第83話息子くんと明け方の散歩

 夜泣きが比較的多かった時期を過ぎると息子くんは寝付いたら朝まで何がなんでも起きなくなりました。あの夜泣きが何だったんだと思うぐらいに、寝てしまうと朝まで起きない。寝相は良くなかったので時々手加減のないキックや頭突きを食らうことも屡々ありました。

 そんな息子くん、小学校に上がってからも変わることは無かったのですが、ひょんなことで明け方に目が覚めたらしく、別の部屋に居たママの様子を扉を静かに開きながら覗いてました。

 当然最初は気づかなかったママでしたがパソコンが一瞬暗くなったところで薄ら顔が映り込みママがビクッと肩を震わせると息子くんのクスクスとした笑い声が。

 暫くするとママの居る部屋に入ってきてママの背後でモジモジ。

 「なんかめっちゃお腹空いた」と、窓の外はまだ暗く時間を確認するとまだ四時過ぎ。しかし、朝はパンな我が家、生憎と前日に食パンを買い損ねて朝買いに行く予定だったため、朝ごはんはない。朝ごはんの時間まで待てそうにない息子くんに「じゃあ今から買いに行こうか」と聞くと息子くん窓の外を見て「まだ夜だけど大丈夫なん」と何やら面白いことを言い出しました。

 「直におひさま昇るし、ちょっと行こうか」とパーカーを取り出し息子くんに着せるとママも玄関の鍵と財布を手にまだ明けやらぬ空の下へと足を踏み出しました。

 小さな靴音まで響くような静まり返った暗い朝の外廊下から階段を降りながら「まだ皆寝てる時間だから静かにね」と声をかけるとコソコソ声で「分かった」の返事。いつもより慎重に降りた階段を抜け道路に出ると、薄い紺色の空にまだ月が見える。

 冷えた空気を吸いながら歩く短い道のりはいつもの見知った景色と違うらしく息子くんずっとキョロキョロ、そしてママに遅れないようにと時々小走り。

 コンビニエンスストアの灯りが煌々と見えてくると息子くんがホッとしたのを感じました。

 コンビニエンスストアで朝ごはんのパンと玉子を買い、折角なのでいつもは朝ごはんに買わないジュースを買ってコンビニエンスストアを出る頃には空は薄く明るくなり始めていました。

 息子くんの小さな冒険は帰宅するまで続き、その日は朝から元気に学校へ向かいました。

 ただ、早起きしすぎたせいで午後から眠気が凄かったらしく下校して直ぐに昼寝してましたけど、楽しかったんだろうなと時々あの暗い廊下で息を潜めていた息子くんを思い出します。

 

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