第79話ー① 私の守りたかった場所

実来みく、うちらはどこにいてもずっとダチだかんね!」

「そうそう。うちら、4人はズッ友だよお!」

「毎日連絡するから!」


 そう言って微笑む少女たち。


「うん。私も絶対毎日連絡するからね!」


 そう。私達はずっと友達。何があっても、絶対に。私はそう信じていた――



 * * *



 教室にて――


 暁は授業を受ける生徒たちを静かに見守っていた。


 織姫はすっかり気持ちを切り替えたのか、毎日がとても楽しそうに見える。最近は狂司と一緒に何かをしているようだしな。それから剛は大学の授業に苦戦しつつも、毎日が充実しているみたいだ――


 そう思いながら、教室を見渡した。


 そして、


「先生~。ここがわかりません」


 水蓮はそう言って手を上げる。


「ああ、どれどれ……」

「ここです」

「ここはな――」

「なるほど、なるほど……先生、ありがとうございます!」

「おう!」


 それから暁は教壇に戻る。そして水蓮に視線を向けると、その一生懸命頑張る姿に微笑んだ。


 水蓮も小学生か――そんなことをしみじみ思う暁だった。




 授業後、暁は水蓮と共に職員室に戻ると、着信が入っていることに気が付く。


「……所長からか。何だろう……もしかしてキリヤが見つかった、とか!? 早く折り返さなくちゃ」


 それから暁は急いで所長に電話をする。


「お疲れ様です、暁です! すぐに出られなくてすみません。あの、着信の件ですが……」

『ああ、授業中だったよな! すまなかった。それで電話の件だが――』


 そして所長は暁に着信の理由を伝える。


「そうですか、新しいS級能力者が」


 やっぱり、キリヤはまだ見つかっていないんだな――

 

 そう思いながら俯く暁。


『ああ、引き受けてくれるかい?』


 所長のその問いに暁は、今は落ち込んでいても仕方がないだろう――と思い首を振ると、


「もちろんです!」


 笑顔でそう答えたのだった。


「あ、そうだ。そのクラス制度撤廃って……?」

『ああ、話は進んでいるよ。今年はさすがに難しいけれど、来年以降から徐々に実行していくことになっている』

「わかりました。……ありがとうございます!」

『ああ。じゃあ転入生の件は宜しく頼んだよ』

「はい!」


 そして暁は電話を切ると、


「これからまた、忙しくなりそうだな!」


 そう言って背伸びをする暁。


 それからPCを開き、報告書の作成を始める暁だった。




 数日後――


「転入生が来るのって、今日だよな」

「『てんにゅうせい』って?」


 水蓮は暁の方を見てそう言った。


「ああ。新しいお友達、だな!」

「お友達!! 楽しみだねえ」


 水蓮は嬉しそうに笑った。


「ああ、そうだな!」


 そして暁は朝食を終えると、エントランスゲートに向かう。


 どんな出会いになるんだろう。楽しみだな――


 そんなことを思いながら、微笑んでいた。


 そして暁がエントランスゲートに着くと、一台の車が停まっているのを見つけた。


「あれか……」


 暁がそう呟いて車を見ていると、その中から1人の少女が降りてきた。


 すらっと長い脚、そして人形のように小さい顔。そして薄ピンクの髪はとても艶々で丁寧な手入れをされていることがわかった。


 モデルにでもなれるんじゃないか――


 そんなことを思いながら、少女を見つめていた。


「……はっ! そうじゃなくて!」


 そして暁は首を横に振ると、


「お疲れ様! そして初めましてだな! 今日から君の担任になる三谷暁だ。よろしく!!」


 エントランスゲート越しに笑顔でそう言った。


「はい、宜しくお願いします。私は如月きさらぎ実来みくと言います」


 実来は頭を下げてそう言った。


「おう! じゃあ、中を案内するよ!!」

「はい!」


 実来は顔を上げると、笑顔でそう言った。


 それから暁は、実来と共に建物の方へと向かったのだった。



 ――施設内、廊下。


「ここが噂のS級施設……」


 実来はきょろきょろと周りを見ながら、そう呟いた。


「噂!? 外じゃ、どんな噂になっているんだ?」

「そうですね……『はちみつとジンジャー』の結成の地とか、知立凛子を人気アイドルへ成長させた場所とかでしょうか」

「へ、へえ」


 なんだ、ネガティブな噂じゃないのか。よかった――


 そう思ってホッとする暁。


「そしてそんな有名人を育てる担任教師って、暁先生のことも巷で有名ですよ?」


 実来はニコッと微笑んでそう言った。


「お、俺も!?」


 なんでだろう――と一瞬首をかしげたが、以前『はちみつとジンジャー』の取材の時に凛子が自分のことを紹介していたことを思い出した。


 そしてなんだか恥ずかしくなり、苦笑いをする暁だった。


「私もここにいたら、有名人になれますかね?」

「うーん。俺が凛子や『はちみつとジンジャー』の2人に何かをしてやったわけじゃないからな……それは実来次第なんじゃないか?」


 暁が実来にそう告げると、実来は驚いた顔をした。


「え、どうしたんだ……?」

「あ、いえ。何でも」


 そう言って笑顔になる実来。


「そ、そうか……?」


 今の顔、なんだったんだろうな――


 そんな疑問を抱きながら、暁は実来を連れて食堂に向かったのだった。




 ――食堂にて。


 暁が食堂に到着すると、そこには織姫と狂司、そして水蓮がいた。


「お待たせ! 連れてきたぞ!」


 暁がそう言うと水蓮は実来の元に急いで駆け寄り、


「スイの名前は最上水蓮です。小学1年生です! よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げた。


「か、かわいい……じゃなかった。私は如月実来です。水蓮ちゃん、宜しくお願いします。他の皆さんも」


 実来は笑顔でそう告げた。


「宜しくお願いします。私は本星崎織姫です」

「僕は烏丸狂司です。宜しくお願いします」


 織姫と狂司はそれぞれ頭を下げてそう言った。


「それと、もう1人いるんだが……今日はまだ起きてきてないみたいでな」


 申し訳なさそうな顔で実来にそう言う暁。


「いえいえ! またお顔を見た時にご挨拶しますから」


 実来は笑顔でそう言った。


「すまんな……じゃあこの後は織姫に頼むよ! 俺は女子の生活スペースには行けないからな」

「ええ、わかりました。それでは如月さん、行きましょうか」

「あ、はい!」


 そう言って織姫は実来を連れて食堂を出て行った。


 それから狂司は暁の隣にやってくると、


「彼女は少し、気をつけたほうがいいかもしれませんね」


 静かにそう告げた。


「え? 気をつけるって?」


 きょとんとする暁。


「なんでしょう……彼女は今まで出会った生徒とは雰囲気が違うように感じるというか。まあ先生にしてみれば、かわいい生徒の1人であることに変わりはないでしょうが」


 狂司はそう言って暁の顔を見て笑った。


「あ、ああ」

「じゃあ、僕はこれで……織姫さんが戻ってきたら、メッセージを確認しておくようにと伝えてください」

「わかったよ!」

「では」


 そう言って狂司も食堂を出て行った。


「気をつけたほうがいい、か……」


 見た限りだと、普通の女の子だなと思ったけど……狂司には違う風に映ったんだな――


「先生? 困ってるの?」


 水蓮はそう言って暁の顔を覗き込む。


「え? ああ、うん。なあ水蓮」

「なあに?」

「水蓮は実来と仲良くできそうか?」

「うん! スイは実来ちゃんともっともっと仲良くなりたい!!」


 水蓮は笑顔でそう言った。


「ははは。そうか」


 今はまだわからないけど、とりあえず――


「俺は俺らしく、だな!」

「うん!!」


 そして暁は水蓮と共に織姫たちが戻って来るのを待つことにしたのだった。

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