第73話ー⑦ デビュー前の

 夕食後――


 しおんたちは暁に頼んで、屋上でライブをすることとなった。


「ただの打ち合わせで来ただけなのに、まさかライブができるなんてな!」


 しおんはアコースティックギターのチューニングをしながら、嬉しそうにそう言った。


「初めからそのつもりだったくせに、よく言うよ」


 やれやれと言った顔でそう言う真一。


「あはは。ばれてたか」

「そんなのわかるよ。どれだけしおんと一緒に過ごしてると思ってるわけ」

「真一……」


 俺ってなんて馬鹿な心配をしていたのか。昔馴染みじゃなくたって、俺たちの過ごした時間はかけがえのない宝物なんだよな――


「じゃあ行くよ。家族の前だ、恥ずかしい演奏はできないよ」

「そうだな! 俺たちが成長したところを凛子にも見せつけてやるぜ!」


 それからしおんと真一は初めてライブをしたときと同じ、手作りのステージでいつものように歌を届けた。前よりもずっと成長した姿で。


 その歌は聴いていた全員の心を動かし、そして魅了したのだった。



 * * *



 翌日――


 一泊したしおんと真一は帰っていった。


「凛子、またさみしくなるな」


 食堂で朝食を摂る凛子にそう言う暁。


「別に寂しくはありません。それにきっとすぐにまた会える気がしますし」


 それだけ言って、凛子は再び食事を始めた。


 まあ久しぶりにからかえたのは、楽しかったですけどね! だから寂しくなんて――


 そんなことを思いながら、ゆっくりとお茶をすする凛子。


「ははは。凛子がそう言うなら、そうかもしれないな!」


 そして暁は笑いながら、食事を始めるのだった。




 凛子の自室――


「しおん君たちは今まで頑張っていたんですね」


 凛子は自室で昨夜のライブ映像を見ながらそう呟いた。


 真一君の歌唱力は前よりも上がっているし、しおん君のギターも表現の幅が広がっている。卒業から今日まで、きっといろんな経験をしてきたのですね――


「まったく……いい度胸じゃないですか。こんなに私をやる気にさせるなんて。ふふふ☆ 私も『はちみつとジンジャー』の2人には、負けていられませんねっ!!」


 そう言ってニコッと微笑み、スーパーアイドル知立凛子として、今日も活動を始めるのだった。




 それからしおんたちの密着取材の番組の収録がされて、また1か月後。その番組は全国のお茶の間に届けられた。


 そして発売した『はちみつとジンジャー』のデビュー曲。その売れ行きは好調で、『はちみつとジンジャー』はまた世界へと一歩近づいたのでした。

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