第251話 ボルチ村を出発
盗賊を討伐した翌日ボルチ村にて
昨日メルビアから転移魔法で戻ってきた時は既に夕暮れ時だった。
ボルチ村に帰ってくるのが遅いとティアに問い詰められたが、リズリット姫が魔族に襲われ、ルドルフさんが護った話をしたら落ち着いてくれた。
だが実際はラナさんの膝枕をされていたから遅れた訳で、真実を言ったら怒られそうなので黙っていることにする。
だってラナさんの太腿⋯⋯すごく柔らかくて気持ちもよかったから。あの太腿の魔力に抗える者はいるか? いやいない。
そして翌日⋯⋯日が昇り始めた頃にはセーレンから10名ほどの憲兵と馬7頭に引かれた鉄格子の檻が到着したため、俺達はバールシュバインへ向けての旅支度し、ボルチ村から出発しようとしていた。
「あの⋯⋯村長さん。俺達がここにいたことは内緒にして頂きたいのですが?」
俺は兼ねてより伝えようと思っていたことを口にする。ただ近くにはセーレンから来た兵士達がまだ数名いるので小さな声で。
ここに勇者がいると知られてしまうとルーンフォレストからリアナを殺すための刺客が来るかもしれないし、何より騒ぎになることは避けたい。
リアナの存在がバレると一緒にいるティアのことも知られてしまう可能性があるからだ。そうなるとせっかく目立たずここまで来たことが無駄になり、メルビアの姫であるティアに危険が迫るリスクが高くなる。護衛として依頼者の安全を脅かすことはなるべく避けたい。
「承知致しました⋯⋯皆様は村の恩人です。けして口外しないことを約束致しましょう」
「ありがとうございます」
まあ盗賊を退治して子供達を救ったからNOとは言わないと思っていたけど。
「それではわしからも1つよろしいでしょうか?」
「はい」
俺は頷くと村長さんは懐から小袋を出してきた。
「盗賊を退治して子供達を助けて頂いたお礼です」
ズッシリと入った袋の中身は銅貨や銀貨だった。
「村長⁉️ それはボルチ村のみんなが今年の冬を越すためのお金では⁉️」
村長がお金を出す行為を見て、1人の村人が意見する。
「わしらは冒険者のヒイロさん達に依頼を出し、子供達を救って頂いたのだ。報酬を払うのは当然であろう」
「ですがそのお金がなければ村はもう⋯⋯盗賊達にさえ渡さなかったものじゃないですか⁉️」
「この村に取って宝とはなんじゃ? 子供達であろう? なあにわしの家の土地を売れば少しは金になるはずじゃ。それで今年の冬を乗り切ろう」
村長と村人の会話を聞いてみな声を出せずにいる。
冒険者が依頼を受けて達成すれば報酬をもらう。
それはこの世界では至極当然の話だ。
個人なら未だしもボルチ村として受けた依頼だから、隠すことは難しい。
もし俺達が報酬を受け取らないことが世間に知られて、別の村で同じような依頼を達成した場合、ボルチ村の時はお金を受け取らなかったのに、うちの村からは受け取るのかと非難されることがあるかもしれない。
そのことがわかっているため、仲間達もどうすればいいのか困惑している。
「ヒイロちゃん⋯⋯」
リアナはうるうるとした瞳で俺の方に視線を送ってくる。内心では受け取りたくないと思っているはずだ。
ボルチ村は数年前にモーリーという男に騙され、そして今回盗賊達に金品や食糧を奪われていた。金品に関しては盗賊達が死にある程度戻ってきたとはいえ、このままだとこの村は滅びるかもしれない。そんな中さらに俺達に金を払ったら⋯⋯。
「わかりました。ありがたく頂戴します」
「ヒイロちゃん!」
俺が村長から金を受け取った瞬間、リアナが思わず声を上げる。
「リアナちゃん⋯⋯これはリーダーであるヒイロが決めたんだ。それにもし受け取らなかったらどういうことになるかわかるだろ?」
リアナが次の言葉を発する前に、グレイが正論を言う。
「で、でも⋯⋯ごめんなさい」
リアナは納得はしていないが理解はしてくれたようで、大人しく引き下がる。
「それでは僕らは出発します」
俺達は馬車に乗り込み、グレイは馬は動かすため、御者をする位置に移動する。
「グレイ兄ちゃん絶対また来てくれよ! ミド姉ちゃんもそう言ってるぞ!」
「そうね。近くに来た際にはぜひ寄ってほしいわ」
「必ず寄らせて頂きます!」
ミドさんの名前を出すとは⋯⋯ナッシュくんもグレイの扱い方がわかってるなあ。案の定グレイはまたボルチ村に来る気満々だ。
