第69話ー⑥ 捕らわれの獣たち 前編
「ここへ来て、どれくらいが経ったんだと思う?」
暁は隣で膝を抱えて小さくなって座っている優香にそう告げた。
「私の体内時計だと、約3時間と言ったところでしょうか」
「そうか」
優香がそう言うなら、たぶんそうなんだろうな――と優香の体内時計がなぜか正確のような気がする暁だった。
「でもそれだけ経過しても、一向に何か起こる気配もないな」
「ええ。それに龍海ちゃんは大丈夫でしょうか」
「そうだな……」
優香から聞いた話だと、龍海はもともと『エヴィル・クイーン』と呼ばれる政府の裏組織に使われていた側の人間。もしも裏切って研究所側についたとなれば――
「――まさか殺されたり」
「え!?」
暁の言葉に真っ青な顔になる優香。
「あ、いや、最悪な場合はそうかもって思っただけというか」
「そうなる前に、何とかしなくちゃ」
優香はそう言って、膝を抱える手に力を入れる。
そんな優香を見た暁は、こんなに誰かへ肩入れする優香は珍しいなと思っていた。
「……優香はなんでそんな龍海に肩入れするんだ?」
「なんでって……うーん。やっぱり自分と同じ『ゼンシンノウリョクシャ』だからなんですかね。それと彼女、両親に捨てられて独りぼっちだったところを『魔女様』……恵里菜っていう人に救ってもらったって言っていました」
そう言って悲し気な顔をする優香。
「――なるほど」
「たぶん母親に見捨てられた自分と似ているなって思って、それで大事にしないとって思っていたのかもしれませんね。この子は独りぼっちにしないぞ! みたいな感じでしょうか」
優香はそう言って、暁の方を見ながら微笑む。
「そうだったんだな」
優香は龍海と過去の自分を重ねていたんだな――そう思いながら、優香の微笑むかを見つめる暁。
「あ……そういえば、私の過去を先生は知らないんでしたっけ」
「ああ。優香がいた頃の俺は、生徒の過去のデータは読まなかったからな」
「ということは、今は読まれるんですね」
「あはは。まあ、いろいろあってな。それからはちゃんと読むようにしようって思ってる」
暁はそう言って微笑んだ。
「そうですか」
「それで、その……」
「私の過去でしたね。私が能力に目覚めたきっかけですけど――」
それから優香は自分の過去を暁に語り出した。
母とのこと、前の学校で起きてしまったこと。そしてキリヤが自分を救ってくれたこと。
「なるほどなあ。だから優香はキリヤにだけ、あんなに心を開いていたわけか」
「はい」
「でも、キリヤが女子の生活スペースに黙って入っていたなんて……」
キリヤがまさかそんな――そう思いながら、頭を抱える暁。
「あははは。たぶん桑島さんあたりが怪奇事件の謎を解いてほしいって依頼したんでしょうけど」
それなら仕方ないか――そう思いつつ、暁は笑った。
「優香はキリヤに一人じゃないってことを教えてもらって、それを龍海にも教えてやりたいから傍にいるんだな」
「はい! だからこんなところで捕まっている場合じゃないですよね」
「そうだな! でも、ここからどうやって脱出したら――」
そして暁の肩をそっと叩き、口元に指を添えてから優香は自分の襟を指さした。優香の指が差された場所には、小さな電子機器が取付けられていた。
そうか、さっき白銀さんが優香に抱きついたときに付けたもの――
どんな用途に使われる器械なのかは暁にはわからなかったが、おそらく通信系の機器であることだけはなんとなく察した。
研究所がどう動くのか――暁はそう思いながら、所長たちを信じるしかなかった。
「私たちはなるべくここで多くの情報を収集しましょう。それがきっとこの先、役に立ちますから」
「ああ」
暁はそう言って、強く頷いた。
* * *
――研究所。『グリム』基地内。
「拓真君。それで優香君たちの様子は――」
ゆめかは不安な表情で、モニターを見つめる情報担当の
「ええ。今のところは無事のようですよ」
「そうか」
拓真の話を聞いて、ほっとするゆめか。
「あれ、でもこの場所って――」
画面にある赤い点が指し示す場所を見て、拓真は何かに気が付いたようだった。
「どうしたんだい?」
そう問われた拓真は、ゆめかの方へ身体を向ける。
「前に僕たち『グリム』のメンバーが呼び出された会議室がありましたよね」
「ああ。確かあれは政府が管轄している建物だったね」
「はい。どうやらそこの地下室に閉じ込められているようです」
「そうか……」
隔離というくらいだから、もっと山奥のどこかへでも連れていかれると思っていたけれど――
ゆめかはふとそんなことを思う。
「どうしますか? 助け出そうと思えば、すぐにでも動ける距離ですよ」
「いや。私達が動けば、『グリム』だけじゃなくこの研究所もS級の保護施設の存在も危ぶまれる。もっと慎重に動かないとね」
ゆめかは顎に手を添えてそう告げた。
「でも悠長に待っていられるほど、事態が落ち着いているとは思えませんが……」
拓真はそう言って俯く。
拓真君の意見も頷ける。でもダメだ。動くべき今ではない――ゆめかは画面を見つめながら、そう思っていた。
「あ、所長から『コール』来てますよ。全員ミーティングルームに集合ですって」
「ああ」
それから2人はモニタールームを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます