第244話 ヒイロからの依頼
「お、お帰りヒイロ⋯⋯」
「た、ただいまラナさん⋯⋯」
俺もラナさんもどこかよそよそしい態度で挨拶をする。
えっ? えっ? なんでラナさんが俺の部屋のベットにいるの? いったいどういうことなのか全くもって理解できない!
これはもう直接ラナさんに聞いてみるしかないな。
「あの~⋯⋯ラナさんは何で俺の部屋にいるの?」
「はうっ⁉️」
はうっ? 今はうって言ったよな。
「え~とその⋯⋯そう! ヒイロ達が暫く留守にするから部屋を掃除して上げただけよ! か、感謝しなさいよね!」
「あ、うん。ありがとう」
捲し立てるようにしゃべるラナさんの言葉に、俺は思わず頷いてお礼をいってしまう。
けれど部屋の掃除か⋯⋯1、2週間留守にするだけで必要なのかな。
それにどう見ても⋯⋯。
「アルスバーンに出発する前と比べてベットの布団が乱れている気が⋯⋯」
「こ、これは⋯⋯今布団を敷こう思ってたらヒイロが突然現れたからビックリしてそれで⋯⋯」
なるほどそれで布団が乱れていると⋯⋯。
わかった。100歩譲って布団のことはそれでよしとしておこう。
だけど乱れているのは
「そ、その⋯⋯ラナさんの服がすごい乱れているのは⋯⋯」
俺はチラチラとラナさんの方に視線を送りながら気になったことを言葉にする。
「こ、こ、こ、これは!」
ラナさんの今の姿は着衣が乱れ、ささやかな胸元の肌色が見え、スカートはかなりきわどい所まで上げられ、色白い太腿がもろに露出されている。
いくらなんでも掃除をしていてこれほどあられもない姿になるだろうか?
も、もしかしてラナさんはここで1人エ◯チをしていたか⁉️ いやそれはないな。この間ラナさんは俺のことを好きじゃないと言っていた。好きでもない男の部屋で1人エ◯チをするなんてまるで痴女じゃないか。
「ヒ、ヒイロは知らないの? 最近メルビアではこうやって着崩して洋服を着るのが流行っているのよ! ほ、本当よ⁉️」
「そうなの?」
「そうよ!」
それはなんてすばらしいことなんだ! 俺は発案者の方にスタンディングオベーションを送りたい。
「けどその割にはみんなが着崩しているのを見たことないな。今度リアナ達に聞いてみよう」
「いや! それだけはやめて! ほ、ほら⋯⋯これは隠れた流行っていうの? だからリアナは知らないと思うわ」
「それならマーサちゃんに聞いてみるか。マーサちゃんはファッション系のことは詳しいからな」
「それもやめてぇぇ! そ、そんなことよりヒイロに言付けを預かっているわ!」
そんなこと⋯⋯だと⋯⋯。
俺にとって極めて重要なことをそんなこと扱いしたラナさんに少し怒りを覚える。だが俺がメルビアに戻ってきた理由がその言付けを聞くことなので、今はラナさんの言葉に耳を傾けよう。
「え~と⋯⋯ヒイロに伝えてくれって言われたことは――」
そしてラナさんは何故か額に汗を浮かべながら語り始めた。
爆発騒ぎでリズリット姫とミリアリス姫をメルビアに匿い、シズリアに転移魔法で返した後。
俺は探知魔法を使うと目的の人物がいたため、急ぎその方の所へ向かう。
メルビア城の中庭に着くと目的の人物は優雅に紅茶を飲んでいた。
「やあヒイロくん久しぶりだね」
「むむ! なにやらヒイロから美女の香りがするぞ。それも1人じゃない2人じゃ!」
中庭にいた人物は、勇者パーティーの1人である拳帝マグナスさんと賢者ルドルフさんだった。
それにしても美女の香りがするって⋯⋯この人は相変わらずだな。まあ実際は探知魔法でリズリット姫とミリアリス姫のことを見ていたと思うが。
「御二人ともどこへ行っていたのですか? メルビアは大変でしたよ」
魔界獣ゼヴェル⋯⋯魔法無効、石化能力を使ってメルビアを恐怖に陥れた魔物。もし御二人の内1人でもいてくれたら、もっと楽にゼヴェルを倒せたに違いない。
「申し訳ないね。私達はバビロ神聖国に行っていたから」
「バビロ神聖国ですか?」
「君達から借りたグリトニルの眼鏡で人に化けている魔族をね」
やはりメルビアだけではなくバビロ神聖国にも人間に成り代わっていた魔族はいたんだ。
「驚いたことに魔族が化けていたのは、国のNo.2の枢機卿だった」
「だからわしは前からあやしいと言っておったんじゃ。バビロ教を国教にせん国は滅ぼすとぬかしておっからのう」
それはまた過激だな。マグナスさんとルドルフさんの活躍でその野望が阻止されて良かった。
「それよりヒイロくんはバールシュバインへ向かっていると聞いていたけど」
「ちょっと旅先で問題がありまして⋯⋯それで御二人にお願いしたいことが⋯⋯」
「なんじゃ? まさかわしの転移魔法でバールシュバインまで連れていけと言うことか? 残念ながらわしは帝都まで行ったことがないから無理じゃ」
確かにそれもお願いできるならしてほしかったが、今はもう1つのことの方が優先事項だ。
「いえ、そのことではなくて⋯⋯実は――」
俺は先程シズリアで起きた襲撃事件とリズリット姫のことについてルドルフさんとマグナスさんにお話しした。
「なるほどね。それで君は僕達にどうしてほしいんだい?」
「御二人のどちらかがリズリット姫の護衛について頂ければ⋯⋯」
このままルーンフォレストに向かえばリズリット姫は確実に殺される。
「死地に向かうとわかっている人を見過ごす訳にはいきません」
ルーンフォレスト王国で公爵と同等の権力を持つ、マグナスさんとルドルフさんがリズリット姫の護衛をしてくれれば安心だ。それに何より2人は圧倒的な強さを持っているから刺客が来ても簡単に撃退してくれるだろう。
「う~ん、私はやめておこうかな」
「えっ?」
勇者パーティーの2人なら引き受けてくれると思っていたので、まさかの拒否に俺は驚いてしまう。
「私より適任者がいるからね」
「適任者?」
マグナスさんが視線を向けた先にはガッツポーズをしたルドルフさんがいた。
「姫の護衛⋯⋯燃える展開じゃのう! 2年前のリズリット姫はチンチクリンじゃったが風の噂で今は大層綺麗な
何だかどこかで聞いたことがあるノリだな。さすがはグレイのお爺さんなだけはある。
「マグナスさん⋯⋯俺ちょっと心配になってきました」
「大丈夫⋯⋯昔と違って今のルドルフならしっかりと仕事をこなしてくれますよ」
その言い方だと昔はトラブルを起こしたと言っているようなものだ。まさか護衛をする女性に手を出したとか⁉️ 頼むからリズリット姫に変なことをしないでくれよ。俺も護衛を依頼したことで連帯責任の罪を食らうじゃないか。
だが他に方法はない。俺は不安になりながらも、リズリット姫の護衛をルドルフさんに依頼するのであった。
―――――――――――――――
【読者の皆様へお願い】
作品を読んで少しでも『面白い、面白くなりそう』と思われた方は、目次の下にあるレビューから★を頂けると嬉しいです。作品フォロー、応援等もして頂けると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます