第31話 深夜のファッションショー

「…あふっ」

あくびが出た。薄暗い部屋の中、もう片方のベッドにはみちるが寝ている。たつなはどこへ行った? いや、出撃に決まっているか。二週間くらい寝てしまっていたから、皆にかなりの負担をかけてしまった。時計を見れば深夜二時。だが、無線機の在処もわからないのでここはもう少し眠るとしよう。仰向けになって目を閉じると、足元からクスクスと笑う女の声が聞こえる。体が動かない。助けてみちる…絶対怖い奴だ!

『あなたにをあげる』

おまけ?おまけって言ったけど何のことだ?足元へ目を向けると青白い女が二人、クスクスと笑いながら消えていった。

「お、おもてをあげろーーー!!」

二人が霞の様に消えると体は動くようになった。心臓がバクバクと音を上げて体中に血をめぐらせる。俺の声に驚いてみちるが飛び起きたが、相手は姿を消した後だったのでどう伝えていいかわからない。

「ど、どうしたの? っていうか私にご褒美?」

みちるが何を言っているかわからない。お互いに顔を合わせて首を傾げる。

「あ、あおじろいおんな あしもとに!」

「ひぇっ!? い、いないってば!」

「ち、ちがう さっきいたの!」

とにかく照明を明るくして現状確認をする。恐怖と焦りで気付いていなかったが俺の服が変わっている。みちるの準備した寝巻がいづいので撃破ポイントで交換したスウェットを着ていた。着ていたはずが白のフリフリに変わっている。衝撃。俺のスウェットは?

「可愛いは正義」

「ちょっと いみ、わかんない」

着替えた覚えは無いしさっきあくびした時には違和感なぞなかった。魔法が…きっかけ? ちょっと臨戦態勢を解くのが怖いが魔法を解除してみる。変わらん!

「…てつだって」

みちるに手伝って貰い、このフリフリを脱ぐ。そして白Tシャツに着替えてもう一度魔法を唱える。

「おもてをあげろ」

恐怖、白Tシャツが今度はピンクのフリフリに。さっきの白いのとは若干デザインも変わり、より魔法少女っぽい見た目になってしまった。

「ど、どうやったの?」

「わかんない…わかんないけど、まほうをつかうと」

解除してもそのまま。『おまけをあげる』とは、このことか?がっくりと膝をつく。みちるが背中に手を当ててこちらをのぞき込む。慰めの言葉でもくれるのだろうか?

「はぁはぁかわいい」

違った。

手を振りほどいて今度はこのフリフリのまま魔法を使う。するとピンクのフリフリは薄い紫色のフリフリに変わった。この形状はデフォルトらしい。なんなんだこの仕様。“まるで空気”というキャッチコピーが使えそうな程フィット感のあるフリフリが量産できる。返して俺のスウェット…

「どこまで使えるか試してみない?」

みちるが楽しそうに最初のフリフリを引き裂いた。え、怖い。俺、何をどうされるの?

「さ、これ着てみて」

最早着るというかかぶるが正しいような状態だ。

「ホラホラ!実験にならないから脱いで、ね!脱いで!」

「ろりこん!」

「違うの、これは純粋に実験なの さぁ、手伝ってあげるからほら!ねぇ!」

深夜のテンション? エスカレートする前に従う、目がマジだ。すごくマニアックな状態で俺はまた魔法を唱える。すると、面積など関係ないという風にちょっとオレンジがかったピンク色、サーモンピンクというのだろうか?のフリフリが現れた。

「うーん、後は…全裸ね ふひ」

みちるが怖くなってきた。だが、確かに気になる。これでフリフリが出てくるなら見た目さえ気にしなければ服に困ることは無い。

「さぁ!」

「ばするーむ、いってくる」

「あぁん!」

何着か着てわかったのはフリルの辺りにホックやファスナーがついていて簡単に着付けができるようになってることだ。防寒機能はなさそうだがなかなか優秀。鍵をかけていざお試し。

「おもてをあげろ」

どうなるかちょっと楽しみだったが、着替えの手間がかからない事が判明した。さっきと違うのは全裸から始めると水着っぽくなることが判明した。水着のままもう一度魔法を唱えるとちょっとだけ厚着になる。

「どう?どう!?」

急かすみちるの声に、再び脱いでから魔法を使って水着タイプをお披露目する。

「そ、そう言う事は想定してなかったな でも、夏なら役に立ちそう!」

「これで、およいだら おぼれそう」

水着というには布が多くて水に入ると重そうだ。水の抵抗も大きいだろうからすごく疲れる…と思う。学校の授業以外で泳いだことは無いし、まして女性用水着なぞ着たことは無い。どの程度が普通かはわからないのだ。

「うーん、ビーチサイドの天使ってところかな? これで水には入らない方が良いかな!」

寝るのが怖くなって始めた謎の検証作業は朝まで続いた。

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