第40話:回復術師は試す

「いいよー」


 という返事とともに、シロが巨大化する。


「よっと」


 シロの背中に腰掛け、安定する部分を探す。

 普通に移動する分にはどこであろうとあまり変わりないが、魔物がいるフィールドでは急発進したり急停止することも多いので振り落とされないよう注意する必要がある。


「ユージ様、どのようにすれば?」


「え? あー、今から新魔法のテストをしたいと思ってるから、適当に魔物がいる場所を走ってほしいんだ。ちょっと集中が必要だから、無防備になると思う」


「承知しました」


 通常サイズシロと小型シロでは大分印象が違うなぁ。

 普段は可愛い感じだから、たまに戻ると動揺してしまう。


 シロが俺の指示通り走り始めたので、俺も魔法に集中することにする。


「まずは、この辺一帯の魔物を把握、そして解析——」


 目を閉じて、全ての意識を魔法に集中する。

 スクリーニングしている間は近くの魔物であっても気づかないので、絶対的に信頼できる仲間がいなければ使えない。


 ゆくゆくはシロなしでも使えるようリーナを育てたり、発動時間を短縮できるようにしていきたいが、まずは脳内シミュレーション通りに使えるかどうかが肝心だ。


「よし、魔物の数はおよそ二百体——」


 俺の脳内ではこの辺一帯の魔力点が地図のように表示されている。

 それをさっきまで見ていた現実の地形と当てはめて、高低差や障害物を計算。


 ここまで終えたところで、新魔法の出番だ。


「また呼び方考えてなかったな。まあいいや——」


 『七色の魔力弾』とクラインが使っていた追尾型攻撃魔法を融合させ、別物の魔法に仕上げた。

 空高く上がった大量の魔力弾が付近一帯の魔物を目掛けて個別に飛び出していく。


 全ての魔力弾がそれぞれの軌道を描いて飛んでいき——


 パン! ……パパパパン! ……パンパン!


 次々と着弾していく。

 途中、魔力弾を避けようとした魔物もいたが、予定通り軌道を柔軟に変えていくことで確実に当てることができた。


 十秒後には、横倒しになった大量の魔物の姿が並んでいたのだった。


「ありゃーちょっとやりすぎたかな……」


 初めてだったので限界ギリギリまで粘ってみたのだが、倒しすぎてしまったようでさっきまで聞こえていた魔物の鳴き声はなくなり、代わりに静寂が俺たちを包んでいる。


「ありがとう、シロ。もう戻っていいぞ」


「分かりました」


 サッと着陸し、魔物の状態を確認する。

 無駄な傷跡は全くなく、着弾から一撃で葬ることができていた。


 実は、魔物が逃げた場合でも同じ場所を攻撃できるかどうかも試していたのだが、それも問題ないようだ。

 多少無駄な経路を辿ることにはなっただろうが、狙い通りの場所に着弾している。


 途中からの軌道修正の幅は、同時把握能力にもよるのだろうが、俺の場合は二百体くらいなら余裕でなんとかなりそうな気配である。


 雑魚処理には電撃と合わせてかなり使えそうだ。あまり強力な魔物だと火力が不十分な気がするが……それも使い方次第か。


 少なくとも陽動には使えるし、まとめて着弾すればそれなりのダメージになる。


「バッチリだな」


 俺が詳細な情報を集めていたところ——


「やっぱりユージの仕業ですか!? めちゃくちゃビックリしたんですよ!」


 向こうで魔物を倒していたはずのリーナが俺の顔を覗き込んでいたのだった。


「あれ、リーナは向こうにいたはずじゃなかったか? もしかしてもう終わったのか?」


「終わってません! 急に変な球が飛んできて魔物がいなくなったんです!」


「あー……となると俺のせいか」


「そうです! 魔物の復活には時間がかかりますし、ここまで狩り尽くすと結構時間かかりますよ……。今日はこの辺でお開きかと」


 せっかくの機会だったのでリーナを鍛えておこうかと思っていたところ、俺のせいでリーナの邪魔をしてしまったということらしい……。


「反省してる……今度から気をつけるよ」


「じゃあ、誠意を見せてください!」


「俺にできることならなんでも……って、どうした?」


 突然屈んでにゅっと顔を出すリーナ。

 ちょっと待て……この角度だと、リーナの胸が視界一杯に……耐えろ、俺。


「なでなでしてください」


「な、……え? そんなことでいいのか?」


 俺は言われた通りに、リーナの頭を撫でてやる。

 サラサラの髪の毛が手の平に吸い付いて気持ちいい。


「あ、ありがとうございます。これで許してあげます……!」


「お、おう……」


 こんなことで良かったんだろうか?

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