第82話ー④ S級クラスの出来事

 翌日、食堂にて――


 暁が食堂に行くと、狂司の姿があった。


「おはよう、狂司。調子はどうだ?」


 暁が笑顔でそう尋ねると、


「いつも通りです」


 狂司は淡々とそう答えたのだった。


「そっか」


 暁はそう言って微笑むと、水蓮を連れて食べ物を取りに向かった。


 狂司もああ言っているし、これなら今日はいけそうかな――


「先生、なんだか楽しそうだね?」

「おう! 今日は良い日にしような、水蓮!」

「うん!!」


 それから食べ物を取り、席に着いた暁は食堂に生徒たちが揃っていることを確認すると、


「みんな、聞いてくれ! 今日はレクリエーションをするぞ!!」


 笑顔でそう言った。


「まあ先生なら、そろそろそう言うんだろうなって思ってたよ」


 剛はそう言って笑った。


「え!? レクリエーションって何??」


 実来は隣にいる織姫にそう尋ねると、


「さあ、烏丸君に聞けばいいのでは?」


 少々きつめの口調でそう答えた。


「なんで狂司?」

「――わかっているくせに」

「?」


 それから織姫は黙って食事を続けた。


「じゃああとでグラウンド集合な!」

「「はーい」」


 そして朝食を終えた生徒たちは、動きやすい服装に着替えてグラウンドに集合したのだった。




「じゃあみんな揃ったな!」


 暁は生徒たちを前に笑顔でそう言った。


「今日は何をするんだ? また追いかけっこ?」

「は、はあ!? 追いかけっことかするの??」


 実来は驚いた顔でそう言った。


「ケイドロとかもやったな!」

「僕の時は鬼ごっこ? みたいなものをしましたね」

「俺が寝ている間に、そんなこともしたんだな」


 剛は感心しながらそう言って頷いた。


「まるで小学生じゃん……」


 あきれ顔でそう言う実来。


「ちっちっちっ! ここでのレクリエーションは一味違うんだよ!」


 剛が自慢げにそう言うと実来はきょとんとした顔で、


「どういうこと?」


 と尋ねた。


「ここでのレクリエーションは能力の使用が自由なんだ! だから普通のレクリエーションだと思って参加したら、怪我するぜぇ」

「は!? 能力を!? 正気か、それ……?」


 ローレンスは驚いた顔で剛にそう問いかけた。


「まあちゃんとわけがあって、そういうルールにしているんだよな! 先生?」

「おう! というか、そこだけ俺に丸投げか!!」

「まあまあ! あまり先生の役目を奪っちゃいけないって思った俺の配慮だって」


 剛はニヤニヤしてそう言った。


 暁はやれやれと思いながら、剛の顔を見た。


「剛の言う通りだ。能力の使用は、己の能力と向き合ってもらうために許可している。でも本気で相手に怪我をさせようとか命を奪おうとするのは禁止だ」

「もしうっかり怪我をさせちゃったら?」


 実来は心配そうにそう言うと、


「悪意がないのなら仕方がないことさ。でも殺意を持っていると判断したら、それなりの処理をすることになる」


 暁は真面目な顔でそう言った。


「そう、ですか……」


 実来はそう言ってから狂司を見た。


「まあ大丈夫さ! 何かが起こる前に、俺が止めるからさ!」


 暁はそう言ってニッと笑う。


「やっぱ、先生はかっこいいぜ! 俺もそんな教師になるからな!!」

「おう!!」


 暁と剛は向かい合ってそう言った。


「こほん。それで本日の競技は何になりますか?」


 暁たちの間に立った狂司は、急かすようにそう言った。


「ああ、そうだったな! 今日の競技は――」



 * * *



「缶蹴りって……懐かしい響きですね」


 笑顔でそう言う狂司。しかし、


「……」

「……」


 その場にいる織姫とローレンスは何も発することはなかった。


「無視ですか? 泣きますよ?」

「悪い……でもなんて言ったらいいか、わからなくて」

「まったく……それでも――」


 視界に入った織姫の顔を見て、はっとする狂司。そして、


「いえ、何でも」


 そう言いながら俯いた。


 別に、どう思われたっていいはずなのに。僕はまた――


「それで作戦はどうしますか」


 織姫は淡々とそう言った。


「そ、そうだな! それで、どうする?」

「あっちは剛君と如月さん、そして水蓮ちゃんですか」

「俺は剛の能力以外わからないな……」


 ローレンスは腕を組み困った顔でそう言った。


「水蓮ちゃんは石化です。SS級なので、注意してください。その力は強大です」

「そ、そうなのか……」


 驚いた顔でそう言うローレンス。


 おそらくあの幼さで強大な力を持つ水蓮ちゃんに驚愕したってところでしょうか――


「実来は『虫』と言っていましたね。確か虫たちに命令して好きに動かせると言っていました」

「つまり剛君は接近戦、如月さんは遠距離戦。水蓮ちゃんはどちらも万能ですか……僕たち、勝てるんですかね」


 肩をすくめて狂司がそう言うと、


「勝ちます。負けは嫌です」


 織姫ははっきりとした口調でそう言った。


「ええ、それには同感です」

「烏丸君の『鴉の羽クロウ・フェザー』と『集団催眠』で何とかなりますよ」

「織姫さんの『流星群』だって、使い方次第でいくらでも応用が利きますよね」


 狂司はそう言って織姫に微笑む。


「……何ですか、その笑い。気持ち悪い」

「思った事を口にしただけですよ」

「不愉快ですね……」


 そう言って織姫は狂司を睨んだ。


「痴話げんかは勝負がついてからにしないか? 勝ち目のない相手と勝負するんだから、ちゃんと考えようぜ」


 ローレンスは狂司と織姫の方を見て、そう言った。


「わかりました」「はい」

「それと、俺はここにいるやつらの中で一番弱いことは把握済みだ」

「「え?」」


 狂司と織姫はきょとんとした顔でそう言った。


「俺はS級じゃないからな」

「確か『ポイズン・アップル』で強化されているんじゃなかったんですか?」


 首を傾げながらそう尋ねる狂司。


「まあそうだけど、元はC級だからな。あまり期待はしないでいてくれるとありがたい」

「あ、あの! 話が読めないのですが……」


 困惑しながらそう言う織姫。


 そうでした。織姫さんは『ポイズン・アップル』のことを知らないから――


「それはこのレクリエーションの後に話します」


 狂司は織姫の顔を見てそう言うと、


「……わかりました」


 織姫はそう言って頷いたのだった。


 そう。これが終われば、あなたにすべてを話します。たとえ、それであなたに嫌われるのだとしてもね――


 そしてレクリエーションが始まったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る