第79話ー③ 私の守りたかった場所
――実来の自室。
「はあ。疲れた……」
そう言って机にあったスマホを手に取り、ベッドに倒れこむ実来。
こんなのがこれからずっと続くのかな――
「最悪だよ……」
それから手に持っていたスマホに目をやる実来。
「あ……グループチャット盛り上がってるじゃん! 出遅れた……みんな怒ってるかな」
そしてそのグループチャットに書き込む実来。
『ごめん。なんか歓迎会とかされて遅くなった』
そしていったん止まっていたグループチャットが実来のその投稿によって、再び動き始める。
『おつ~。ってか歓迎会とか(笑)』
『よかったじゃん! 実来、歓迎されてるってことっしょwwウケる~』
別に嬉しくも何ともないのに……S級の人たちなんかと仲良くなんてできるわけないじゃん――
『なんか、『みんな仲良し~』みたいな感じでマジうざいんだって。一緒にしないでよ~(涙)』
『よしよし。実来だけは違うってわかってるから! だって、うちら4人ズッ友でしょ?』
『うん! ありがとう!!』
それから実来は数時間、友人たちとグループチャットを楽しんだ。学校であったこと、家族のこと、そして恋バナ。実来はここにいてもみんなと変わらない関係にあることにほっとしたのだった。
『じゃあまた明日ね~』
友人のその一言でグループチャットを終える実来だった。
「私はここの人たちとは違う。普通の高校生なんだから……やっと、できた友達なんだから」
そう。中学生までの私は、根暗でいつも独りぼっちだった――
* * *
約3年前――
教室の端の席で中学3年生の如月実来は1人で読書をしていた。
「今日、帰りどこ行く?」
「ごめん、今日塾だわ~」
「じゃあ仕方ないね。また今度出かけよ!」
そう言って楽しそうに昼休みを過ごす同級生たち。
私も一度くらいは――
そんなことを思いながら、その会話に耳を傾けていた実来。
しかしいくらそう願っていても、誰も実来に声を掛けることはなかった。
そして授業後、実来は誰に声を掛けられることもなく、静かに教室を出て行った。
分厚い眼鏡、三つ編みのおさげ髪。そして目を見て話すことが怖い私はいつも下ばかり見て歩いていた――
「典型的な根暗だもんね……はあ」
それなのに、この高身長――
「女子で身長175cmって何なの。ただでさえこんな根暗で周りからは良く思われていないのに、余計悪目立ちじゃん」
いつもみんな、何も言わずに私の方を見てクスクス笑うんだよね。もしかしたら面と向かって言わないだけで、あの根暗眼鏡、駆逐してやろうぜとか陰口言われてるのかな――
そんなことを思いながら帰宅する実来。それから部屋に籠り、何をするわけでもなくSNSのアカウントを開き、ネットサーフィンをしていた。
「あ、『
巷で有名なバンドの名前くらいは私でもわかった。いつか話のネタになるかもしれないと思っていたから――
そして実来は『ASTER』のあやめが拡散したある動画を観ていた。
『じゃあ聞いて。『風音のプレリュード』――』
その言葉の後に始まる歌。
「この歌、何……」
どこかの屋上で撮影されたライブの映像だった。
手作りのステージで楽しそうにギターを弾く少年と気持ちよさそうに歌う少年。
そしてその少年の歌声に実来は心を打たれる。
「どこのアーティスト? 活動は……?」
しかしその日中、ずっとその歌手の情報を探した実来だったが、一切情報は出ていなかった。
「せっかく楽しみができたと思ったのにな。まあしょうがないか……」
それから実来はいつもの日常に戻って行った。
そして数か月後。本格的な受験シーズンとなり、実来は進学先に悩んでいた。
「実来ちゃん、どうする? 今の学力なら、北高が無難だって先生も行っていたわよ」
母はご飯をよそいながら、実来へそう言った。
そうか、今日は保護者会の日だったね――
「……お母さん。私、遠くの学校に行きたい」
「え? どうしたの、いきなり」
「別にいきなりそう思ったわけじゃない。前からそうしたいなあとは思っていたから。……ダメ?」
実来は懇願するように母の顔を見てそう言うと、
「……わかったわ。でも遠くってどこの?」
ため息交じりに母は実来にそう尋ねた。
「隣の市にあるサクラ学園に通いたい」
「わかったわ。じゃあお父さんにはお母さんから言っておくわね。先生にはちゃんとお話しするのよ?」
「うん」
そして実来はサクラ学園への入学が決まり、春から高校生となった。
入学式当日――
「実来ちゃん、準備できた?」
「う、うん! 今行く」
未来はそう言って部屋から出る。
そして新たな制服に身を包んだ実来を見た母は、
「うん、似合ってるわね。でも、ちょっと意外ね。そんなに短いスカートとコンタクトにするなんて」
驚いた顔でそう言った。
「へ、変じゃない? あと髪型。おさげは卒業しようかなって」
「ええ、下ろしている方が可愛いわ」
母はそう言って微笑んだ。
よかった。せっかくの高校デビューなんだもの。失敗はできないよね――
そう思いながら、微笑む実来。
「じゃあ行きましょう」
「うん!」
それから実来は母と共にサクラ学園へと向かった。
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