第2話ー① 約束のブレスレット

 7月初旬――。


 マリアはキリヤへとある相談をしていた。


『ダメだよ、マリア! マリアがコンビニ店員!? 危ない!! 危なすぎるからっ!』


 電話越しで声を荒げてそう言うキリヤ。


 マリアはそんなキリヤに不満な表情をして、


「ちょっとキリヤ、大げさすぎ。どこが危ないの?」


 と尋ねた。


『だってコンビニって、よく強盗事件とかあるでしょ? もしもマリアが巻き込まれたりしたら――だから絶対にダメ!!』


 強盗事件って……そんなの頻繁に起こるものじゃないことくらい、キリヤだって知ってるくせに――


「お母さんもお父さんもいいよって言ってる。なんでキリヤだけ反対するの!」

『なんでって……マリアが心配だからに決まってるでしょ!! ダメ、絶対!!』


 働いているキリヤなら何かいいアドバイスをくれるかと思い、アルバイトの相談をしたマリアだったが、アドバイスどころか猛反対されて困り果てていた。


 一度こうだって言ったら、キリヤは動かない。どうしよう――


『別にマリアがバイトしなくても、僕が実家にお金を送るよ! だからマリアはちゃんと勉強しないと!』

「私、お金が欲しくてバイトをしたいわけじゃない」


 マリアはそう断言した。


『え? じゃあ、なんでバイト?』

「社会勉強をしたいの。何も知らないまま、大人になりたくないから」

『マリアの気持ちはわかるよ。でも――』


 キリヤはどうしても私にバイトをさせたくないんだ。でも、ここで引き下がるわけにはいかない。私だって成長したいから――


「キリヤは仕事を始める前に、社会勉強しておけばよかったって思ったことはないの?」


 マリアが語気を強めてそう言うと、


『ま、まあ。たくさんあるけどさ』


 キリヤはもごもごとそう言った。


「ほら!」

『でも、コンビニはダメ!』

「もう……」


 そう言ってため息をつくマリア。


 そういえば、キリヤのいる研究所には白銀さんがいたっけ――



「ねえ、キリヤ。キリヤが納得のいくところなら、バイトしてもいい?」


『もちろんだよ! マリアが安心して働けて、勉強の妨げにならないようなところならね!!』


「そう。じゃあ、お願いがあるんだけど――」


『?』



 それから数日後、マリアは夏休みを迎えたのだった。




 ――研究所にて。


「白銀さん、今回はありがとうございます」


 マリアはそう言って頭を下げる。


 夏休みになったマリアは、研究所でアルバイトと言う名の職場体験に来ていた。


「いやいや。こちらこそありがとう! 人手不足だったから、助かるよ」


 そう言って微笑むゆめか。


「ありがとうございます」


 マリアもそう言って微笑んだ。


「じゃあさっそくやってほしいことがあるから、中で説明するよ」

「は、はい!」


 それからマリアは研究所の中へと入っていったのだった。




 ――研究所内、カフェにて。


 窓側の席で向き合って座るマリアとゆめか。


「――じゃあ、今日のスケジュールはこんな感じかな。質問はあるかい?」

「いえ。大丈夫です」

「ふふふ」


 マリアの顔を見て、急に笑い出すゆめか。


「な、何かおかしかったですか?」


 慌てながらそう言うマリア。


「ああ、ごめん。随分、表情が硬いなと思って」

「すみません……」

「責めたわけじゃないさ! これから一緒に行動するんだし、もう少し砕けた感じで話してくれればいいよ」


 そう言って微笑むゆめか。


「は、はい。なるべく、頑張ります」


 白銀さんはいつも優しくしてくれる。それはきっと私がキリヤの妹だからなんだろうな。粗相がないようにしないと、キリヤに迷惑がかかるよね――


「うん! じゃあ、行こうか」


 そう言ってゆめかは立ち上がる。


「はい!」


 そしてマリアはゆめかの後について歩いていったのだった。

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