第25話 二体目の人型
そいつは絶叫していた。
警察官の体から心臓を取り出して口に運ぶ。ぐちゃぐちゃと音をたててそれを咀嚼して飲み込むと、再びあらん限りの叫びをあげる。
運送会社の壁の中ほどには車が突き刺さっており、戦闘の凄まじさを物語る。人型が叫ぶたびに窓ガラスはビリビリと震え、耐え切れずに割れていく。耳をふさいでもその悲鳴のような声は鼓膜まで届き、チリチリと脳を震わせる。
goddamn!!なんで一人で来た時に限って人型が出るんだ!
白い肌は前のと同じだが、羽は無い。前の筋肉だるまのような兜も無い。やせ細った体には俺のといい勝負なペッタリした胸。女性型のようだ。
もう少し観察して情報が欲しいのだが、奴の足元にまだ生きている人がいる。頭を抱えて悶え苦しむ姿をこれ以上は放置できない。
先手必勝!背後に回り地面を踏み切って死角から接近する。一撃で仕留められるように最初から全力だ。
「!」
背後から近づいたのに180度首が回って目が合った。耳と目からは真っ黒な液体を垂れ流し、口には真っ赤な血がべっとりとついている。だが、俺は急には止まれない。仕方ないのでそのまま拳を構える。もう少しで直撃、というところで絶叫が俺を吹っ飛ばした。衝撃波とはまさにこれの事だろう。意識が飛びそうな痛みだ。なんとか体を翻して着地する。一張羅の防寒着が台無しだ。そんなことよりも生存者が動いていない。すぐに連れて逃げたいところだが、近付けばあの衝撃波のような絶叫で吹っ飛ばされる。何回も食らいたくない痛みだ。
考えあぐねているとバンシー(仮)の頭を狙撃するものがいた。他にも戦う意思を持っている人がいる。ダメージは与えられなかったようだが奴は反撃の為にそちらを向いて絶叫する。
それを見逃さずに俺は一気に距離を詰めて足元の人を回収し、距離を取る。首へ指を当てると脈が異常に早いし意識が無いが、まだ生きている。
食事を邪魔されたバンシー(仮)が不機嫌そうに叫ぶと、背中がめきめきと音を立てながら割れてもう二本腕が生えてきた。気持ち悪い。
だが、こちらもようやっと奴に投石できる。コンクリートの破片を拾い上げて牽制の意味も込めて投げる。以前ナーガを瞬殺したはずの投擲だが、奴の背中から生えた腕は石をいなした。逸れた石が街路樹をへし折って砕け散った。投石の威力が落ちた訳では無さそうだ。
近づけば絶叫、遠距離攻撃はいなして無効。ちくしょーめ!
いずれにせよ救助した人を抱えたままでは接近ができない。誰かに預けたいが、その相手も見つけられない。八方ふさがりな状況に頭が痛くなる。初撃で無線が壊れたせいで近くにいるだろう味方が遠い存在に感じる。心細い。
「うんざり」
口をついて弱音がポロリ。
「私…を、置いて 行って」
抱えていた人が目を覚ましたようだ。息も絶え絶えな人に心配されるような状況、失敗。ヒーローはこういう時不安にさせないような事を言うはずだ。まぁ“魔法少女”と名付けられているのであれだが。
「あなたのことじゃない、たすけてみせる した、かまないように」
耳から血が出ているため聞こえているかはわからないが、とりあえず強がってみる。特に打開策が有る訳ではないのは秘密。バンシーが投石を始めたので初動と筋肉の動きで先読みして避ける。あいつ俺の戦法を見て学習したようだ。動くたびに彼女が辛そうな声を上げるので何とかしてやりたいが、さっきの狙撃者もあの一発以来発砲していない。意識を失ったのか、最後の一撃だったのかはわからない。事態が好転しないまま時間が過ぎる。これ以上暗くなってくると避けるのも困難になってしまう。四本の腕から繰り出される投石は一発一発がアスファルトをめくりあげる程の威力で、かすっただけでも致命的な事は理解できる。万事休すと思った時、再び銃声が響いた。
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