第116話 グレイVSベイル

 カイルが横一閃になぎ払ってきたので、俺は身を屈め、スレスレの所でかわす。そしてカイルの剣を狙って下から上に斬り払うと、ガッ! という強い音とと共に、カイルの剣は上空へと高く舞い上がる。


「なに⁉️」


 まさかFクラスに自分の攻撃が簡単にかわされ、しかも剣を振り払われるとは微塵にも思わなかったため、カイルは思わず声が出てしまう。


 俺は隙だらけになった首元に剣を軽く当てる。


「そこまで」


 ネネ先生の終了の合図で、1戦目はFクラスの勝利となった。


「ヒイロすげえ!」

「よくやったぞ」

「ヒイロくん素敵です」


 ヒイロの勝利に沸くFクラスとは対象に、カイルの敗北で沈むEクラス。


「カイルが負けるなんて」

「ダードが試験官じゃなければ、Aクラスにいてもおかしくない奴だぞ」


 えっ? そうなの?

 やばい。少しやり過ぎたかもしれない。

 ベイルのことで俺もちょっと気が立って、絶対に負けたくないという気持ちがあり、力を出しすぎたか。


「ヒイロくん強いね。ベイルが言っていた情報とは大違いだ」


 カイルがこちらに近づき、右手を差し出してきたので、俺はその手を握る。


「小さい頃から剣を振っていたから、実技は得意なんだ」

「そうなんだ⋯⋯けど君と戦えて良かったよ」

「どうしてだ?」

「Eクラスに入れられて、慢心していたってことに気づいた。このクラスなら誰にも負けない。自分の実力はAクラスが相応しいと⋯⋯でも君に負けて、EクラスはおろかFクラスにも僕より実力がある人がいるとわかったから、今日から心を入れ換えてまた頑張るよ」

「カイル⋯⋯」

「また、僕と戦ってくれるかい?」

「ああ」


 カイルはさわやかにそう言って立ち去っていった。

 なんだか、手を抜いて戦ったのが申し訳なくなってきたぞ。

 次に対戦した時は死なない程度に本気を出そう。


「情けねえなあカイル。Fクラスのしかも雑魚ヒイロに負けるなんて」


 ベイルが負けたカイルと俺に対して暴言をはく。


「これでクラストップの座は俺のものだ」

「別にヒイロくんに負けたことを恥だと思わないさ。君はFクラスだからといって油断しないように」

「油断? 油断したとしても俺があんな奴に負けるかよ」


 そうセリフを残して、中央で待つグレイの元へ向かう。


 ベイルは剣を、グレイは短剣を選ぶ。


「そんな物で、俺の剣を受けられると思ってるのか」

「やってみなきゃわからないだろ」

「やってみなきゃ? 遊び人ごときが俺に勝てると思っているのか! これはお笑いだな」

「笑えるのも今のうちだぜ。お前みたいに、横暴な奴には絶対に負けねえ」


 グレイとベイルの間に火花が飛び散る。

 普通に考えれば遊び人のグレイが戦士のベイルに勝てるはずがないのだが⋯⋯。


「それでは⋯⋯はじめ!」


 ベイルは開始と同時にけりをつけたいのか、ダッシュでグレイに詰め寄り、そして上段から叫びながら斬りつけてくる。


「死ねぇぇぇ!」


 死ねってお前、これは模擬戦だぞ。

 しかも声を上げて斬りかかるなんて、攻撃するぞって教えているようなものだ。

 そして案の定グレイはヒラリと剣をかわし、短剣をベイルの腹におもいっきり⋯⋯おもいっきり? 突きつける。


「ぐわぁ!」


 そして勢いよく10メートルほど吹き飛ばされると、ベイルはピクリとも動かなくなった。


「しょ、勝者グレイくん。今の結果を踏まえてFクラスの勝ちとします」


 普通ならここで歓声が上がる所だが、グレイの圧倒的強さに皆、唖然としている。

 まあこうなるよな。ベイルのステータスはグレイの半分もないため、全力を出したら勝つのは必然だ。


「つ、つええ」

「本当に遊び人の紋章なのか」

「グ、グレイくんすごいです」


 静寂の後、一斉にクラスメート達が騒ぎはじめる。

 グレイは手を上げ、皆の声援に答えていが、どこか一点の方向をよく見ている気がする。

 あの方向には⋯⋯えっ? まさかグレイはあの娘が気になっているのか!

 しかしそのことを考える暇もなく、動かなくなったベイルがゆっくりと立ち上がり言葉を発する。


「こ、この俺様が負けた⋯⋯だと⋯⋯」


 Eクラスの1人が、ベイルに向かって回復魔法を唱えたおかげで、どうやら立つことができたようだ。


「ふ、ふざけるな! もう1度やらせろ!」


 ベイルよ。お前は戦場で殺されかけた時も、もう一度やらせろって言うのか? 見苦しいにもほどがあるぞ。


「もう勝負は着きました。再戦はありません」


 ネネ先生は毅然とした態度で、ベイルの申し出を断る。


「だったらヒイロとやらせろ! あいつになら俺は100%勝てる!」


 その我が儘な提案に、この場にいる全員が白けた目でベイルを見る。


「もうFクラスが2回勝ったから勝負はついているだろ」

「さっきのカイルとの戦い見てないのか? お前は勝てねえだろ」

「ベイルくんってほんと自分勝手だよね」


 FクラスはおろかEクラスの人達もベイルを蔑んだ目で見ている。


「黙れくそども! てめえらには聞いてねえ! どうするヒイロ? 逃げるのか? やはりお前はリアナの後ろに隠れている腰巾着か?」


 逃げる? 俺が? しかもよりによってリアナの名前まで出して――。

 ベイルとは付き合いが長いが、いつもこいつの言動に振り回されてきた。

 もう正直うんざりだ。ここらで全てを清算させてもらう。


「いいぞ。その挑戦受けてやる」

「へっ! なら早く来やがれ。お前が地べたに這いつくばる姿をここにいる全員に拝ませてやるんだからよお」


 こっちはお前の頼みを聞いてやったのにその態度。ここで勝ってお前の性根を叩き直してやる!


「そろそろ授業が始まりますから、これで最後です。いいですね?」

「はい!」

「ああ」


 俺は再度校庭の中央に立ち、ベイルと向き合う。


「ヒイロ、絶対負けるなよ!」

「頑張ってください」

「Fクラスの力を見せてやれ」


 クラスメート達の応援が耳に入る。大丈夫⋯⋯俺は絶対に負けない。

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