。


 「“悪食”のメンバーが増える事は良いですが、些か人数が多いじゃないですか。 最初は良いですけど、今後の活動としてはパーティ行動に問題があります。 違いますか?」


 「まぁ、そうかもな?」


 二人のレベリングもしなきゃだし、この二人が俺達の活動に馴染めるかという問題もある。

 だからこそ、色々考えなきゃいけない訳だが。


 「そこでですよ、この際“クラン”を設立しちゃいませんか? 最低人数10名、最初は税金も個人より高くはなります。 でも名を上げれば大手の依頼があったり、ギルドから依頼の斡旋が優先されたり。 建物を持った時、ソレに対する税金が安くなったりと色々とお得になります! それにいつまでも宿屋ではお金もかかりますし、今だって急に帰って来た時宿が取れない可能性もありますよね?」


 クラン、ねぇ。

 ネトゲで言う所のギルドと一緒。

 一つの旗印の元、集まったプレイヤーの集団。

 確かこっちでも似たような扱いだった筈。

 だがしかし、そもそも条件を満たしていないじゃないか。


 「最低10人なんだろ? そもそも無理じゃねぇか」


 俺、西田、東、南。

 そしてアイリに、今日加わった二人。

 全部で7人しかいない。

 後3人はどこから連れて来いというのか。


 「あん? ここにおるだろうが、4人も」


 「へ?」


 「クランは全員がウォーカーである必要はないからのぉ。 儂らは裏方じゃ」


 「はい?」


 「格安で作ってやるから、今後も何でも言ってみろ。 なんたって建物の税金、つまり儂らの店の税金も安くなるからのぉ」


 「おい」


 「さっきお前さん達が居ない間に話しておったんじゃ。 面白そうだからのぉ、受けてしもうた」


 「えぇ……」


 そんな訳で、外堀は埋められていたらしい。

 全部で11人。

 これで最低条件は突破してしまった訳だ。


 「一応……支部長に相談してからな。 後で文句言われても困る」


 「クランに使用出来そうな“ホーム”は私の方で探しておきますね?」


 「お、お手柔らかに……」


 どうやら、また大きな出費があるらしい。

 あぁもうホント、金足りるのかな……。


 ――――


 「色々と進展があったらしいな、デッドライン」


 「変な名前で呼ぶんじゃねぇよ、仕事増やすぞコラ」


 「もう増えている……」


 「あ、うん。 ゴメン」


 翌日、保護した二人を連れて支部長の元へとやって来た。

 アイリの報告もあり、盛大にため息を溢されてしまったが。


 「改めまして、中島 誠也なかじま せいやと申します。 今後ともお見知りおきを」


 「白石 絵里しらいし えり。 よろしく」


 俺らより年がいってそうなリーマンと、やけに白い女子高生が支部長に挨拶をかましていく。

 分かる人には分かるだろう。

 東南西北トンナンシャーペーときて、今度は白中はくちゅんと来た訳だ。

 残りははつ

 だかしかし、發なんて漢字を使う苗字なんぞ見た事ない。

 詰んだ。


 「うむ、よろしく頼む。 二人は“悪食”に所属するという事で良いんだな? なんでもクランを作るとか。 急に、クランを、作るんだとか。 一体誰がその申請書類を作ると思っているのか。 ギルド本部、国への申請、その他諸々。 誰が、やると思っているのか」


 「だから悪かったって……」


 「今後は余裕をもって、余裕のある時期に報告する様に。 それから被験者を増やすのも、報告を貰ってからでないと困る」


 「以後気を付ける」


 「よろしい」


 そんな訳で二人は無事ウォーカーとして登録できた。

 レベルは1、称号は無し。

 以前の俺達と同じ状況。

 だからこそ、最初の俺達と同じ環境に放り込めば良い訳だ。

 うんうんと一人納得している俺を他所に、他のメンバーの話は進んでいく。


 「まず最初に、この男は危険だ。 普通の人間なら平然と死ぬ環境に自ら飛び込んで行く。 共に行動したとしても、コイツの危険行動だけは真似しない様に」


 「は、はぁ……」


 「らじゃ」


 「次に“悪食”は基本的に野外活動を主とし、1週間程度は野営しながら生活する傾向にある。 辛くなったらいつでも言え、他の仕事かパーティを斡旋してやる」


 「1週間野営ですか……」


 「キャンプ……楽しみ」


 「それからこいつ等はいつだってトラブルに――」


 「おいコラ支部長。 テメェ何好き勝手言ってやがる」


 「否定できるのか?」


 「出来ねぇよチクショウ」


 とか何とか色々あった訳だが。

 無事二人の登録は終わり、“悪食”のメンバーとなった。

 その後アイリが物件を見つけて来て、登録したり金を払ったり。

 そして再び「今週は受付だ」と言われたアイリが殺気を放ったりと色々だった。

 全く賑やかになったもんだ。

 はてさて、この二人は何処まで適応してくれるのか。

 ダメだったら、先程購入した“ホーム”とやらに残って、雑用なんかをやってもらうつもりだが……。


 「北山さん。 ご迷惑をおかけするかと思いますが、今後ともどうぞよろしくお願い致します」


 「お、おう。 こちらこそよろしく、中島さん」


 「私の事は中島と。 リーダーにさん付けされては、示しがつきません」


 「あ、はい」


 薄汚れたスーツを着ている中島が、随分と綺麗なお辞儀を決めて見せる。

 多分営業職だったよね、“こっち側”では見た事ない程バリバリ45度のお辞儀。

 止めて、心が痛くなる。


 「北、よろしく」


 一方やけに馴れ馴れしい女子高生。

 いや、別に悪い事じゃないんだけどさ。

 俺の事はきた、西田は西にしと呼ぶ。

 しかし東と南の呼び方はそのまんま。

 まあ他に呼び方が無いというか、変える必要がないからなんだろうけど。

 ちなみに中島の事は、中さんと呼んでいる様だ。

 実にフレンドリーだね、いつでも無表情だけど。


 「おう、よろしくな白石」


 「白」


 「あん?」


 「白が良い」


 「白……ちゃん?」


 「キモ」


 「おいコラ白」


 「うん、白」


 どうやら一文字で呼ばれたいらしい。

 よくわからん拘りだが、まあいいか。

 こうして俺達“悪食”は7人になった。

 いや、トール達も居るから11人か。

 いつの間にやら、多くなったもんだねぇ。


 「とりあえず、鎧と武器を取りに行くか。 もう準備してくれてる筈だ。 そんでそのまま森へ向かうぞ」


 「はい、承知いたしました」


 「ん」


 そんな訳で、俺達は今週もサバイバル。

 二人の様子を見ながらではあるが、気楽に野営を楽しもうじゃないか。

 ちなみにアイリが見つけて来た物件を確認するのも、帰って来てからのお楽しみ。

 それまでに掃除だのなんだのは済ませておいてくれるらしい。

 いいじゃないの、非常に軌道に乗って来た気がする。

 念願のマイホームも手に入れ、仲間達に囲まれての異世界生活。

 懸念があるとするなら、家を購入したことでお財布がすっからかんになってしまった事だろうか。

 ……うん、今週で頑張って稼ごう。

 なんだったら支部長に卵やら何やら売りつけよう。

 そういえば、トレントから貰った金色のリンゴもまだ見せてねぇや。

 まぁ、後で良いか。

 そんな事を考えながら、俺達は支部長室を後にしたのであった。


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