第50話 相性悪い?

「ヒイロちゃんヒイロちゃんヒイロちゃん!」


 リアナがまるで子犬のようにすり寄ってくる。


「すーはーすーはー、ヒイロちゃんの匂い。夢じゃないんだね」

「やめい!」


 俺は城壁の上に着地し、くんかくんかしてくるリアナの脳天に向かってチョップを食らわす。


「いった~い。でも痛いってことはこれは現実だよね。けどどうしてヒイロちゃんがここにいるの?」


 リアナからするとなんでここに俺がいるか理解できないのだろう。


「日記を読んだからな」

「に、日記! まさか私の日記を読んだの!」

「おばさんから、イテッ! やめろリアナ」


 俺の言葉が言い終わる前に、リアナがポカポカと俺の頭を叩いてきた。


「私の個人情報を見るなんて酷いよヒイロちゃん! エッチ! ばか! 信じらんない!」

「俺だって見たくて見たんじゃない。おばさんが読めっていうから――」

「誰かが見ていいって言えば、私もヒイロちゃんの日記を見てもいいの!」

「そ、それは⋯⋯」


 確かに親が読んでいいと言ったからといって、中を見ていいものじゃないな。


 リアナはぶつぶつと「変なこと書いてないよね?私の気持ちとか書いてないよね、ね」独り言を言っている。


「もう最低! ヒイロちゃんなんか知らない!」


 そう言って、フンッと明後日の方を見てしまう。

 久しぶりの再会だっていうのに、最悪の出会いになっちゃったな。


「でも⋯⋯」


 リアナが不意に呟く。


「私の一生のお願いを聞いてくれてありがとう」


 照れながらお礼を言ってくれた。


 俺とリアナの中に心地よい懐かしい空気が漂ったが、突然終わりを告げる。


「お二人共今は戦闘中ですよ」


 背後から少しムッとした顔のルーナが現れた。


「ヒイロちゃんこの方は?」

「王都に向かう途中で出会って、ここまで一緒にきたルーナだ」

「初めましてリアナさん。ヒイロくんとで旅をしてきたルーナと申します」

「二人っきり?」

「そうです。二人っきりです」


 俺を挟んでリアナとルーナの視線が交錯する。

 なんだこの場の雰囲気は。二人とも優しく、他人のことを考えられるから相性は抜群だと思っていたが、そんな空気はまるっきり感じられない。


「ヒイロくん、とりあえずだろうからお姫様抱っこをしているリアナさんを下ろしてあげたらどうかな」


 何か今重いを強調していなかったか? 女性に向かって重いとか体重の話は厳禁だということは、女心に疎い俺でもわかる。


「わ、私は重くないよ! あなたこそ身体の一部が出ているからとても重そうに見えるけど」


 リアナが言った身体の一部とは胸のことだろう。ルーナは身長が低い割には出ているところが出てる。

 それに比べてリアナは⋯⋯。


「重そうですみませんね。リアナさんはとても軽そうで羨ましいです。洋服のサイズが合わなくて着たい服が着れなかったり、肩がこる悩みも無さそうで、そのスタイル憧れちゃうなあ」


「きぃ!」


 リアナが口惜しそうな顔をする。


 2人とも今どこにいるかわかっているのか? 戦場にいるんだぞ。いがみ合っている場合じゃないだろ。俺はリアナとルーナに今の状況をわからせるため、ガツンと言葉を発する。


「と、とりあえず2人仲良くしようか。今は戦いの最中だから油断すると危ないよ」


 無理だ。2人ともいつもと雰囲気が違い過ぎるから怖くてガツンと言えないよ。


「「今大事な話をしているの!」」

「ヒイロちゃんは黙っていて!」

「ヒイロくんは静かにして下さい」


 リアナとルーナの言葉が重なる。

 なんだよ。やっぱり仲が良さそうじゃん。


 しかし2人はさらにヒートアップして、話が終わらなそうだ。

 時間があればこのまま2人の好きにさせるのもありだけど、下にいる魔族が、操っている人達を率いて何かやろうとしているので、俺は強行手段にでる。


「【鎮静回復魔法カームヒール】」


 リアナとルーナを落ち着かせるため、鎮静作用がある魔法をかける。

 2人は光に包まれ、リラックスした表情を浮かべている?


「何? ヒイロちゃん。邪魔しないでって言ってるでしょ」

「ヒイロくん、今は大切なお話をしているので後にして下さい」


 魔法が効いてない⋯⋯だと⋯⋯。

 2人は魔法を上回るほど怒っているのか、それとも冷静になってもやめる事案じゃないということか。

 そしてまた言い合いが始まる。

 こんなったらもう2人の良心にかけるしかない。


「リアナ! 城壁の上でラーカス村に来ていた騎士が倒れていて、お前の名前を呼んでいたぞ」

「えっ! エリスさんとダリアさんは無事なの!」

「気絶しているけど回復魔法をかけておいたから、問題ないはずだ」

「あ、ありがとうヒイロちゃん⋯⋯」


 リアナはウルウルとした瞳で、俺に感謝の言葉を言う。


「ルーナ! 下にマーサちゃんがいるから急いで助けるぞ」

「は、はい! そうだ私ったらつい我を忘れてしまいました。ヒイロくん申し訳ありません」


 2人は俺の言葉で今の状況を理解してくれたようだ。

 早く下に降りて魔族を倒し、東門を閉めないと、いつ魔物が街の中に侵入するかわからない。


「まってヒイロちゃん! 私あのエリザベートという魔族に腕輪をはめられてしまったの⋯⋯」

「それだったらもう解いてある」

「えっ?」


 リアナは腕に着いているブレスレットを外してみせる。


「本当だ。さすがヒイロちゃん! 失った力も戻ったんだね」


 名前の通り呪いのアイテムだから、城壁に着地した時に解呪魔法で無力化をしておいた。


「良かったよ⋯⋯本当に良かったよ⋯⋯」


 リアナは顔をくしゃくしゃにし、涙を流して喜ぶ。

 どうやら自分の呪いが解けたことより、俺に力が戻ったことが嬉しかったようだ。


「さあここから俺達の反撃の時間だ」

「「うん」」


「【浮揚魔法レビテーション】」


 俺は2人の手を取り、城壁の下へと向かった。


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