第17話
その後、騎士学校へ戻った僕らは学長へ赴きもろもろ報告することになった。
5層の結界を突破したこと。
バジリスクが出現したが、無事倒したこと。
魔剣を持ち帰ったこと。
そして、レーナが
魔剣に関しては、学校の遺跡から持ってきた物なので、学長に渡すべきだと思い渋々渡そうとしたのだが、学長でも持ち上げることはできても武器として振り回すのには厳しいということで僕が持つことを認めてもらえた。
しかし、
ちなみに、生身では重くて持ち上げることすら困難なのだが、鞘に納めた状態なら普通の刀のように帯刀することができる。刀身が長すぎるので腰ではなく背中で背負う形になってしまうが。
また、新たに出現した6層は、正規の騎士が集い探索したのだが、広い空間があるのみで特にこれといった物は何もなかったそうだ。単にバジリスクを閉じ込めていただけだったのかもしれない。それを僕らが結界と一緒に開けてしまったっということだろう。
学長への報告を終えた僕らは寮に戻るとそれぞれ自室で休むことにした。
現実では特に何もなく、翌日の異世界。
僕とウォーレスさんは、学長が手配した馬車に乗り騎士本部に向かっていた。
対面には気難しい顔をしながら僕らを睨む学長が座っている。
正直怖い。
何が怖いかって、顔や態度はもちろんだが、
そんな学長が僕らに話しかけてくる。
「これから騎士本部に行く理由だが……ジノ・シューヴァル、どうやら騎士本部は君を騎士に推薦したいらしい」
「僕をですか?どうしてです?」
ウォーレスさんは以前、自分は騎士になることが決まっているっと言っていたが、貴族でなくても推薦ってもらえるものなのだろうか?
そんな僕の疑問にウォーレスさんが背景の説明をしてくれた。
2大勢力として騎士とギルドが存在する。
騎士試験を突破する優秀な人材が騎士となり、あぶれた者がギルドに所属する構図になっている。
そのため、騎士の方が戦力としては上だった。
【
その2つのギルドには騎士全員が束になっても勝てないと言われている。
その証明として、【
騎士にも
そんな中、騎士学校在校生の1人が
おまけに、魔物化した
なにやら絶賛されているようだが、いまいち実感が湧かない。
そんな話を聞いている内に騎士本部に到着した。
学校よりも大きな建物で壁の質を見ただけでも立派な物だとわかる。
国営だけあって、税金がすごい使われていそうだ。
そのまま僕と学長は建物内にある客間に通された。
ウォーレスさんは挨拶に行くと言って、今は別行動を取っている。
通された客間はとても豪華で、高そうな絨毯が敷かれ、暖炉が設置されている。
学長曰く、ここは貴族や王族を招く際にも使われている部屋なのだそうだ。
VIP待遇を受けている気分だが、広すぎて落ち着けない。
そんなことを思っていると、ドアにノックがされ4人が部屋に入ってくる。
内の1人はウォーレスさんだ。わざわざ着替えてきたのか、学校で支給されるのよりも立派な鎧を装備している。その隣にはウォーレスさんと同じ鎧を装備した男性が立ち、最後に軽装だが見ただけでこの場の重役だとわかる男性2人が僕らの対面に座った。
「初めまして。私はリオン・スノッドグレス、ここの騎士団長を任されている」
「私はブラッドリーといいます。人事を担当しております」
そんな2人にこちらも軽く挨拶をした。
「……スノッドグレス?」
「俺の弟だ」
僕の疑問に隣に座る学長が答えてくれた。兄弟と言われ2人を交互に観察する。
学長は強面筋肉ダルマなのに対して、リオンさんは出来るインテリ系の見た目をしている。
「え?全然似てな――」
正直な感想を言おうとしたのだが、最後まで言い切る前に学長から拳骨が振ってきた。コミカルなたんこぶが頭にできるが、
「これで、こいつが
学長がしたり顔で僕を見下ろす。
この脳筋が。また暴力で人の体を試してくれたな。
恨み辛みはあるが、権力に逆らえない僕はせめてもの抵抗として学長をジト目で睨む。
そんなやり取り見たリオンさんは笑いながら、
「確かに、僕は兄貴と違って腕力には自身がないからね。団長というのも肩書だけで、実力はそこにいるキールがトップだよ」
「滅相もないです」
ウォーレスさんの隣に立っている騎士がキールという者だろう。背筋を伸ばし上官に
ただ、僕やウォーレスさんには先ほどから気に食わないと言った目で見ているのは気のせいだろうか。あの人を見下すような目付きに既視感を覚えてしまうのも気のせいであってほしい。
それから少し世間話を続けたところで、リオンさんが話を切り出してきた。
「ジノ・シューヴァル君。単刀直入に言うが、君を騎士に推薦したい」
ブラッドリーさんが1枚の書類をテーブルに置く。
どうやら契約書のようで、雇用条件が羅列されている。難しい言葉ばかりでわからないところが多いが、やはり給与や昇進といった面は好待遇のようだ。
僕は書類を一読しテーブルに置くと頭を下げた。
無論、断るためだ。
「この話ですが、お断りさせていただきます」
「……理由を聞かせてもらっても?」
断られるとは思っていなかったのか、リオンさんは少し驚いた表情を見せ理由を尋ねてくる。
僕は、レーナを
ちなみに、遺跡にあった石版を勝手に使ったことは許してもらえた。
人命に関わっていたことと、そもそも結界を突破したのは僕だったからだ。僕が好きに使うのが道理だと言ってくれた。
その後も話を続ける。
「騎士になると待遇はいいと聞きましたが、ギルドに所属している人のように自由に冒険ができないと聞きました」
