第70話ー⑤ 残された子供たち
奏多が食堂に着くと剛と織姫、そして昨日会えなかった凛子の姿を見つける。
「あ、凛子さん!!」
「あれれ? 奏多さん、じゃないですかあ! いらしていたんですねえ☆ あ、おはようございます!!」
「おはようございます! 皆さんも、おはようございます」
そう言いながら、軽く会釈をする奏多。そして食堂にいる生徒たちは「おはよう」と奏多や水蓮に各々で告げる。
「そうだ凛子さん、ご挨拶が遅くなってすみませんでした」
「いえいえ、お構いなくです☆ 私の方こそ、先生に普段お世話になっているのに、ご挨拶が遅れてすみません☆」
凛子はそう言って、ペロリを舌を出した。
「こちらこそ、お構いなくです!」
奏多はそう言って、クスクスと笑った。
「どうせなら、一緒に朝食いかがですかぁ? もちろん水蓮ちゃんも☆」
「ええ、ぜひ」
「ありがとうございます、凛子ちゃん!!」
「いえいえですよ」
そう言って微笑む凛子。
「じゃあ水蓮。食べるものを取りに行きましょう」
「はあい」
そして奏多と手を繋ぎ、食べ物の並ぶカウンターへ向かう奏多と水蓮だった。
そんな2人の後ろ姿を見た凛子は、
「なんだか本当の親子みたいですねえ」
とニコニコしながら織姫にそう告げた。
そして織姫も「そうですね」と微笑みながらそう答えた。
奏多たちが楽しく朝食を摂っていると――
「あれ、お客様ですか?」
そう言って食堂に入ってくる狂司。
「ああ。狂司は初めてだったよな。神宮寺奏多、ここの卒業生だよ」
「神宮寺……ああ。なるほど」
それから狂司は奏多の前まで行き、
「初めまして。僕は烏丸狂司と言います。よろしくお願いします、神宮寺さん?」
笑顔でそう告げた。
「よろしくお願い致します。改めまして、神宮寺奏多と申します」
奏多はそう言って頭を下げる。そして、
「記憶違いだったら申し訳ないのですが……誘拐事件の、烏丸さんではないですよね?」
狂司の顔をまっすぐに見て奏多はそう告げた。
「あはは! ご存じだったんですね。ああそうか、キリヤ君たちがあんなに早く僕らを見つけられたのは、神宮寺さんの手助けがあってということでしたか」
ニコニコしながらそう告げる狂司。
「……何か企んでいるんですか」
そう言って狂司を睨みつける奏多。
「ちょっと待てって! 狂司はもうただのS級能力者としてここにいるんだよ!! だからそんなに警戒するなって!!」
剛はそう言って、奏多と狂司の間に立つ。
「にわかには信じがたいところですが……先生が彼をここへ受け入れたという事はそう言う事なのでしょうね。――烏野さん、無礼があってすみませんでした」
「まあ、誤解されても仕方がないですよね。だから気にしないでください――というか、すでにあまり気にされていませんね」
優雅に紅茶を飲む奏多の姿を見た狂司は、その切り替えの早さに呆気にとられていた。
「うふふ。気持ちの切り替えは早い方ですから」
そう言ってニコッと微笑む奏多。
「ああ、だからあなたなんですね」
ぼそっとそう呟く狂司。
「ほら、狂司もメシ食いに来たんだろ? 早く取りに行ってこいよ! んで、俺と一緒に食おうぜ!」
「はあ。女の子しかいなくて心細いからって……仕方がない人ですね、まったく」
ため息交じりにそう言う狂司。
「そんなんじゃねえし! お、俺は狂司のことを思ってだな――」
「あー、はいはい」
そう言って食べ物の並ぶカウンターへ向かっていく狂司。
「って、聞けよお!!」
そう叫ぶ剛を見て、食堂には久々に生徒たちの笑い声が響いたのだった。
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