第78話 お別れ

 瞼が赤く見える。もぞもぞ動くとキシキシと音が鳴る。安い仮眠用ベッドを思い出す。

「あ、目が覚めた?お茶飲む?痛い所は無い?」

 いつか聞いたセリフだ。

「ほしい、のど、かわいた」

「素直な子は大好きよ♡」


 目を開ける。重い上半身を起こして顔を擦る。辺りを見渡せば白衣の女が安っちい椅子に腰掛けてこちらを見ている。そのわきにはツールワゴンみたいな台の上に魔法瓶と急須が置いてある。部屋はこじんまりとした無機質なコンクリート造り。窓も無く閉塞感は否めない。

「どこ?」

「狭間……かな? 飲みたいのある? 紅茶にコーヒー、緑茶にあぁ、ジュースも大丈夫よ!」

「くすり、いれてない?」

「あらん? 心配しなくても大丈夫よ! ただあなたとお話したくて頑張っただけだから」

 クスクスと笑う去石はすっきりしたような顔だ。不思議とこっちも身構える気が無くなる。

「りんごじゅーす」

「ふふふ、どうぞ」

 湯呑に並々と注がれたそれを一息に飲み干す。チョイスのミスだ。喉が渇いていたところに入れるものじゃない。

「おかわり」

「うんうん、良い子ね!」

 出てきたのはレモンティー。まぁいいか。

「なんでこんなことした」

「あらぁ、もっとおしゃべりしたいのにいきなり確信? 女の子に嫌われるわよ?」

 みんなの顔がちらつく。女の子しかいない。あ、吾味さんはきっと回りくどいのは嫌いなはずだ。

「そんなに時間も無いししょうがないわねー! バニシングツインって知ってる?」

 ?

「双子の片方が消えちゃうことなんだけどねー、私、お腹に妹がいるの」

「なんか、まんがでみたきがする」

「その子を産んであげたくてね、この幽鬼騒ぎを利用したの☆」

「?」

「幽鬼ってね、宇宙人の仕業なのよー!」

「??」

「彼女達って言っとくわね! 価値観の違いってやつだと思うけど、絶滅させなきゃ何しても良いって考えてるのよー! まいっちゃうわね、そうよね!」

「???」

「それでね、ただ言いなりになるのもシャクだから利用しようと思ったわけ! これが大変でねー、私偉いでしょ?」

「ゆうきに、されたひと!」

「てへ、失敗! でもそのおかげで第一世代の魔法薬も改良できたし吾味ちゃんにデータ渡すのも間に合ったわけなのよ! 感謝しなきゃね! あら、怒っちゃやーよぅ? 私だって時間がない中頑張ったんだから!」

「……じかん、って?」

「意識が消えるまでよ!」

 バーンって効果音が聞こえてきそうなポーズで去石が立った。

「あたなと話せるかも賭けだったけど、ちゃんと勝ち!一個だけお願いがあってね☆」

「……なに」

「妹のこと! 自衛隊に連れてかれると多分世界が終わるから、大事に大切に真心込めて可愛がってあげてね♡」

「は?」

「私より1000倍強いからあの子の嫌がることをしたら地形が変わるくらいの破壊が起きるわね!」

 キメ顔で言われても。

「名前はシエラって呼んであげてね! 山脈って意味らしいの可愛い上に格好いいでしょ?そうでしょ!」

「あ、うん」

「きっと私に似て賢くて可愛らしくてそれに愛に満ちた完璧な子になるわ!」

「う、うん?」

「それじゃ、よろしくね!用事はおしまい!さ、送って頂戴♡」

「おもてをあげろ……こわく、ないの?」

「愛する子に送られるのに怖い事がある?私は本当にあなた達を愛していたわ。子供の産めない私の愛しい子達。時間さえあればきっと、きっと…… まぁ言ってもしょうがないわ。さようなら」

「……おやすみ」

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