第7話 解せぬ
「すまない、待たせた!」
”みちるちゃん”は勢いよくドアを開けて戻ってきた。その腕には大きな姿見が抱えられている。ビックリして起きたせいで首の筋が痛い。
と、いうかあのサイズを想定していたならカバンを調べる時間は完全に無駄だったと言わざるを得ない。
派手に開いたドアの音で目を覚ましたが、満腹のせいか再び眠気が襲ってくる。
「み、みちるちゃんずいぶんおっきいの持ってきたね… でもありがと。たぶん一番分かり易いと思うよ!」
国引はそう言うと船を漕いでいた俺を慣れた手つきで立たせた。少し、というか恐ろしく眠さが勝っているが、素直に従った方が良さそうだ。
なにより国引の手が心地良い。ニコニコ顔のみちるちゃんが見守る中、国引に手を引かれて鏡の前に立つ。
「っふぁ!?」
思いの外腑抜けた声が出て自分でも驚いた。寝ぼけているせいか鏡に映っているはずの顔が自分のそれと似ても似つかない。一気に目が覚める。
「! !? ?? !?」
どうにも言葉が頭に浮かばない。鏡は動けばその通り映し出す。右手を上げれば即応し、しゃがんでもついてくる。頬を叩いてもつねっても痛みを感じるし痛いくせに目が覚めない。鏡に映る大きな瞳に形の良い鼻、小さい口。この口にあの量のおにぎりを詰めれば確かに窒息しかけるだろう。特殊メイクなんかも想定して頬をもんだりつなぎ目を探したがひりひりするだけで見つからなかった。
「そこらへんにしようね!信じられないと思うけど……えーと、現実だから」
少し目をそらした国引の反応が現実を突きつける。ハッとして股間に手をやるが二十年連れ添った相棒が無い。
「その、なんだ… 魔法少女部隊へようこそ」
みちるは申し訳なさそうな顔をしながら俺の頭を撫でる。力が強くてちょっと痛い。魔法少女部隊。自分でも顔が青ざめていることがわかる。
「だ、だいじょうぶ?具合悪い?」
ふらふらとベッドに戻ろうとすると国引が心配そうに声をかけてきた。俺は理解を超えるとふて寝する癖がある。
「ねる」
「もう少しお話しよう!?ね!大事なことだから!」
俺は渋ったが国引とみちるちゃんに説得されてベッドに腰掛けて話を聞く。両サイドに二人が座ったため温かくて余計に眠気を誘う。
近しい人間の死を経験してからというもの失う事を恐れて他人に近寄ることをしなかった。見ず知らずの二人を前に人見知りの俺が安心に近い何かを感じているなどとても理解できない。
「聞こえてる…のか?」
「うーん…今日は無理かな? こんなに変化のあった人は初めてだから、正直どうしていいかわかんない…」
「すみません たってきいてます」
二人の心配そうな声が聞こえて立ち上がる。座っているから眠くなるのだ。自分に言い聞かせて足を肩幅に開き手を後ろで組む。両サイドの温かさがなくなったことで徐々に眼が冴えてきた。周囲の棚やら机が随分と大きく見える。つらたん。
「かわいい」
「みちるちゃん声に出てる。ロリコン」
「ち、ちがう!!」
「それじゃ、ここの使用許可も迫ってるから続けるね 私たちNBKはあのマ…去石さん含め6人の偉い人が組織した新しい機関なの。いろんな公共の場を間借りして転々としてる状況で、防衛機関って名乗ってるくせにさんざんな扱い…… お給料だって雀の涙!」
「たつな、脱線してる」
「ご、ごめんごめん!で本題はあなたが盛られた薬、あれがNBK発足の理由なの」
「おちゃにもられた」
「そう、それ!あれは適性者を最も力が発揮できる状態に変質させて固定する魔法薬”プリメタモオール”あの博士が作ったものなの」
「私は25歳くらいに見えるだろうけど、実は同級生なんだ」
「17歳! JK!」
女性の年齢は正直わからない。が、本人が25歳くらいというならまあそうなんだろう。説明されても理解を頭が拒否している。
「でね、いつもは女の人しか見つからなかった適性者が初めてあなたに反応したの。大間迎撃戦があった頃に国民皆検査とかって血液採取があったでしょ? あれ実はこの検査も含んでたの」
民主主義は死んだ。日本が生き残るのに必要だとはわかるが理不尽でお腹がいっぱいだ。いや、現実おにぎり二個でお腹は一杯だ。低燃費。
「君の検査結果が分かったのが三日前、博士はそれを知るなり”早く確保!一秒で早く!”と今回の検査を実施した」
「ほかのけんさしゃは…?」
「補給人員だ 君を殴った血気盛んな男は今頃竜飛奪還戦に参加しているだろう」
「たっぴ…?」
「幽鬼の出現はどこから来るかわからない。本州にも出現しているが報道統制で知らされる事はあまり無い。だから知らなくて当然だ」
「北海道の福島町の辺りは強力な幽鬼の出現が確認されて…… 艦砲射撃で排除してるけど追い付いてないの。青森に現れたのが北海道の奴らか、竜飛で発生した奴らなのかは確認もできないし……」
日本オワタ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます