第225話 両国の姫と⋯⋯
「みんな騒がしくなってきたね」
「やっと憧れの姫が俺の前に!」
グレイは待ちに待った姫に会えるのが楽しみなのか、目が血走っている。
噴水広場の左右から、警護を行っている兵士や冒険者らしき者達が現れ、一本の通り道ができる。
「ルーンフォレスト王国とアルスバーン帝国の兵士の人が少ないね」
「中立都市だから、最低限の兵しか入れてもらえなかったんだろ」
リアナの言うとおり、姫達が通る道の両脇に、それぞれ5名ずつの兵士しかいない。ただ、兵士の格好をしている者はそれしかいなくても、実際はこの人混みに紛れて、かなりの数の護衛がいるはずだ。
辺りがまたざわめき始めた。お待ちかねの姫が登場するのだろうか。
「お兄ちゃん、全然見えないです」
「私も見えません」
パーティーの中で背が低いティアとルーナは、人垣で前が見えないようだ。
なら肩車してやろうかと、言葉が出かけたが、「子供扱いしないで!」と怒られそうなのでやめた。
「そうは言ってもどうしょもないぞ。それに俺も距離がありすぎて、姫が出てきても顔の判別ができない」
「そうなんだ⋯⋯これじゃあ両国のお姫様を見ることができないね」
シルエットくらいかな、見えるのは。噂どおり美しいかどうか見分けることはできそうにない。
「くそっ! 今こそ開眼しろ! 第3の目よ! 姫を見る力よ今ここに!」
この人混みのせいなのか、グレイが訳がわからないことを言い始めて必死に噴水の方に視線を向けている。
だが確かにこれは何かスキルでもないと、姫達を見ることができないぞ。
「ん? スキル⋯⋯そっか、別に直接見なくてもいいのか」
「何かお姫様を見るための方法を思いついたの?」
「ああ⋯⋯だけどこれは俺限定だけどね」
「何だと! ヒイロてめえずりいぞ!」
グレイが血の涙を流し、俺を非難してくる。
「しょうがないだろうが! 誰も見れないよりマシだ」
俺はこの距離でも姫が見れるよう魔法を唱える。
【
俺を中心に魔力の波が広がっていき、この辺り一帯の様子が手に取るようにわかる。
「探知魔法か? ちくしょう俺も魔法が使えれば!」
とりあえず悔しがるグレイは無視して、俺はお姫様達を探す。
え~と⋯⋯お姫様はどこにいるんだ?
たぶん左側がルーンフォレスト王国、右側がアルスバーン帝国がある場所だから、噴水広場の左右から現れると思うが⋯⋯あれか!
高級そうな馬車が2台噴水広場に向かっているのが見えた。
そして護衛らしき兵士が10人ほど付いているから間違いない。
俺は意識をそれぞれの馬車の中へ持っていくと、綺麗なドレスを着た女の子が乗っているのが見えた。
ただ残念なことに2人共、ヴェールのような物で顔を隠しているため、容姿の確認ができない。
「どうだ⁉️ 姫様達の顔は確認できたか⁉️」
グレイが急かすように俺を問い詰めてくる。
「両国の姫は今馬車で噴水広場に向かってるよ」
「だったらもうすぐ会えるのか! 楽しみだぜ」
「けど顔を隠しているから、美しいかどうかの確認はできなそうだけどな」
「マジで!」
グレイは俺の言葉を聞いて肩をガックリと落とす。
ただ、もしお姫様達が顔を隠していなかったとしても、ここから噴水まで40メートルはあるから、結局顔を確認することは出来なかったけどな。
「あれ? お兄ちゃんは離れた場所でも詳細に見ることができるの?」
「距離が離れすぎてると無理だけど」
ん? ティアは何で今更そんな質問を。
「⋯⋯まさか探知魔法を使って覗きをしてないよね」
ティアが言葉を発した瞬間、皆の視線が俺に集中した。
「ヒイロてめえ!」
「ヒイロくんのこと信じたいけど⋯⋯昨日のこともあるから⋯⋯」
「そんなことしてないよね? 私はヒイロちゃんのこと信じていいよね?」
女性陣は俺の覗きについて懐疑的だが、グレイは完全に黒だと決めつけやがった。
だが、実際にラナさんのお風呂シーンを覗いてしまったので、否定しずらい。
「いやいや、そんなことするはずないだろ⁉️ 自分の意志で覗いたことなんて1度もないぞ」
あの時はマグナスさんに言われて探知魔法でラナさんの様子を確認しただけだ。嘘は言ってない。
「みんな信じるな! こいつは性の権化のような奴だぞ!」
「黙れグレイ」
お前本当に後で覚えてろよ!
「ヒイロちゃん私の目を見て!」
リアナが近い距離で、俺の目をジーッと見てくる。
これは目を逸らしたら嘘をついているというやつか。それならリアナの目を注視するまでだ。
久しぶりにこんな近くでリアナの顔を見た。
染み一つない整った顔⋯⋯くっ! 相変わらず可愛いな。
何だかリアナに見つめられると恥ずかしくなり、途端に顔が赤くなって、思わず視線を外してしまった。
「あ~! 目を逸らした! ヒイロちゃん嘘をついてるね!」
「ちがっ!」
それはお前が可愛いからだ⋯⋯なんて言えるかこのやろう!
