第8話ー③ 正義の味方
――校舎裏にて。
「あれだよ!」
水蓮が裕行に言われた方を見ると、そこには2人の男子生徒が向かい合って、お互いを睨んでいた。
「お前が悪いだろ!! 俺の悪口を言って回ってるって噂は知ってんだ!!」
学園指定制服(スクールシャツに紺色のスラックス)を着用した、体格はそこそこにがっちりとしている高校生くらいの少年がそう言った。
「だからしてないって言ってるだろ! 君は僕よりもその噂を流した奴を信じるのかよ!!」
同じく学園指定制服を着用している、眼鏡をかけた中肉中背の男子生徒がそう言った。
「はあ? やんのか、コラ!!」
「今日こそ、決着をつけないといけないみたいだね!!」
そう言ってからその2人はお互いに距離を取る。
「一体、どうするつもりなのかな……」
裕行は肩を震わせながらそう呟いた。
その後の沈黙が少し不穏に思う水蓮。
もしかして2人とも、能力を使おうとしているんじゃ……そうだとしたら、止めないと――!
男子生徒たちが動きだそうとした時、水蓮は咄嗟に『石化』を発動する。
「な、なんだあ!?」
「あ、足が!!」
そう言って急に動かなくなった足を見つめ、男子生徒たちは狼狽していた。
「喧嘩はダメです!!」
水蓮はそう言って男子生徒たちの前に姿を現した。
「何だよ、お前は!!」
がっちりとした体格の方の男子生徒がそう言って水蓮を睨みつける。
年長者を相手に一瞬怯む水蓮だったが、唇をキュッと結んで男子生徒たちの前まで歩み寄った。
「ここでの喧嘩はダメです! 怖がる子もいるし、困る人たちだっている。だから――」
「ちっ……もとはと言えば、お前がなあ!」
「何言っているんだよ! そう言う君だって!!」
そう言って男子生徒たちは再び互いの顔を睨みあう。
どうしたらこの喧嘩を止められる? いつものようにお父さんになんとかしてもらうわけには――
「ああ、もう!! 口喧嘩は構わないけれど、校内で不用意に能力の使用は認められていないはずですよ!!」
困った水蓮は、つい感情的にそう言っていた。
「お前にだけは言われたくねえ!!」
「同感ですっ!!」
「そ、そうですけど……」
男子生徒たちにとがめられ、口ごもる水蓮。
「と、とりあえず、今は仲直りをしてください! 喧嘩はダメなんです!!」
「ふんっ!」「誰がこんな奴と」
何とかできるかもしれないこの状況で、私が引くことはできない。お父さんがいつもそうしているように、私もこの学園を守りたいから――
「2人が仲直りするまで、『石化』は解きませんからね!!」
変な意地を張った水蓮は、男子生徒たちからそっぽを向いてそう言った。
「はあ!?」「武力行使、反対!!」
聞こえてくるその罵声に、水蓮は応じないままだった。
「水蓮ちゃん、さすがにそれはまずいんじゃ……先生たちにばれたら、水蓮ちゃんが怒られちゃうかもしれないよ?」
裕行はそう言いながら、顔を青くする。
「え、でも……私は悪いことはしていないよ? この2人が悪いのに」
「この状況を見たら、この子たちより水蓮ちゃんが2人に意地悪をしているように見えるかもしれない」
「そんな……」
正しいことをしているだけなのに。お父さんが創ったこの学園を守りたいだけなんだけどな――
そう思いながら、肩を落とす水蓮。
それから水蓮は男子生徒たちにかけていた『石化』を解除した。
「ふんっ」「ちっ……」
男子生徒たちは不快感を表しながらそう呟き、それぞれ別々の方へ向かっていった。
「ごめんね。僕が助けてなんて大げさなことを言ったからだよね」
裕行は申し訳なさそうにそう言った。
「ううん。裕行君はあの2人の喧嘩が大ごとになる前に助けを求めてくれた。だから裕行君は正しい。間違っていたのは、私だよ」
何とかできたかもしれないのに、私は何もできなかった。どれだけその姿を目にしていても、やっぱりお父さんのような『
水蓮は自分の不甲斐なさに、ひどく落胆していた。
「水蓮ちゃんだって間違ってはないよ! 水蓮ちゃんが止めなかったら、2人共能力を使って、どうなっていたか――だから水蓮ちゃんも間違ってない」
裕行が慰めようと言ってくれたその言葉を水蓮は素直に受け入れられなかった。
「――ありがとう、裕行君」
水蓮は裕行を困らせないようにと、そう言って笑顔を作る。
「うん! じゃあ、僕はこれで帰るね。汗でべとべとなのが気になるから」
ははは、と笑ってそう言う裕行。
「相変わらず、潔癖なんだね」
水蓮はそう言って苦笑いをしていた。
「ははは~じゃあ、また明日!」
「うん、またね!!」
水蓮は裕行を見送り、その後は講義を途中から受けるために教室へと向かって歩きだした。
間違っていない、か。でもそれは正しいってことではないんだよね――
「私の正義って、どこにあるのかな」
お父さんの守りたい場所を守りたいと私も思った。それが救ってもらった恩返しになるような気がしたから。そして私なりの正義を実行したつもりだったのに――
自分の行動は、あの場にいた男子生徒たちの火に油を注いていただけだったのかもしれないな――と反省する水蓮。
「間違った行為を正すことだけが正義ってわけじゃないんだよね。そんなこと、わかっていると思っていたんだけどな……はあ」
水蓮がため息を吐きながら歩いていると、その正面から担任教師の
「水蓮さん。ちょっとお話いい?」
長瀬川は笑顔で水蓮にそう言った。
この笑顔は……さっきの出来事を知ったうえで、私に声をかけているんだろうな――
今回のことがお父さんに知られてしまうかもしれない、と水蓮は肩を落とす。
「はい、大丈夫です」
それから水蓮は長瀬川に連れられ、職員室へと向かったのだった。
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