「騎士は国を、国民を守るための組織だからね。与えられた場所で勤務してもらわなければ、組織が機能しなくなってしまう」
「はい。僕はこの兄妹を再会させると決意しました。そのためにも、
そう。
それは、
王都に着いてから現実世界の怪我で引き籠っていた2週間。
レーナとココに協力してもらい、
そもそも僕らは
しかし、元に戻る方法に関しては、どちらも有力な手がかりはなかった。
そこで、第1の案として、機会があれば学問の町に行ってみようと考えていた。
その町は文字通り学問が盛んな町で、国一番の図書館や研究施設が多く存在するらしい。
そこはココの出身地でもあるらしかった。
そして、第2の案は、僕が知っている中で
ココも詳しい方だが、個人的にはネルだと思っている。
今思えば、ココが知らなかった自動で治癒する体質や、ウォーレスさんが知らなかった身体強化について教えてもらった。
ネルはまだ僕らの知らない情報を知っているような気がする。
そんな僕の話を聞いたリオンさんは、残念そうにそうかと呟くと、
「君は貴族ではないし、強制できるものではない。仕方ないが引き下がるとするよ」
穏便に話が終わりそうで一安心する。こういう場合って何かしらこじつけされるかもと思ったが杞憂で終わりそうだ。
……終わりそうだったのだが、ブラッドリーさんが待ったを掛ける。
「リオンさん、お待ちください。確かに強制力はないですが、騎士として戦力増強を急いているのも事実。それに、もしジノ君の実力がここにいるキールより劣っているようならば、旅に出たところで犬死になるのは目に見えています。それならば、ここで騎士となり
なんかそれらしいことを言っているが、要は引き込む気満々ってことのようだ。
ただ、リオンさんの真意としては違うのか、頭を悩ませている様子。
それならば……、
「キールさんより強ければ文句はないですね?」
流れでキールと決闘することになってしまったため、訓練場に案内される。
訓練場というだけあって広い空間になっており、まるで闘技場を連想させた。
キールは僕から少し離れた位置に立つと、こちらに向き腰に据えた剣を抜く。
「お前のことは見たときから気に食わなかった」
……身に覚えが全くないのですが。
僕が動揺する中、リオンさんが開始の合図を鳴らす。
開始早々キールは剣で地面を砕くと、自分の剣に砕いた地面の破片を集め出した。やがてそれは小山程度なら両断できそうなほど巨大な物への変貌していく。
「
キールはその岩嶃剣を横なぎで振り切ってきた。
避けるためには上しかない。
僕は身体強化を使い真上に飛躍する。
「そう、上に逃げるしかないよなぁ。だが、空中で避ける術はあるまい。これで終わりだああああ」
その動きを読んでいたであろうキールが、僕に目掛け岩嶃剣を振り下ろした。
圧倒的な質量が僕目掛けて落下してくる。
キールの言う通りで空中では回避する術はない。
僕は右腕を開放すると、その質量任せの攻撃を受け止めてみせた。
まさか受け止められるとは思っていなかったのかキールの口から、は?っと間抜けな声が漏れる。
この程度、ネルの攻撃と比べたらどうってことはない。
ネルの方が、早く、鋭く、そして重かった。
僕は岩嶃剣の刀身を足場に地面に向かって跳躍でキールの懐まで急降下すると、その無防備な腹部に右のボディブローを叩き込んだ。
キールの体がくの字に折れ、肺に溜まっていた空気が全て吐き出される。
「ば……、バカな……」
キールは腹部を抑えながら悶絶すると、その場に崩れ落ちた。
同時にキールの手から離れた剣が元の状態に戻る。
これなら身体強化を覚えたウォーレスさんの方が強いのではないだろうか。
騎士の
僕を引き込もうとするのにも納得がいく。
それに、自覚はなかったが僕は
リオンさんが決闘の終了を告げると、キールは地面に伏した状態で僕のことを睨み付けてくる。
「くそっ、くそっ、俺はもうすぐ英雄になる身だというのに……」
ん?英雄が何かって言ったか?
そんなキールを背に僕らは訓練場を後にしようとした。
キールには聞こえないようにウォーレスさんが話しかけてくる。
「流石だな。あの人、コールの兄さんってこともあって苦手だったからスカッとしたよ」
「コールって、この前学校で会った公爵家の面倒そうなやつのこと?」
「ああ。そうだよ」
あの人を見下すような目付き、どこかで見たことあると思ってたらコールだったのか。
そんなことを思っているとブラッドリーさんが話しかけてきた。
「いやはや、お強いのですね。まさかコールがあんなあっさりと負けてしまうだなんて。先ほどの動きは実に素晴らしかったです。あれがあなたの能力なのですか?」
手をパンパンと軽く叩きながら賞賛している態度を見せる。
「いえ、あれは身体強化ってやつでして」
「ほう、身体強化ですか」
つい先ほどまで温和そうだったブラッドリーさんが、一瞬だけ僕に鋭い眼光を向ける。
気付けば全身に鳥肌が立っていた。額からはじんわりとした汗が垂れ始める。
「っということはやはり、ネルとの関係は本当だったようだ。……残念です。
ブラッドリーさんは、それだけ言うと僕らに背を向け去って行った。
コールもブラッドリーさんも、何やら気になることを言っていたが、学長に行くぞと呼ばれたので、僕らはそのまま騎士本部を後にしたのだった。
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