第83話ー① 過去

 電車内――


 暁とキリヤ、優香、水蓮は電車に揺られて、神社に向かっていた。


『私もと言うのはどういう事だ、暁』


 そう言って不満を漏らすミケ。


「まあまあ。いいだろう? ちょっと気になることがあるんだよ」

『気になること?』


 それから暁は、神社で神主に言われてことを思い出す。



 * * *



「『猫』、ですか?」

「ええ。三谷さんのいる施設は、そう言う能力者が揃っているのだろう? そうだとしたら、『猫』の能力を持つ人間もいるんじゃないかと思ってね」


 そして暁は、共に暮らしているミケのことを思い出した。


 まさか、な。でも、もしかしたらってことはあるかもしれない――


「――もしもその『猫』を見つけたら、必ずここへ連れて行きます」

「ありがとう」


 そう言って神主は嬉しそうに笑った。



 * * *



「まあ、そういうわけだからさ――」

「ねえ、先生」


 キリヤはそう言って怪訝な目をして暁を見た。


「ん? なんだ、キリヤ」


 すごく変な目で見られている気がするな――


「あ、そうか。キリヤ君は知らないんでしたね」


 優香はぽんと手を打ってそう言った。


「え? そう言う優香は知っているの?」


 キリヤが首を傾げながら優香にそう尋ねると、


「ええ。バッグに入っているミケさん……その猫さんは『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の能力者なんです。先生や私と同じ『ゼンシンノウリョクシャ』で猫になってしまった、とか」


 優香は笑顔でそう答えた。


「なるほど」

「もう能力者じゃない私には声が聞こえませんが、『ゼンシンノウリョクシャ』同士だと、会話ができるんですよ」


 その言葉に「へえ」と感心して頷くキリヤ。


「あ、じゃあ先生は独り言じゃなくて、そのミケさんと話していたってことか」

「そうです! よね??」


 優香の笑顔の問いかけに、


「おう!」


 と笑いながら答える暁。


「なるほどなあ」

「だから、先生が寂しさを紛らわすために独り言を言っているわけではないのです」


 優香は意地悪な顔をして、そう言った。


 優香も奏多みたいなことをしてくれるな――!

 

「それ、馬鹿にしてないか?」

「そんなことないですよ~」


 そう言って楽しそうに笑う優香。


 そういえば、優香は能力が消失したって言っていたっけ――


「なあ優香。一度、暴走した能力者は二度と能力が消失しないってことだったけど……優香はどうして能力が?」


 暁が首を傾げながらそう問いかけると、


「ああ、それですか。私の中にいた蜘蛛が『もういいよ』って言って身体から出て行ったんですよ。そうしたら、能力も綺麗さっぱり!」


 微笑みながら優香はそう答えた。


「そうなのか……」


 じゃあ、俺の中にいる野獣ビーストももしかしたら、いつか――そんなことふと思う暁。


 野獣ビーストが俺に『もういい』とそう言ってくれる日は来るのだろうか――


「あれ。それじゃ、やっぱりキリヤは能力が消失しないってことにならないか?」


 キリヤの能力は『氷』と『植物』。自分と違い、意志を持たないものという事に暁は気が付いた。


「そうですね。私や先生と違って、キリヤ君の能力は体外へ排出できるものでもないですし……それに、先生だって『無効化』は永遠になくならないのでは?」

「あ、そっか」


 確かに俺は『獣化ビースト』がなくなっても、『無効化』の能力が残っていたな。まあそっちは大した力ってわけじゃないし、害になることはないだろう――


 そう思いながら頷く暁。


「僕のことは大丈夫だよ、先生! みんなで良い未来にするんでしょ?」


 キリヤはそう言って微笑んだ。


「ああ、そうだったな!」


 それから電車に揺られ、暁たちは神社に到着したのだった。




 ――神社にて。


「お待ちしておりました、三谷さん。キリヤ君たちも」


 笑顔で暁たちを迎える神主。


「その節はありがとうございました」


 そう言って頭を下げる暁。


「いえいえ! そういえば、今日は何の用で……?」

「ああ、はい。先日のお礼と、あとは――」


 そして暁はペット用のバッグに入ったミケを外に出した。


稜也りょうやか……?」


 神主はそう言って目を丸くする。


「それがミケさんの本当の名前、なんですか?」

「ミケ、か。あはは。猫だからミケって!」


 そう言って神主は笑った。


「だ、そうだが?」


 暁はミケの方を見て、そう言った。


『そこまで笑われるようなネーミングでもないような気がするんだが』

「あはは!」


 まあ、安直と言えば安直な名前だしな――!


「三谷さんは稜也と会話ができるんですね」

「あ、はい!」

「そうですか……」


 そう言って悲し気に笑う神主。


 自分はミケさんと当たり前のように会話ができるけれど、神主さんは違うんだよな――


「あの、会話しますか? 俺でよければ、稜也さんが何を言っているのかお伝えしますよ」

「そうだね……でも、今はいいよ。さあここで立ち話もなんだから、中へどうぞ」

「はい」


 そして暁たちは神主の後ろについて歩いた。


「先生、さっきの話って?」


 キリヤはそう言って暁の隣に来た。


「ミケさんはさ、猫になる前にここで暮らしていたんだよ」

「そう、なんだ!?」

「ああ。でも当てずっぽうだったんだけど、まあその当てずっぽうも功を奏したってことかな」


 暁がそう言ってニッと笑うと、


「そっか」


 キリヤは嬉しそうに微笑んだ。



「キリヤを探してこの神社に来たとき、急に行方不明になったミケさん――稜也さんをずっと探しているって話を聞いてな……もしかしたらと思って、ここへ連れてきたってわけだ」


「あ、そういえば。昔はにぎやかだったって神主さんも言っていたっけ」


「そうなんだな。じゃあやっぱり、連れてきて正解だったかもしれない」



 そう言って微笑む暁。


 そして暁たちは建物の中へ入っていった。


「じゃあゆっくりしていってください」

「ありがとうございます」


 それから客間を出て行く神主。


「ミケさん、ここにきてから何か思い出さないか?」

『うーん』

「思い出せないか……」

「ねえねえ、先生! お外で遊ぼうよ!!」


 水蓮はそう言いながら、暁の腕を掴む。


「ああ、でも外には何にもないぞ?」

「いいんです! ちょっとお外を見てみたいのです!!」


 目をキラキラと輝かせてそう言う水蓮。


 神社なんて滅多に来られない場所だから、水蓮は嬉しくなっちゃっているんだろうな――


「あはは。わかったよ」


 そう言って立ち上がる暁。


「キリヤたちはどうする?」


 暁がキリヤたちの方を見て聞くと、


「僕たちはここでゆっくりしているよ! 優香と話したいこともあるしね」

「そういうわけなので! いってらっしゃい」


 キリヤと優香は笑顔でそう言った。


「じゃあミケさんも行こう。2人の時間を邪魔したら悪いしな!」

『うむ、そうだな!!』


 そう言いながらミケさんは暁の方へ歩き出す。


「ちょっと!? もしかして、ミケさんまで!!? そういうわけじゃないからっ!」


 そう言って恥ずかしそうに頬を赤くするキリヤ。


「はいはい!」


 そして暁たちは客間を出て行ったのだった。

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