第147話 これから

 トントン


「失礼するぞ」


 ドアがノックされ、突然部屋に入ってきたのはディレイト王だった。

 後ろにはエリスさん、ダリアさん、そしてルドルフさんとマグナスさんがいる。


「おお⋯⋯リアナくん、グレイくん⋯⋯2人共目が覚めたんだね」

「ありがとうございます。これもディレイト王に匿って頂いたからです」


 グレイが先程までとは違い、真剣な表情でディレイト王に礼を言う。


「そのようなことは気にしないでいい⋯⋯当然のことをしただけだ」


 どうやらこのまま俺たちを匿ってくれるらしい。特にリアナがここにいるとメルビアにとって大変なことが起きると思うが⋯⋯。


 ん? 何やら女性陣がソワソワしていないか? チラチラと誰かを見ているような⋯⋯なるほど、そういうことか。


 憧れの勇者パーティーの一員である、ルドルフさんとマグナスさんがいるから皆浮き足だっているようだ。


「ルドルフ様⋯⋯先日はお世話になりました」

「ルーナちゃん久しぶりじゃのう⋯⋯修練の腕輪も役に立っているようで良かった良かった」


 おそらくルドルフさんは、鑑定でルーナのステータスを視てレベルが上がっていることを確認したのだろう。


「ちょ、ちょっとルーナさん私も紹介してください」

「私もしてほしいよ」


 ラナさんとリアナが、賢者であるルドルフさんの前で、自己紹介をしている。


「ご高名はお聞きしています。わたくしラナと申します。本日お会いできたことを光栄に思います」

「リアナです。ヒイロちゃんの幼なじみをやってます⋯⋯今は」


 あのラナさんが人族であるルドルフさんに敬語を使った!

 さすがに勇者パーティーであるルドルフさんは、他の人族とは違う扱いらしい。それともマグナスさんの仲間だから初めから信用しているのかも。

 リアナの挨拶で「今は」ってなんだ?


「今度わしの武勇伝を聞かせてしんぜよう。明日にでも3人でメルビアの街を謳歌しようかのう」

「じじいナンパしてるんじゃねえ! 今はそんなことを言ってる時じゃないだろ! 空気を読め!」


 グレイは珍しく真面目な事を言う。とてもさっきハーレムを作ろうとしていた奴のセリフとは思えないな。


「じじい? えっ? グレイはルドルフ様の血縁者なの⁉️」


 皆の視線がルドルフさんとグレイに集まる。

 そしてグレイは頭をガシガシと掻きながら、諦めたように言葉を出す。


「そうだよ⋯⋯俺はじじいの孫だ」


「「「「「えぇぇぇ!」」」」」


 元々知っていたルーナ以外の女性陣から驚きの声が上がる。


「グレイがルドルフ様の孫⁉️」

「けどそれならグレイくんの能力が高いのも頷けるね」

「伝説を作ったお2人とお会いできたことも驚きましたけど、グレイさんがルドルフ様のお孫さんというのもビックリしました」


 まあ俺も、初めルドルフさんとグレイのことを知って、驚いたから皆の反応も納得できる。


「そんなに驚くことかな?」


 マグナスさんが、皆が驚愕していることに対して、言葉を発する。


「マグナスおじ様⋯⋯ルドルフ様のお孫さんですよ⁉️ 驚きますよ」

「だってそこにもいるじゃないか」

「何がですか?」


 あっ、この言い方はひょっとして⋯⋯。


「リョウトとユイの息子が」


 そしてマグナスさんは俺のことを人差し指でさす。


「「「「「うそぉ!」」」」」


 別に隠していたことじゃないからいいけど、知らなかった人達の叫び声が再度部屋に木霊する。


「あ、あ、貴方リョウト様とユイ様の子供なの⁉️」

「ビックリしました。けれどヒイロくんなら納得です」

「ヒイロさんそんなすごい人の子供だったんですね」

「それならあの謎めいた強さも納得です」

「これは玉の輿も狙えちゃうね~」


 コホンッ!


「皆さんヒイロくんとグレイくんのことが気になるみたいだけど、その話は後でいいかな? それより魔物が侵略してきたことについて聞いてほしい」


 マグナスさんが咳払いをし、少し浮わついた俺達の心を引き締め、今回の騒動について語り始める。


「まず初めに言っておくが、この度の魔物襲来から勇者生け贄については全て仕組まれたことだ」


 今のマグナスさんの言い方は何か変だ⋯⋯魔族であるボルデラが計画したことなら何らおかしいことなどないはず。


「魔物と⋯⋯人の手によって」

「「「人間⁉️」」」


 やはりそうか⋯⋯ヴィルド王が亡くなってからランフォースが王になるまでの流れがスムーズ過ぎた。おそらく関わってた人間は⋯⋯。


「そもそもの始まりは数ヶ月前に起きた王都襲撃から始まる」


 マーサちゃんが拐われ、リアナと再会し、ルーナが呪いを受けたやつだ。


「あの戦いは王都を陥落させるのが目的ではなく、王都の民に不安を抱かせるのが目的だったと考えられる」


 確かに今回の戦いもそうだが、王都を落とすことが目的なら詰めが甘過ぎる。もし俺が指揮官なら三門は最小限の人数を配置して陽動に使い、残り一門に戦力を集中させて一気に落とす。又は暗闇の中、一部の部隊を侵入させ、城門を確保した所で全部隊で突入する。


