第237話 盗賊殲滅作戦
「グレイくんすまない。ナッシュがひどいことを⋯⋯」
「別に気にしてないぜ。いつものことだ」
紋章の迫害は今にあったことじゃない。俺みたいなよく分からない紋章もそうだが、【ピエロの紋章】を持つグレイも今まで陰口を叩かれたであろうことに想像がつく。
「⋯⋯実は以前この村はある男に騙されたことがあってね」
「騙された? まさか遊び人に?」
「まあそれは後からわかったことなんだけど。ここの畑は実りがあまり良くなくて、ある日モーリーという男が荒れた大地でも育つ米の種籾を売ってきたんだ。高額だったが私達は種籾を買い、米が育てばこれからは村の食糧事情も改善されると思ったんだが⋯⋯」
「稲は育たなかった?」
「ああ⋯⋯そのせいで次の年は飢えで何人も亡くなってね。俺の母さん⋯⋯ナッシュの祖母もその時に⋯⋯」
亡くなったのか。
「そのモーリーさんという方は捕まらなかったのですか?」
ルーナは悲痛の表情でウルトさんに問いかける。
「国の憲兵の方にもお伝えして捕まえるようお願いしたのですが⋯⋯証拠がないとのことで罪にとわれることはありませんでした」
確かに難しい問題だ。おそらく紙による契約書などないし、種を育てられなかった村の人が悪いと言われれば、憲兵としては引き下がるしかないだろう。
「それ以来ナッシュは冒険者になって、困っている人を助け悪い奴を捕まえるんだと⋯⋯」
ナッシュの冒険者になりたい根源はそこにあるのか。
だがだからといってグレイのことを悪く言うのは許せない。
しかし俺がとやかく言わなくてもこの盗賊退治でナッシュくんはグレイの実力を知ることになるだろう。
「それより夜も暗い。親父さんはナッシュを探してきた方がいいんじゃないか?」
確かに盗賊達が近くにいるから、子供が1人で彷徨くのは得策じゃない。
「わかりました⋯⋯もう家は目の前だから、みなさんは先に休んでいて下さい」
そう言ってナッシュくんのお父さんであるウルトさんは闇夜に消えていった。
「さあ、早くミドさんの所に行って休もうぜ」
グレイは俺達に背を向けてウルトさんの家へと歩きだす。
「グレイくんいいの? ナッシュくんを探しに行かなくて」
ルーナが心配そうな瞳で、ウルトさんとナッシュくんが走っていった方を見ている。
「親父さんが行ったから必要ないだろ。それより明日は朝が早いからゆっくり休まないとな」
「そんなあ⋯⋯」
グレイはナッシュくんが言ったことに腹を立てているのだろうか。
「ヒイロちゃんナッシュくん大丈夫かな?」
リアナだけではなく、女性陣が心配そうな表情をしているので、俺は探知魔法を使ってナッシュくんの居場所を確認してみる。
「大丈夫だ。ナッシュくんの側にお父さんがいるから心配ないと思うよ」
「そっか。確認してくれてありがとうヒイロちゃん」
だけど憧れた人が遊び人でショックだったのか、ナッシュくんが父親の言葉に耳を貸さず塞ぎ込んでいる姿が見える。
これはすぐには家に帰って来なそうだな。
そして俺の予想は当たり、ナッシュくんが家に帰ってきたのは俺達が布団に入ってからだった。
翌日朝
ナッシュくんとグレイの関係は改善されることなく、盗賊殲滅と子供達奪還の作戦が決行された。
グレイを初め仲間の皆は、村人達と共に中央広場にて盗賊達を待ち構えている。
「村長さん、俺のお願いしたことは?」
「ええ、今朝使いの者を出したら盗賊達は下衆な笑みを浮かべてたと聞いております」
「ならこちらに注意を引けそうだな」
グレイは村長の言葉を聞いて満足そうに頷く。
「何だよ⋯⋯えらそうにしちゃって。勇者であるリアナ姉ちゃんがいるから大丈夫だと思うけどグレイ兄ちゃんは信用したらダメだ。いざとなったら俺が盗賊を倒してやる」
ナッシュは隠し持った短剣を懐にしのばせ、茂みの中に隠れて成り行きを見守っていた。
「おいなんだ⁉️ 今日は村人達が少ねえじゃねえか」
10人の村人は皆どこか緊張した雰囲気を漂よわせながら盗賊達を出迎えていた。
そして村人達とは反対に、盗賊達の数はいつもより多く、約30人ほどいる。
「実は昨日この者達を捕らえる為に幾人か負傷してしまいまして」
「まあ俺らには関係ねえけどな。それにしても自分の所の村から女を差し出したくないからといって代わりに旅人を捕らえて渡すとは⋯⋯お前らも中々鬼畜なことするじゃねえか」
「それ盗賊をやってるあんたが言っちゃいますか」
「「「ヒャーッハッハッハ!」」」
盗賊達は我が物顔で笑い始めるとその声が辺りに響き渡る。
「で? こっちはお前らの要求通りガキを6人連れてきてやったんだ」
「お前らは3人女を用意しているんだろ? 俺達が気に入らなきゃこの村の女にするからな」
「必ず気に入ると思います。ですから子供達は⋯⋯」
「女と引き換えだ」
村人達の後ろから3人の少女が腕をロープで縛られた状態で、盗賊達の前に突き出された。
「ら、乱暴はやめて下さい」
「離して! 何するのよ!」
「ナンデワタシタチガコンナメニアウノカナ、カナ」
3人の少女は見目麗しく、誰がどう判断しても美少女と認める逸材であった。
「ほう⋯⋯これは中々の者じゃねえか。1人幼いけどこれはこれで」
「くっ!」
盗賊にロリ扱いされ、囚われの少女の内の1人が声を上げようとしたが堪える。
「おい! ガキどもを離してやれ」
「へい! 正直砦でガキどものお守りをするのは手間だったんで、数が減ってせいせいしやした」
盗賊達は砦から連れてきた子供6人を離す。すると子供達は一斉に村人達の所まで走り出す。
「お、おかあさ~ん」
「怖かったよ~」
子供達は親達の胸に飛び込み、安心したのか涙を流している。
「お前らが言うことを聞けば残りのガキどももいずれ返してやる。くれぐれも変なまねはするなよ」
「わかりました。ですから子供達に手荒なまねはしないでくだされ」
「よし! いくぞ!」
村長の言葉は無視して盗賊達は西のアジトへと向かう。
「砦に戻ったら俺達全員の相手をしてもらうからな」
「いや、俺はもうがまんできねえよ! こんな綺麗な奴見たことねえ。ここで犯っちまおうぜ!」
「バカヤロー! お頭より先に手を出したら殺されるぞ」
盗賊達は皆3人の少女の体を舐めるような視線で見ている。
おそらくその盗賊達の頭がいなければこの場で襲いかかっているだろう。
「お前らも残念だったな。この村に来なきゃこんな目に会わなかったのにな」
その言葉を聞いた時、1人の少女が怒りの気持ちを込めて返答する。
「それはあなた達のことだよ」
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