第45話 帰ってきた病院

あらすじ、病院逆戻り。

まさにこの一言だ。みんな無事だったから良かったものの四人全員大なり小なりけがをしてしまった。というか一番元気いっぱい動き回っていた俺が一番重症だったのが不思議。左側の肋骨三本骨折と左尺骨二か所にヒビだそうだ。肋骨が肺に刺さって深刻な状態だったらしい。アドレナリンってすげぇ。

今は去石製作の怪しい薬で傷はふさがっている。まだ息苦しいがだいぶだ。

一応特殊部隊扱いの魔法少女は三人で病室を貸し切りだ。そのせいか少し広く感じた。そのなかでみちるがぺこぺこしながら電話を受けている。口ぶりからたぶん吾味からだろう。

「まとめて移動は二人までだってさー」

電話を切ったみちるが不満そうに言った。最悪事故で全滅なんてシャレにならない状況だったからしょうがない。

そのなかで奇跡のかすり傷だったリンが一人で出撃を頑張っている。南無。

「や、役立たずでごめんねぇ…」

ここ数日口を開けばたつなは謝ってばかりだ。脳震盪を起こして気絶していたからしょうがないのに責任感が強いというのはこういう時可哀そうだ。

「いつも、たすけ、られてる」

フォローするはずが一息で言い切れない姿で泣かせてしまった。魔法を解除してから痛みがどっと襲ってきて息を吸い込みたくないのだ。だが、以前の小さくなる時の痛みに比べればどうってことない。だから泣かれると困る。

「ほら、私達休みがほとんどなかったじゃない! 一盃森ちゃんも応援に来てくれてるらしいし、ちゃんと休もう!ね!ね!!」

みちる、最近良いこと言う。エアバッグが作動したが二人ともシートベルトで胸骨を痛めている。しっかり休んでもらわないとこちらも不安だ。たつなのベッドに腰掛けて頭をなでる。起きていても寝ていても痛いから落ち込むたつなを励まそう。

「うぅ、ごめんねぇ…」

と、思ったが逆効果。人付き合いってのは難しいものだ。みちるも加わってとにかく慰める。最近出撃が続いていたし疲れが溜まっているのだろう。たつなは泣き疲れて寝てしまった。

それにしても寒い。窓の外を見れば雪がちらついている。暖房費をケチって温度設定が低いのだろうか? 看護師さんを捕まえて文句を言おう。

「ちょ、どうしたの?」

心配そうにみちるが引き留める。うむ、普通にしていればクール系お姉さんだ。

「さむい、もんく、いってくる」

「私が行ってくるから…」

心配性のみちるにサムズアップで必要無いことを伝える。子供じゃあないんだ、このくらいのお使いくらいできる。ついでに売店で温かい物でも買って来ようという下心もある。財布を持ってナースステーションへ歩を進める。みちるにスマホの方が便利と言われたが、持ってないのでカードで決済するしかない。

廊下に出ると人気が無いせいか一層寒く感じる。この子供ボディ、食事量が減って経済的だが保温性に難ありだ。寒さ、直撃。どうでもいいことを考えていると慌ただしいナースステーションに到着した。他にも寒いと文句を言いに来た人たちがいたようでやり取りが聞こえてくる。

「どうにかしてくれよ!寒くていらんねぇんだ!」

「申し訳ありません、故障してるのか温度が上がらなくて」

うん、これ以上文句を言うのはよそう。施設メンテナンスも呼んであるらしいし、言う事は無い。というかあのおじいさんあんなに目くじら立てて言わなくてもいいのに。

とにかく二人にも温かい物を買って帰ろう。と、思っていたが売店のレジにもすでに行列。考えることは皆同じようだ。入店制限の列にお行儀よく並んでいると、窓から見える景色は既に吹雪。手際よく捌く店員さんすげぇと思いながらカゴに商品を入れていく。

幽鬼出現からリサイクルだけは劇的に進歩した。カラフルだった包装は灰色みたいなものに統一されて機能性だけを追求。ペットボトルも透明なものは無い。これが逆に中身の品質を落とさない流通につながっている。

ちなみに販売されている食品は遺伝子組み換え上等の量産主義品種だ。飼料米の如くふっさふさに実る米、平均20cmを越えるジャガイモに食味改良されたデントコーン。米の精米歩合も国が指定する始末だ。それゆえに糠臭い。だから以前みちるがくれた真っ白に輝くおにぎりなんかは珍しい。思い出しただけでよだれが垂れる。そろそろ撃破ポイントをぱぁっと使いたい。

残念なことにポイント利用には罠が有り、一度にまとめて使えないのだ。月に使える総量が決まっているせいで溜まるだけ溜まっていく。俺も待遇が良いと思っていた時期がありました。

ようやくレジも越えることができたから早めに戻って二人にも分けてやらねば。腹が鳴る。

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