「実は以前からルドルフと調査していたんだが⋯⋯各国の上層部に魔族が接触している⋯⋯もしくは人間になりすましていることが確認できた」

「おじ様⋯⋯それってかなり大事のことでは⋯⋯」

「奴らは狡猾なことに、徐々に悪い方へと導いているため、誰が魔族か、コンタクトを取っている人物か、見破ることが難しい」

「今のお話の仕方ですとまさかメルビアにも⋯⋯」

「ティア⋯⋯残念ながらその通りだ」


 ディレイト王が苦悶の表情でティアの問いに答える。


「それって鑑定魔法でわからないのですか?」


 鑑定魔法を使えば、種族の所に魔族と出るはずだ。だが⋯⋯。


「北の小国で人に化けている現場を押さ、魔族を倒したのじゃが、わしの鑑定では看破することは出来んかった」


 その隠蔽する魔道具が優れているのか、それともルドルフさんより魔力が高い奴がいるのか、どちらにせよ良いことではないのは確かだ。


「もしかしてランフォースに魔族が接触して王を殺し、自分が王位に就いたと⋯⋯」

「さすがだねヒイロくん」

「あの王子そんなことやってたの! やっぱりあの時殴り飛ばしておけば良かったわ」


 ラナさんはランフォース王子に対して怒り心頭のようだ。だがその気持ちはわかる。俺もマグナスさんやルドルフさんが来なければ、ランフォースが城門から出てきた時に魔法を放っていただろう。


「そして今回魔物を王都へ侵攻させ、その混乱に乗じてヴィルド王を殺害、そして第1王子のエリオット様を監禁し、王位を手にいれた⋯⋯さらに勇者であるリアナさんを魔物に殺害させ、勇者に頼らなくても自分の力で王都は護れると民衆に誇示したかったのでしょう」


 そんなことでリアナを殺そうとしたのかランフォースは!


「だが仮面の騎士の協力もあり、最後の計画は阻止出来ました」


 だから騎士達に倒させないようにと俺に言ったのか。


「そ、それでは、メルビアの中にいる魔族か魔族の内通者はどのように見つければいいのでしょうか」


 ティアが怯えた表情でマグナスさんに話す。それもそうだ。いつも話している重臣の中に、裏切り者や魔族がいると知ったら気が気じゃないだろう。


「それでなんだけどみんなはこれからどうするんだい?」


 マグナスさんは俺達全員に視線を向け、問いかけてきた。


 少なくとも俺はルーンフォレストに戻るつもりはない。だが皆は仕事であったり、家族であったりとそう簡単にルーンフォレストを捨てることができないだろう。


 そんな中エリスさんが口を開く。


「私とダリアは既にルーンフォレスト王国の騎士団から抜けているため、問題はありません。先程ディレイト王より、メルビアの騎士団に入隊してくれとお話も頂きましたし」

「私も元々メルビア王国で暮らしていたから大丈夫よ⋯⋯あんな王がいる国に戻りたくないわ」


 ラナさんはメルビア出身なのか。それなら問題ないかな。


「私は、ヒイロくんに着いていくと決めているので⋯⋯」

「私もリアナさんにあんな事をする国にはいたくありませんが、お母さんに聞いてみないと⋯⋯」


 ルーナもマーサちゃんもがルーンフォレストに住んでいるから、そのことが気がかりのようだ。


「私は⋯⋯」


 リアナが言葉に詰まる。おそらくルーンフォレストには両親がいる、だが王国には裏切られた。そしてもしメルビアに身を寄せれば、ランフォースが攻めてくるかもしれないため、頭の中で葛藤があり、答えることができないのだろう。


「ディレイト王⋯⋯リアナはメルビアにいてもよろしいでしょうか」


 リアナをここに置くということは、プラスの面もあるし、マイナスの面もある。それを王はどう判断するのか⋯⋯。


「もし置いて頂けないのでしたら、俺も⋯⋯」


 メルビアから出ていく。リアナ1人だけにはさせない。


「ヒイロちゃん⋯⋯」


 リアナは俺の答えに安心したのか、目に光る物が見え、ゴシゴシと手で拭き取っている。


「見くびられたものだな。私が⋯⋯親友の息子の友人を見捨てると思っているのか。それに今回のルーンフォレストのやり方⋯⋯人としてとても賛同できるものではない」

「お父様⋯⋯素敵です」


 ディレイト王の覚悟を見て、ティアが感嘆な声を上げる。


「「ありがとうございます」」


 良かった⋯⋯ディレイト王ならランフォースみたいに横暴なことはしないだろう。それにルーンフォレストと違ってメルビアは、貴族第一主義の国ではないので、悪いことをしたら貴族だろうが罰則があるから今より暮らしやすいと思う。


「それなら皆にというかラナにお願いがある」

「私に⋯⋯ですか」

「ルドルフと2人で、国の中枢に潜り込んでいる魔族を特定する方法を探していたんだが、王立図書館でその手段が遂にわかった」

「どんな方法ですか⁉️」


 マグナスさんの言ったことが本当なら、魔族が誰か暴いてランフォースを糾弾することができるかもしれない。


「それは隠蔽されたものを暴く魔道具⋯⋯【グリトニルの眼鏡】」

「その魔道具はどこに?」


 少し言葉を溜めて、絞り出すようにマグナスさんは言葉を紡ぐ。


「⋯⋯以前ラナが住んでいた⋯⋯セルグ村だ」


 このマグナスさんの言葉によって、目標を見失いつつあった俺達の新しい冒険への扉が開き初めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る