第27話 吾味とたつなの電話

「だいちゃん、大丈夫なの?」

電話越しのたつなは不安そうな声で言う。

「あぁ、すまんな 急いで病院に駆け込んだんだが、だいぶ厳しいらしい 去石が来るまで持てばいいが…」

二体目の人型との接敵から既に一週間、柿屋敷を一人で行かせたのは失敗だった。一体目の人型出現以降出現回数は増えたものの敵の種類はいつも通りだった。その油断から一人での行動をさせていたのが裏目に出た。最初から合流で来ていればもう少し違った今が訪れていたかもしれない。去石は現在つくば市で大規模な幽鬼出現に巻き込まれて身動きが取れずにいる。

「いっちゃんの事もだけど、だいちゃんのこと いっちゃんの分まで頑張って寝てないでしょ?」

「俺は大丈夫だ お前らも後輩の育成で大変だろ? 人の心配してる場合じゃあない」

たつなとみちるは通常の出撃と新人の育成で忙しい。去石は頭がオカシイように見えるがやることはきっちりやっている。新人の発掘もその一つだ。彼女達が一人前になればたつなもみちるも帰ってくるだろう。

「私はだいじょぶ、みちるちゃんが大変そう 一気に10人だって」

これまでほとんど見つからなかった岩手の適性者がここにきて一気に増えている。柿屋敷に使った“新型の魔法薬”が原因だと去石は言っていたが詳しい事は不明だ。そもそも魔法薬の存在も理論も製造方法も全く公開されていない。NBKの持つブラックボックスの一つだ。秘密主義なあの女

「俺の方は魔法少女じゃあないが、後輩が一人できたからな そいつが復帰したら何とかなるだろ」

新人とは言い難いが、女型の奴から柿屋敷が助けた女性警官の事だ。脳が炎症を起こして死にかけていたが、もうリハビリをこなしている。根性のある奴だ。

「もう少しで帰れると思うから、紹介してね」

「もちろんだ、やる気のある奴だから仲良くしてやってくれ」

「うん、楽しみにしてるね それじゃ」

たつなもみちるも柿屋敷の事を気に入っていたから気が気じゃあ無いだろう。だが、他への配慮で帰ってこない。責任を投げ出さずに頑張っている強い連中だ。やりたいこともあるだろうに他人の命のために自らの命をかける。俺がガキの頃は遊ぶことしか考えていなかった。頭が下がる。そんなことを考えていると無線が出撃を知らせる。

「子供が頑張っているんだ、俺も頑張らにゃぁならんな」

徹夜の体に鞭を打ち、間野々あいのの方面へ車を走らせた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る