「最低だよ!」
「最低ですね!」
「これはお父様に言って牢屋に入れてもらいましょう」
「昨日のナンパをやろうって言い出したことといい⋯⋯罪を認めな」
グレイはどさくさに紛れて、ナンパの件も俺のせいにしようとしてやがる。
「俺は魔法を悪用していない! みんな信じてくれ!」
俺は真剣な表情で女性陣に訴える! グレイは何がなんでも俺に罪を擦り付けようとしているので無視だ。
しかし残念ながら俺が釈明する時間はなかった。
「おい! 噴水の左右から馬車がそろそろ来るぞ!」
「待ちに待った姫様の登場だ!」
どうやら両国の姫が到着したようで、皆が馬車を注視する。
「とりあえずこの話は後だね」
もうすぐ姫達が現れるせいか、辺りは静かになってきた。ここで騒いだら冒険者の治安部隊に拘束されてしまうかもしれない。
「わかった⋯⋯けど俺は無実だからな」
俺としてはラナさんのことがバレたくないからちょうど良かったのかもしれない。
「おお!」
ここにいる者達全員が声を上げる。
馬車が噴水広場の両脇に現れ、皆の視線が2つに分かれる。
「お前はどっちが気になる? 俺は⋯⋯選べねえ! 何で人は左右同時に見ることができねえんだ!」
「ちょっとグレイさん、静かにしてください⋯⋯治安部隊の人がこちらを見ていますよ」
確かにティアの言うとおり、馬車の近くにいる兵士と見られる者達が、こちらを睨むように視線を向けてくる。
「やべ!」
ここで退場させられるのが嫌なのか、グレイは体を小さくし、大人しくする。
そして馬車から、探知魔法で見た通りの女の子達が出てくると、辺りは歓声に包まれ、ここにいる者達のボルテージが最高潮に達した。
しかし残念ながら探知魔法で見た通りヴェールを着けていて、顔は見えない。
「どこ? どこですかお姫様は?」
ティアがジャンプして両国の姫を見ようとするが、如何せん高さが足りない。
「ティアちゃん、私が抱きかかえて上げるよ」
「お願いできますか」
リアナは、後ろからティアのお腹の辺りを抱きかかえ持ち上げた。
「ありがとうリアナさん、お姫様達が見えるよ!」
リアナがティアを持ち上げている間に両国の姫達は、噴水の端から中央へと向かう。
俺は探知魔法をもう一度唱え、姫達の動向をチェックする。
いやはや周囲は凄い熱気だな。
この状態からして両国の姫の人気の高さが伺える。
ん?
しかしそんな中、この場には似つかわないほど冷静な奴が観客の中にいた。
噴水に比較的近い位置に席を取り、外套を着て顔がよく見えないが、姫とその周囲の様子を確認している。
しかも探知魔法で改めて見てみると、似たような外套を着た奴らが観客の中に散らばっており、少なくとも15人以上はいる。
何か怪しくないかこいつら⋯⋯。
外套で顔を見せないこと、姫達ではなく姫の周囲を確認していること、そして皆右手を懐に入れていること。
そんな中、両国の姫が噴水の中央で互いの手を取り、何か話をしている。
気のせいだといいが⋯⋯。
俺は念のため、外套を着ている1人に対して魔法を唱える。
「【
名前:シャドウ
性別:男
種族:人族
紋章:短剣と黒装束の紋章
レベル:23
HP:289
MP:55
力:C-
魔力:D-
素早さ:C+
知性:C
運:D
短剣と黒装束の紋章⁉️ こいつ暗殺者だ!
「グレイ! これからこの場はパニックになる可能性がある! 転移魔法で馬車まで飛ばすから3人を頼む!」
「「「えっ⁉️」」」
俺の言葉にみんなは驚きを隠せない。
「パニック⁉️ まさか両国の姫が⁉️」
俺は頷きながら、転移魔法の準備をする。
「わかった。こっちは任せろ」
さすがグレイは話が早くて助かる。
「ヒ、ヒイロちゃんはどうするの⁉️」
まずはグレイとティアに転移魔法をかけると、2人は一瞬でこの場から姿を消す。
俺達の後ろにいる御老人達が、突然人が消えて驚いているが、今は気にしている暇はない。
「もちろん2人を助ける」
「だったら私も⋯⋯ううん⋯⋯私がいたら邪魔になっちゃうね」
出来るなら手伝ってもらいたい所だが、もしこの場にいる全員がパニックを起こしたら、転移魔法や飛翔魔法が使えないリアナ達は、人混みに巻き込まれて、何もできないだろう。それに確率は低いと思うが、この暗殺者がティアを狙っている可能性も考えられるため、まずはティアの安全を最優先に確保したい。
リアナもそのことを理解して引き下がってくれたのだろう。
「ヒイロくんお気をつけて」
ルーナの言葉に頷きながら、2人をグレイ達と同じ馬車まで転移させる。
そして俺はさらに認識阻害魔法を唱え、久しぶりに仮面の騎士へと変身した。
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