第194話 偵察
「石化⋯⋯だと⋯⋯。それはまさしく今レナ殿が言った通りではないか!」
悪いことというのは的中してしまうものだ。もう既にゼヴェル復活している。
「それでなぜ石化しているか、原因はわかっているのか⁉️」
「い、いえ⋯⋯ダライ村の建物から人にいたるまで、村全体が石になっているのを発見し、急ぎディレイト王へと知らせなければと早馬を飛ばしてきたのでまだ詳しい原因までは⋯⋯それと何名かの兵士が連絡不能となっています」
十中八九、その兵士達はゼヴェルに石化されているのだろう。
「王よ、如何なさいますか」
「まずは騎士団に連絡して、各街や村の防備を固めるのだ! それと敵の位置を探るため、偵察隊を⋯⋯」
だがディレイト王の言葉が止まる。偵察に出た者は石化され、帰らぬ可能性が高いからだ。
本当は王として、非情な判断をしなければならないが、部下達のことを考えているトップの方が、俺は好ましい。
「ディレイト王⋯⋯俺が行きましょう」
「ヒイロちゃん⁉️」
「ゼヴェルの偵察に関して、転移魔法が使える俺が1番適しているでしょう」
「しかし!」
ひょっとしたら親友の子供だから危険な任務に当たらせたくないのかもしれない。だけど今はそんなことを言ってる場合じゃない。
「魔界獣ゼヴェルの情報を一刻も早く手に入れなければ、王都が⋯⋯メルビアに住む全ての者が犠牲になってしまいます⋯⋯俺に行かせてください」
ディレイト王は目を閉じて、天を仰ぐように上を向きそして答える。
「⋯⋯わかった⋯⋯頼んだぞ」
「はっ!」
そうと決まったら急いだ方がいい。まずはセルグ村の森の入り口まで転移するか。
「ちょっと待って! ヒイロちゃんが行くなら私も行く!」
リアナが⋯⋯そして仲間達が皆、偵察に志願してくれる。
危険な任務なのにこいつらは⋯⋯。
「気持ちは嬉しいけどもしもの時、咄嗟に逃げるのが難しくなってしまう」
「お兄ちゃんの転移魔法は2人までなら大丈夫でしょ?」
「こ、こらティア! お前はメルビアの姫だぞ!」
「何を仰っているのですかお父様! 今は非常時、姫であろうが何だろうがそのような立場は関係ありません!」
ティアが最もらしいことを言ってディレイト王に反論するが、俺も姫が偵察はありえないと思う。
「いえ、ここは私を連れて行って下さい」
メルビアの王とティアの間にレナが割って入る。
「けど姉さんにもしものことがあれば、ゼヴェルを封印することが出来なくなってしまいます」
「だからこそ行くのです⋯⋯ゼヴェルを封印するために、私自信の目で確認させて下さい。それとセルグ村へと行き、世界樹の魔力とグリトニルの眼鏡を取りに行かねばなりませんから」
確かに危険な任務だが、ゼヴェルを封印する物が無くては始まらない。ここはレナと行くのが得策のようだ。
「わかりました。ではレナ、行きましょう」
「2人とも頼んだぞ」
こうして俺とレナは、ゼヴェル偵察と世界樹の魔力、グリトニルを眼鏡を取りに行くため、セルグ村へと行くことになった。
行くなら早めに行った方がいいだろう。偵察してディレイト王に報告するとき、もう敵は王都の目前です! てことになったら、目も当てられない。
「気をつけてねヒイロちゃん」
「お帰りをお待ちしています」
「お兄ちゃんがんばって」
「レナさんをちゃんと護れよ」
荷物に関しては異空間収納に入っているから、俺はすぐに出発することができる。
「それでは早速行くとしましょう」
「わかったわ⋯⋯お願いねヒイロくん」
レナの顔が少し青ざめている。無理もない、石化させる魔界獣など出来れば俺も近寄りたくはない。
「ちょっと見に行くだけだし、何があっても俺が護るから安心して下さい」
「ありがとう⋯⋯ふふ⋯⋯頼もしいね」
「レナみたいな綺麗な人の前だから強がってるだけかもよ」
「ううん⋯⋯ヒイロくんは勇気がある人だから。そうでなければ自分から偵察に立候補しないもの⋯⋯お姉ちゃんも負けていられないわね」
良かった。どうやらレナの緊張も少しはほぐれたようだ。
「ヒイロ、姉さん⋯⋯無事に帰ってきてね」
「あら? 私はヒイロくんの後なんだ?」
「ち、ち、違うわよ! 偶々ヒイロの名前が先に出ただけで、けしてヒイロがす、好きだからとかそういうことじゃないからね!」
「ふふ⋯⋯
「もう! 姉さんったら!」
ラナさんをからかうようだから、レナは大丈夫そうだな。
「ヒイロくん⋯⋯娘を頼む」
「よろしくお願いします」
レナのご両親が深々と頭を下げてくる。
「任せてください」
何か2人の雰囲気が重苦しくないか? 確かに危険だけどまるで今生の別れのような⋯⋯。
「大丈夫よ⋯⋯
その場でゼヴェルを封印するということか。
レナが言葉を紡ぐと2人の目から涙が溢れる。
「じゃあ私行くね⋯⋯ヒイロくんお願い」
俺は何かレナとご両親のやり取りに疑問を持ちながら、セルグ村へと転移魔法を使用した。
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