第159話 スライムコワイ
セルグ村へと続く森の入口で、何とも言えない空気が流れている。
「くっ! また変態ロリエロ男に裸を見られたわ⋯⋯」
「うぅ⋯⋯何でいつもこんな目に⋯⋯」
「スライムツヨイ⋯⋯スライムキョウテキ⋯⋯スライムコワイ」
既に3人は異空間収納から出した服に着替えているが、先程の戦いにより、情緒が不安定になっているようだ。
特にティアはスライ、スラぞうと初見だったこともあり、言葉が片言になってしまっている。
だ、大丈夫かな?
俺としては素晴らしいものが見れて最高の気分だったので、何だか悪い気がしてきた。
「壊れてしまったわね」
「無理もないです。13歳の少女が⋯⋯あ、あんなエッチな目にあったのですから」
ティアの様子を見ると今度は、「スライムコワイ」と繰り返し呟いている。
「仕方ありませんね⋯⋯ヒイロくん」
ルーナに呼ばれたのでそばに行くと、顔を近くに寄せてきた。女の子の特有な匂い、そして言葉を話す唇に少し目を奪われる。
「ティアさんに⋯⋯」
耳元でルーナが小さな声で呟く。
「えっ⁉️ それを言うの?」
「ええ⋯⋯そうすればティアさんは元に戻りますから」
「本当に?」
少し恥ずかしいが、これでティアが正常に戻るならやるさ。
俺は狂ったように同じセリフを吐くティアの耳元で、ルーナに言われた言葉を囁く。
「ティア⋯⋯今日も可愛いね」
何だか言葉にするとすごく照れるぞ。こういうセリフはグレイが得意だと思う。これで元に戻らなければ俺はただのナンパ野郎だ。
「はっ! 今、好きな人に言われたいランキング上位の言葉が聞こえてきました」
「本当に元に戻ったよ」
さすがルーナだ。自信を持っていただけのことはある。
「ティアさん⋯⋯そんなランキングの言葉を誰も言っていないですよ」
「えっ? でもお兄ちゃんが囁いてくれたように感じました」
「気・の・せ・い・で・す」
「わ、わかりました」
ルーナの得も知れぬプレッシャーによって、ティアは従うしか道はなかった。
俺としても忘れてほしいことなので、特に説明することはない。
「さ、さあ3人共⋯⋯今あった出来事は忘れてセルグ村へと向かうわよ」
とりあえず今スライムにやられたことはなかったことにして、先に進もうというラナさんの意見を取り入れ、俺達は森の奥へと進んで行くのであった。
森を歩いて行くが、今の所はどこにでもある普通の森で、特に異変を見つけることを出来なかった。
「結界が張られていると言うからには、何か特別な仕掛けがあるかと思っていましたが、変わった所はありませんね」
ティアも同じ意見だったらしく、言葉にして皆に伝える。
「侵入者は全員そう思ってくれるから迷うのよ。けど私にはわかるの⋯⋯まだこの地には結界があることを」
結界か⋯⋯おそらく魔道具か、魔法の一種だと思うが、もし魔法ならここいら全体に魔力が蠢いているはず。
俺は目を閉じて周りの気配に集中してみる。
人が歩く音、息づかい⋯⋯いやこれはただ聴覚から仕入れている情報だ。
もっと深く、もっと神経を研ぎ澄ませ。
ん? うっすら周囲に漂う霧のようなものがある。
良く見るとラナさんは、この霧を避けながら森を進んでいるみたいだ。
なるほど⋯⋯これが結界というやつか。けどそのことを口にすると、仮面の騎士だと疑われる可能性を高めてしまうので、俺は黙っていることを選択した。
「そういえば⋯⋯ルドルフさんはセルグ村に来たことはあったのかなあ」
「私を助けてくれた時に、マグナスおじ様といたからあるわ⋯⋯どうして?」
「いや、転移魔法で連れてきてくれたら早かったのにと思って⋯⋯」
そうすれば時間を短縮することが出来た。しかしラナさんの口からなぜ俺の考えが実行されないかが話される。
「この霧は外部からの魔法打ち消す効果があるの。だからルドルフおじ様の転移魔法は弾かれてしまうから無駄よ」
「ということは今俺達は魔法を使うことができないのか⁉️」
俺はともかく、そうなると魔法主体のルーナとティアはここでの戦闘は厳しくなる。
「いえ、結界の内部では魔法を使うことができるわ⋯⋯安心して」
「そうですか⋯⋯良かったです」
「でも魔法が使えなくても良かったかも⋯⋯お兄ちゃんに護ってもらえるから⋯⋯」
ティアが何やら不穏なことを言い出したが、聞かなかったことにしよう。
そしてしばらくラナさんに続いて歩いていくと、段々と道が険しくなり、案内がなければ迷ってもおかしくないほど、木々が生い茂ってきた。
本当にこの道で合っているのか不安だが、先程から感じることができた結界の道筋は、間違っていない。
ラナさんは生まれ故郷ということもあり、また、エルフという種族特有のスキルなのか、森をスラスラと歩いていくが、ルーナとティアは肩で息をして、少し遅れはじめている。
俺は2人の前に出て、遮る木を折り、地面にある草木を足で踏み潰しながらラナさんの後を着いていく。
「「あっ⁉️」」
2人はヒイロの気遣いに感づいたが、言葉にすることはできない。
もし言葉にしてしまったら、ラナは自分達のために歩くスピードを落とすことになる。
だから悔しい気持ちを抱きながらも、黙々とヒイロの背中に着いていく。
そして30分ほど進むと、太陽の光が注ぐ明るい場所に到着し、ラナさんが俺達の方を振り向き、言葉を発する。
「着いたわ⋯⋯ここがセルグ村よ」
俺達の目の前には、とても人が住んでいたとは思えない廃墟が広がっていた。
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