「皆様も本当にありがとうございました。またお会いできる日を心よりお待ちしています」
村長さんが代表で言葉を発し、村の人々が俺達に向けて頭を下げている。
「ヒイロ殿⋯⋯あなた方は
「兵士さん達もありがとうございました」
セーレンから来た兵士も俺達の見送りをしてくれている。
「それじゃあいくぜ」
グレイはそう言うと馬車がゆっくりと走り出す。
「みんなありがとう⋯⋯じゃあねえ」
進んでいく俺達の馬車に対して、ナッシュくんは見えなくなるまで手を振り続けてくれた。
「ヒイロちゃん⋯⋯ボルチ村のみんなは大丈夫かな」
馬車の中でリアナがポツリと言葉を発する。
「正直厳しいかもな」
「だったらこれでいいの⁉️ 私⋯⋯そんな大切なお金は使えないよ⋯⋯」
言葉にはしていないがルーナとティアも同じ意見のようで、馬車の中に暗い空気が漂う。
「俺も使えないよ」
俺は右手から村長に貰ったお金が入った小袋を取り出す。
「村のみんなが頑張って貯めたお金なんだよ。盗賊さんに奪われないように持っていた⋯⋯」
わかってる。このお金はボルチ村のみんなの汗と涙の結晶だ。だから俺は左手から金貨と銀貨の入った袋を取り出す。
これは盗賊達を捕まえたことによって国から出た報償金で、兵士さん達が俺達の見送りをしてくれたのは、大金を持っていたからだ。
「このお金の使い道なんだけど――」
俺は皆に自分の意見を伝える。
「お兄ちゃん⋯⋯私は賛成だよ」
「私はヒイロくんに従います」
「どうせこんなことだろうと思ったぜ。俺も賛成だ」
どうやらグレイには初めからバレていたようだ。
「ヒイロちゃんありがとう⋯⋯やっぱりヒイロちゃんは優しいね」
リアナは涙を流して喜ぶ。
うん⋯⋯良い笑顔だ。
「じゃあ満場一致ということで⋯⋯
俺は村長に貰った小袋と兵士から貰った袋に転移魔法をかけた。
ナッシュside
「あ~あ⋯⋯グレイ兄ちゃん達行っちゃったな」
「そうね。けどこれから大変よ。村にはもうお金が残っていないのだから」
「大丈夫だよ! 俺、山に入って狩りをして肉を調達してくるからさ」
「こらナッシュ! 危ないことはよしなさい! もうグレイさん達は助けてくれないのよ」
「で、でもそうしないと村が⋯⋯」
実際問題ボルチ村は冬どころか、後1ヶ月生活することさえままならない状態だった。
ナッシュもそのことがわかっていたからの発言だったが。
「盗賊達に襲われたけど誰も犠牲にならなかったんだ。命があればまたやり直せる。皆で何とか生きていく方法を考えよう」
ウルトはまえむきな言葉を発するが、ナッシュ達の表情は暗い。
それだけ今が絶望的な状況だと皆わかっているからだ。
「ただいま」
ウルト達は肩を落としながら家に戻る。すると突然テーブルの上が光出した。
「ミ、ミド姉ちゃん何これ⁉️」
「危ないはナッシュ!」
「お前達は早くこっちに来なさい!」
ウルトが家族をその光から庇うように抱きしめると、光は徐々に消えていき、残ったのは小さい袋と大きい袋だった。
「父ちゃん! これって村長さんがヒイロ兄ちゃんに渡したやつじゃ!」
「そ、そうだな」
ウルトは恐る恐る2つの袋を開けて見ると中にはたくさんの金銀銅貨と紙が1枚入っていた。
そしてウルトはその紙に書いてあることを皆が聞こえるように読み上げる。
「2日間泊めて頂きありがとうございます。料理も美味しかったです。お代を置いていきますので村の皆様で使ってください」
それはヒイロが転移魔法で送った村長と国から貰ったお金だった。
「えっ? 何? 今のって魔法⁉️」
「しかも凄いお金ねこれ。とても宿泊代で貰えるような額じゃないわ」
皆ヒイロ達からのお礼の品を見て、先程まで沈んでいた表情が嘘のように晴れ渡っていた。
「と、とりあえず俺は村長に知らせてくる!」
そう言ってウルトは慌てて家の外へと出て行く。
「か、かっけえ! やっぱ勇者様達はすげえよ! 俺、絶対グレイ兄ちゃん達みたいな冒険者になって困っている人を助けるんだ!」
こうしてボルチ村で起こった盗賊退治は終わり、ヒイロ達は再びバールシュバインへと向かうのであった。
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