第236話 グレイの紋章
「ゆ、勇者⋯⋯だと⋯⋯」
村人達は皆、リアナの左手の甲にある【魔方陣の中に剣と盾の紋章】を注視している。
「こんな村に勇者様がいるわけねえ」
「偽物じゃないのか」
村人達は実際に紋章を目にしてもリアナを勇者だと認めないようだ。
まあこんなに可愛らしい娘が勇者だと言っても信じる方が難しいか。
「皆の者騒ぐな!」
リアナに対して疑心暗鬼になっている村人達を村長が静める。
「リアナさん⋯⋯よろしければその左手をわしにも見せて下さらんか」
村長さんはリアナに歩み寄り手を取って、紋章をじっくりと見つめている。
「おお⋯⋯これは
以前見た? どうやら村長は勇者アレル様と過去に面識があるようだ。
「ほ、本物⁉️ こんな年端も行かない少女が⁉️」
「そういえば数年前にルーンフォレスト王国で女の子が勇者の紋章を授かったと聞いたことがある」
「まさかこの娘がそうなのか⁉️」
村長がリアナを勇者と認めると、村人達は先程とは打って変わって膝を着き頭を下げてくる。
「勇者リアナ様⋯⋯数々のご無礼申し訳ありませんでした。責任は全て村長の私にあります。どうか村人達の命だけはお助け下さい」
村長はリアナの前で土下座をしている。
「や、やめてください! 私は別にそんなつもりじゃあ⋯⋯」
ここにいる人達の態度の変化にリアナは困惑している。
そろそろ助けた方がいいかな。
リアナは視線で「ヒイロちゃんなんとかして」と語りかけているからな。
「みなさん、リアナはそのような些細な事で処罰することはしません。それより今は盗賊から子供達を助けることを考えましょう」
「承知しました」
村人達は全員頭を地面に擦り付けて、俺の言うことに従ってくれる。
いや、言うこと聞いてくれないよりはいいんだけどさ。これはこれで凄くやりにくいぞ。
「あの⋯⋯できれば普通に接してくれると助かるかな、かな」
「いえ勇者様に対してそのようなことは⋯⋯」
「お願いですからやめてください!」
こうしてリアナのお願いによって村人達は、普通の態度で接するようになった。
そして俺達は村長さんに盗賊についての情報を聞く。
「盗賊達は、以前軍が砦として使っていた場所を拠点にしております」
「砦ですか?」
「はい⋯⋯地下に牢屋もありますから、おそらく子供達はそこに囚われているかと」
地下牢か⋯⋯子供達がひどい目にあっていなければいいけど⋯⋯。
「村長、砦の場所はどこにあるのでしょうか?」
もし近くにあるなら今探知魔法で確認してみよう。
「この村から西に3キロほど行った所に」
俺の探知できる距離は2キロまでだから無理か。後で1キロほど歩いてそこで探知魔法を使って確認してみるか。
「そして⋯⋯おそらく盗賊達は50人ほどいます」
50人か⋯⋯ミリアリス姫を襲ってきたオークは200匹だったので、その時の約4分の1だな。
「みなさん盗賊の人数を聞いても驚かれないのですね」
「所詮は盗賊⋯⋯高レベルの者がいなければ、大した脅威ではないと思っているので」
以前ルーンフォレストで始末したキルガクラスの奴がいれば厄介だけど、山奥の村で人質を取って隠れている程度の者が強いとは思えない。
「さ、さすがは勇者様ですね」
村長は盗賊の数に動じない俺達を見て、驚きの表情を浮かべている。
「ただ⋯⋯子供達を人質に取られているのは厄介だな」
グレイの言うとおり、もし盗賊達が10人の子供に刃を突きつけたら、俺達は動くことが出来なくなる。
「食糧や金品を奪いに来る時は何人ぐらいで来るのですか?」
「いつも10人前後の人数で村まで来ます。今回はその時にミドと子供達3人を交換することに⋯⋯」
なるほど⋯⋯村人達に今後もいうことを聞かせるためか。
盗賊が来て1ヶ月⋯⋯そろそろ村人達は我慢の限界で、子供達を殺される覚悟で冒険者や国に報告したり、玉砕覚悟で武器を手に取る可能性が高い。だがここで1度でも子供達を返せば、このまま従っていれば残りの人質も返してもらえるかもという気持ちになり、逆らうことをしないだろう。だけどその為にミドさんを犠牲にするのはどうかと思うが。
「何か子供達を助ける良い方法はありませぬか」
子供達を救う方法か。
探知魔法を使えば砦のどこに子供達が捕らえられているかわかるから、こっそり侵入して助けるしかないか。
皆で子供達を助ける方法を考えている中、座っていたグレイが突如立ち上がった。
「村長さんよ。俺に良い考えがあるぜ」
そしてグレイはこの場にいる全員に作戦を説明し、子供達を助ける方法が決定された。
ナッシュくんの家へと向かう帰り道
「それにしてもリアナ姉ちゃんは勇者だったんだ! すげえよ!」
ナッシュくんは勇者であるリアナを見て興奮している。
「どうだ! 父ちゃん! 俺の見る目も中々だろう」
「そうだな」
自分が依頼した相手が勇者だったんだ。偶然だと思うけど確かに得意気になる気持ちもわかる。
「すみませんリアナ様。ナッシュは冒険者に憧れてまして」
「ナッシュくんに会った時に聞きました。SSランクの冒険者になるんだって」
「ええ、成人の儀で良い紋章を頂ければ⋯⋯」
まあこればっかりは神様にしかわからないことだからな。冒険者になれるような紋章だといいけど。
いや⋯⋯冒険者に不向きな紋章でも立派にやっている奴もいたな。だからナッシュくんが冒険者に慣れるか慣れないかは自分の努力次第だ。
「そういえばグレイ兄ちゃんの紋章は何なの? この村の人達が何か隠していることを見破ったし、さっきも明日の作戦を考えちゃうくらいだからきっとすげえ紋章だよね?」
「こらナッシュ! 冒険者の方々は自分が何の紋章か容易く教えることはしないのを忘れたのか⁉️」
リアナみたいなオールラウンダーなら弱点はないから知られてもいいが、普通は他人に自分の紋章を教えることはしない。
「別にいいぜ」
「ほ、本当! きっとグレイ兄ちゃんはすげえ紋章だろうなあ。ひょっとしてもう上級職だったり」
どういう意図かわからないが、グレイは左手の手袋を取ってナッシュくんに紋章を見せる。
「えっ⁉️ この紋章って⋯⋯遊び人!」
グレイの手の甲には【ピエロの紋章】が映し出されていた。
「な、なんだよ⋯⋯グレイ兄ちゃんはすげえ強そうに見えたけど口だけの職業だったのかよ」
「こらナッシュ! お前は何てことを言うんだ!」
グレイの職が遊び人と知り、ナッシュくんはバカにした言葉を口にする。
まあ俺もグレイに会わなかったら、遊び人は賭博とかで遊んでいるどうしょもない職だったと思っていたからな。
「だって遊び人は戦闘職の中でも底辺に位置するものじゃないか! きっと冒険者をやって行けてるのも勇者であるリアナお姉ちゃんに寄生しているからだろ!」
そんなことはない! 俺はナッシュくんにグレイの凄さを伝えようとするがグレイに制止される。
「別に遊び人だって冒険者になれるぜ」
「なったとしてもパーティーのお荷物だろ! 俺⋯⋯グレイ兄ちゃんに憧れてたのに⋯⋯」
そう言って闇夜の中、ナッシュくんはどこかへと駆け出して行った。
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