第186話 奴隷契約

「ということなので、このお金は真っ当な物なので安心して下さい」

「承知致しました」


 魔王軍討伐のことは話さずに、金を手に入れた経緯を司会者に伝えると、納得して白金貨を受け取ってもらった。


 まあたぶん後で冒険者ギルドに裏を取るだろうが、別に問題ない。


「ヒイロのバカ! 金貨5,000枚なんてどれくらいの金額だと思っているのよ! 私を助けてくれるだけじゃあきたらず、姉さんまで⋯⋯私は⋯⋯私達はどうやってこの恩を返せばいいの⋯⋯」

「ラナさんは大切な仲間だから⋯⋯金で済むならなんだってやるよ」

「大切? 私が⋯⋯」


 俺の言葉が終わると何故かラナさんの頬が赤く染まった。


「ちょっとちょっとラナさん⁉️ 大切なですからね。勘違いしてはダメですよ」


 そんなラナさんにマーサちゃんから突っ込みが入る。


「わ、わかってるわよ! ヒイロにとって私は大切な仲間⋯⋯大切な⋯⋯大切⋯⋯ふふ⋯⋯」

「また顔を赤くしてますね⋯⋯どうやらラナさんは自分の世界に入っているようです」

「とりあえず奴隷の受け渡しをします⋯⋯主人であるヒイロ様だけは別室で、あなた方は店の外でお待ち下さい」


 2人の漫才の間を割って、司会者がこれからのことについて話を始めた。


「わかりました。私はこの妄想しているラナさんを連れて外で待っています」


 そういってマーサちゃんは、ラナさんを連れてオークション会場から出ていった。


「それではヒイロ様、こちらへどうぞ」


 俺は司会者に連れられて、舞台袖を進んだ先にある部屋に案内される。


「おっと⋯⋯その前に1つだけよろしいでしょうか?」

「何ですか?」

「この店から外に出たら気をつけて下さい」

「どういう⋯⋯なるほどそういうことか」


 探知魔法で確認すると、店から少し離れた位置で、10数人連れた男がこちらの様子を伺っている。


「余計なお世話だったようですね」

「いえいえ、教えて頂きありがとうございます⋯⋯けどよろしいのですか? 仮にもこの土地のを売るようなことをして」

「このような商売に関わっているから私のことを非情のように思われているかもしれませんが、出来ればここで買われた奴隷には幸せになってほしい。しかしあの方に買われた奴隷は、高確率で心を壊されてしまうか、自殺してしまうのです。ですから正直、今日のオークションは胸がスッとしました」


 ボーゲンはやはり、ここに住む住人からも嫌われているんだな。いつかこの街で反乱が起きてボーゲンは殺されるのではないか。


「ではこちらの部屋にお入り下さい」


 司会者に促されて一室の中へいくとレナさんが1人佇んでおり、表情はなく、感情を忘れてしまった綺麗な人形のように見えた。

 ひょっとしたら妹のラナさんがいたことに気づいてないのか?

 会場は、舞台は明るかったけど競売者の側は暗かったから、こちらの姿が見えていなかったのかもしれない。


「では早速行いますね。私はアッサラーマの都市から契約者として認定されているため、この場で奴隷の契約を結びます」


 ひょっとしてこの司会者の紋章は奴隷商人なのか。それに都市に認定されているということは、かなり優秀な方なのだろうと推測される。


鑑定魔法ライブラ


 俺は魔法を唱え確認してみる。


  名前:セオルド

 性別:男性

 種族:人族

 紋章:鞭をもって人を叩いている

 レベル:15

 HP:152

 MP:69

 力:D

 魔力:E

 素早さ:E+

 知性:C

 運:D


 やはり奴隷商人か。今は紳士的に振る舞っているが、昔はヤンチャしてたのかもしれない。


 セオルドさんを中心に魔方陣が展開している。


「ヒイロ様、こちらに血を一滴頂いてもよろしいでしょうか」


 俺は親指を歯で噛みしめ、血を魔方陣に垂らすとレナさんの奴隷の首輪が光始めた。


「ま、眩しい」


 そして数秒で光が収まり瞳を開けると、先程と変わらない光景が目に入った。


「これでレナ様はヒイロ様の奴隷となりました」


 特に何か変わったようすはないが、聖約でルーナを奴隷にした時も気がつかなかったからな。たぶんセオルドさんが言うとおり、レナさんは俺の奴隷になったのだろう。


「できれば、あなたのような方とは長い付き合いをしたいものですが、おそらくそれは無理でしょう」


 まあ今回はラナさんの姉であるレナさんのことがあったから奴隷を売る店に来たけど、そうでない限りここに来ることはもうないだろう⋯⋯ほ、本当だぞ! けして自分専用の奴隷がほしいとか思ってないからな! ⋯⋯たぶん。


「もしまた機会があればよろしくお願いします」

「機会があればよろしいのですが」


 何となくだが、セオルドさんは信用できる人のように感じた。もし奴隷についてのトラブルがあった時は協力をお願いしてみようかな。


「では私はこれで失礼いたします⋯⋯お帰りはあちらのドアから出てください」


 こうして俺はレナさんと奴隷の契約を結び、急ぎラナさんとマーサちゃんの元へと向かうのであった。

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