第17話 片田舎の戦い

「見つかったか?」

「見当たらない、そっちは?」

「こっちもダメだ」

吾味が車で、みちるは空から幽鬼を探している。今回出撃要請があったのは紫波郡の山の中、396号線から少し外れた田畑の広がる赤沢地区だ。家屋と空き家が点在するため、隠れる場所も多く索敵が進まない。

「情報ではゴブリンタイプが数匹確認されているらしい 最悪民間人に被害が出ている可能性がある」

「警戒車は出してもらえないの?」

「敵の出現回数が増えてだめらしい …話し方、気取らなくてもいいんじゃないか?」

「見た目がほら、育っちゃったから? たつなと被るし」

「いいだろ別に 話し方が安定してなくて気持ち悪いんだよ」

「辛辣!あ、待って」

396号線から逸れて小学校を過ぎたあたり、点々とある民家の一つ。生垣に車が突っ込んでいる。車内までは見えないが、フロントガラスの上方に血の様な物がこびりついている。農家には農機具を動かすためにガソリンや軽油が配給されている。おそらく隠し持っていた車で逃げようとしたところを襲われたようだ。

「突入する」

車を路肩に寄せて吾味は愛銃へ手をかける。上空からみちるが合流して建物の背後へ回り込んだ。まずは吾味がその車に近寄って中を確認する。後部ガラスが破られておりそこから侵入されたのだろう。車内には頭が三個転がっていた。リアのドアが開いているのが気になる。

「みちる、まだ新しい 近くにいる」

「了解、勝手口から入ってみる」

幽鬼は人間以外口にしない。人が残っていればそっちを襲うために建物へ侵入する。また、十分な量の人間を摂取した幽鬼は変態を始める。ゴブリンタイプは物陰に潜み変態してから再び人間を襲うのだ。

吾味はガレージに進む。フルフェイスのヘルメットには熱源感知システム搭載されており、ある程度の情報が表示されている。目の前の車が数台格納できそうな大きなガレージに目を留めた。一枚だけシャッターが解放されており、中から小さな音がする。あと数名機関員がいれば対応が楽だったが致し方ない。足音を消すように近寄り一気に突入した。

「ギャオ!」

トラクターの陰からゴブリンタイプが飛び出す。すかさず12.7㎜弾を撃ちこみ黙らせる。頭をぶち抜かれたゴブリンタイプは力を失い転がった。トラクターの脇には男性だろう遺体が倒れていた。損傷が酷く服装でしか判断できない。ゴブリンタイプ一体なら十分すぎる程の人間が犠牲になっているが、変態していない所を見るとまだまだだ。

「一体処分した おそらく四人は亡くなってる」

「こっちは二体処分、まだいそうね」

「生存者は?」

「…いない」

吾味はかぶりを振った。未成年に任せる現場ではない。みちるやたつなに頼らざるを得ない状況ではある。だが吾味はそれに納得がいっていなかった。

「せめて何か奢ってやらなきゃな」

吾味は頭を振って気を引き締め、仕事に戻る。せめて早く終わらせることでみちるの負担を減らしたかった。割れた居間の掃き出し戸から中に入り、部屋を捜索する。昔ながらの家だったのだろう、家は広い。部屋の前に差し掛かったところでふすまが弾けて、中から一体飛び出してきた。即座に発砲したが肩を吹き飛ばす程度にとどまり、押しかかられる。しかし、吾味は焦らず胸のホルスターからナイフを引き出すと倒れる前に首を飛ばす。勢いを殺さず巴投げの要領で相手を投げ飛ばす。

「一匹処分」

「吾味さん!いた!」

「助けに行くか?」

「違う!男の子!」

「よくやった、索敵は俺がやるからそこに居ろ」

吾味は静かにガッツポーズをとると、また仕事に戻るのだった。


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